「コミュニケーション・ディスタンス」克服の道 【3】

新型コロナ対応で評価された企業、シャープが第1位になった理由

  • 松﨑 祥悟

    ブランドコミュニケーション部 コンサルタント 松﨑 祥悟

新型コロナウイルスの感染が拡大する中、企業はいろいろな対策に取り組みました。そうした活動を通して高く評価された企業もあります。どんな企業がどんな活動を通して評価されたのでしょうか。調査結果から、評価された企業とその理由について分析してみました。
実施日:2020年4月21日~27日
対象:国内の企業・組織に所属するビジネスパーソン
母数:有効回答数1556件

【コロナ調査結果】
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日経BPコンサルティング(東京都港区)はビジネスパーソンを対象に新型コロナウイルスに関する調査を実施(2020年4月)し、その中で企業の取り組みとして「好感をもった、魅力的に映った、高く評価した」企業名を挙げてもらいました。回答方法は、思い浮かんだ企業名を3つまで記入する「企業名想起設問」としました。

表1 「企業名想起率」ランキング TOP20
-日経BPコンサルティング
「新型コロナウイルスによる業務への影響と、その対応に関する調査」より
順位 企業名 企業名想起率(%)
1 シャープ 32.9
2 東芝 3.8
3 トヨタ自動車 3.2
4 アイリスオーヤマ 3.0
5 ソフトバンク 2.8
6 パナソニック 2.1
7 アパホテル 2.0
8 富士フイルム 1.8
8 ライフコーポレーション 1.8
10 GMOインターネット 1.7
11 資生堂 1.4
12 ソニー 1.3
13 スギ薬局 1.1
14 清水建設 1.0
14 全日本空輸 1.0
16 キヤノン 0.9
16 日本マクドナルド 0.9
18 イオン 0.8
18 オリエンタルランド 0.8
18 グーグル 0.8
18 島津製作所 0.8
18 テレビ東京 0.8
18 本田技研工業 0.8
18 日本マイクロソフト 0.8
18 吉野家 0.8
18 楽天 0.8
18 ローソン 0.8
  • ※記入された企業名を集計し、ランキングにしたもの。
    実際の回答には、大阪府、東京都という地方自治体や個人などの回答も寄せられた。
    有効回答数は、1556。
  • ※企業名想起設問:「ここ数か月、コロナの感染防止のため、休校・休業などにより社会生活に多大な影響がでています。このような社会情勢の中、企業や団体などで様々な取り組みがなされています。そのような取り組みを一般的な報道、広告や宣伝・広報活動などで見聞きした結果、あなたが「好感をもった、魅力的に映った、高く評価した」企業を3つまで教えてください。また、その企業の取り組みについても、あなたのわかる範囲で結構ですので教えてください。」

上位10社とビジネスパーソンからの評価コメントは以下の通りです。

第1位のシャープ、他社に先行したマスク製造・販売で2位以下を圧倒

企業名想起率32.9%と他を大きく離して第1位となったシャープは、マスクの製造・販売に関して多くの人の好感を得ています。

  • 既存工場のラインをマスク製造に切り替え、マスクの提供に寄与した
  • 異業種であるマスク生産の取り組み開始が早かった
  • マスク市場への参入スピードが非常に早く、経営判断および現場力とも素晴らしい
  • 既存工場を使っての医療用マスク製作への取り組みの早さ

第2位東芝、外出自粛要請に応える「全社休業」が将来の期待感も生む

第2位の東芝(3.8%)は、外出自粛を求める社会の要請に応える形で、いち早くグループ全体で全拠点原則休業を決断したことが高く評価されました。

  • いち早く全社的な長期休業に踏み切った
  • 感染が拡大する中、企業活動の完全停止を行い、新型コロナウイルスの感染抑制に取り組んでいる
  • この機を契機として働き方改革へつなげようとしている

第3位~第6位、不足する医療物資へのいち早い支援が支持を得る

第3位トヨタ自動車(3.2%)、第4位アイリスオーヤマ(3.0%)、第5位ソフトバンク(2.8%)、第6位パナソニック(2.1%)の4社は、世の中に不足するマスクや人工呼吸器などの医療機器の製造や販売を支援する取り組みにより多数のビジネスパーソンに支持されました。

  • 医療物資の不足を受け、他業種でありながら不足物資を製造(トヨタ自動車)
  • 市場にほとんどなくなった時期からマスクを生産販売していて時代に敏感である(アイリスオーヤマ)
  • マスクをはじめとする各種医療関係品の無利益での供与(ソフトバンク)
  • マスクなど医療関係の生産体制を構築し、実生産している(パナソニック)

第7位~第10位、既存事業活動をもとにした取り組みにも評価が集まる

第7位のアパホテル(2.0%)、同率第8位の富士フイルム(1.8%)とライフコーポレーション(1.8%)、第10位のGMOインターネット(1.7%)の4社は、これまで行ってきた事業活動をもとにした取り組みにより好感をもたれた企業です。

  • コロナ感染者へのホテルの積極的協力(アパホテル)
  • 抗インフルエンザウイルス薬「アビガン」増産への対応(富士フイルム)
  • 全従業員への一時金の給付(ライフコーポレーション)
  • 素早いテレワークへの切り替え、印鑑の廃止など(GMOインターネット)

具体的な取り組みとして評価される「マスク」関連

さて、具体的にどのような取り組みが評価されたのでしょうか。それを確認するために、取り組み内容をキーワードとして、それを含む評価コメントの数をカウントしてみました(下の表)。

表2 「評価する取り組み」別ランキング TOP15
-日経BPコンサルティング
「新型コロナウイルスによる業務への影響と、その対応に関する調査」より
順位 取り組み内容 率(%)
1 マスクの増産・生産・販売など 39.8
2 出勤停止・テレワークの導入 7.4
3 製品・サービスの無償提供・割引提供 4.9
4 感染者への施設・設備の貸し出し・提供 4.1
5 従業員への特別手当の支給 3.9
6 営業・活動の自粛 3.8
7 (全社的な)休業対応 3.6
8 医療機器の増産・生産・販売など 3.3
9 必要な情報提供・発信 2.7
9 店内飲食の中止、テイクアウトの推奨 2.7
11 除菌剤・消毒薬の増産・生産・販売など 2.5
12 新型コロナウイルス用の新薬の増産・開発 2.3
13 公共性のある事業の継続性 1.8
13 医療支援 1.8
15 建設・工事現場の休止 1.2
15 寄付行為 1.2

最も多かったのは、調査の実施期間に不足が指摘されていた「マスクの増産・生産・販売など」で、39.8%。これに、「出勤停止・テレワークの導入」7.4%、「製品・サービスの無償提供・割引提供」4.9%が続きます。

同じ「マスク」の製造でも「シャープ」が支持される理由

「マスクの増産・生産・販売など」が評価コメントにある企業は、シャープを含め26社に上りました。想起された企業だけでも26の“マスク対策”企業がある中で、ではなぜシャープが飛び抜けて多くのビジネスパーソンに強くアピールしたのでしょうか。

シャープを評価する声を調べると、「いち早くマスクの生産に乗り出した」「マスクの生産事業へのいち早い取り組み」「自社の技術でいち早く、消費者の声に応えた」など、「いち早い」マスクへの対応を推す声が多くありました。これが理由でしょうか。ちょっと確認してみましょう。

マスクに関しては2020年に入り、経済産業省がマスク生産設備導入を支援する事業費補助金の公募を複数回にわたって実施しました。これに応募する企業は「国の要請に応える」企業となるわけです。その第1回では、興和、XINS、ハタ工業の3社が採択されています(経済産業省が2020年2月28日に発表)。シャープが採択されたのは第2回目でした(同3月13日)。この状況だけを見ると、シャープは決して「いち早い」グループにいたわけではありません。それでもシャープの名前が強くビジネスパーソンの印象に残った理由は、二つあるように思います。

一つは発表のタイミングです。シャープは2月28日にマスクの生産を決定したと発表しました。同日夜にはネットで話題となったのですが、実はこの日は経済産業省が第1回の採択事業者を発表した日です。ですから、ネットなどでニュースを受け取る人にとって、このタイミングで名乗りを上げたシャープは「いち早く」対応した企業の一つと映ります。シャープは採択されるのを待って発表するのではなく、自ら決定した企業の活動計画を自らのタイミングで素早く発表したわけです。

もう一つはインパクトでしょう。経済産業省の公募の第1回に名前の挙がった採択企業は、すでになんらかの形でマスク製造に関わっていた企業です。ですが、シャープはまったくの異業種です。未経験の商品ながら、それでも社会貢献を決めた決断にニュースの読者は拍手を送り、またその実行力に感心したのだと思います。

シャープはマスクの個人向け販売でも話題を集めました。4月21日にWeb販売を始めたところ、予想を上回るアクセスがあったために、販売方式を抽選に変更したのです。倍率は118倍でした(4月28日に発表)。日経BPコンサルティングのこの調査(実施日は4月21日~27日)に協力していただいた回答者は、タイミング的に倍率の数字までは知り得ないでしょうが、応募が殺到していた状況については知っていて、強い印象を受けていたのではないでしょうか。

テレワーク導入、将来のビジョンはどれだけあったか

マスク以外の取り組みについても見てみましょう。2位に入った「出勤停止・テレワークの導入」はどうでしょう。今回、挙がった企業のうち、34社の評価コメントに「出勤停止」または「テレワーク」の文字がありました。実は今回、これが、対応した企業の数としては最も多い取り組みでした。

ただし、「出勤停止」と「テレワーク」は微妙に違います。どちらも通勤の混雑を抑制する対策ではありますが、休業とすることで「出勤停止」を実施する企業もありました。そこで「テレワーク」に注目して改めて見てみました。すると、GMOインターネット、資生堂、グーグル、島津製作所、テレビ東京などがテレワークで評価されていました。

テレワークで評価された企業名を表1で確認すると、GMOインターネットが10位で最も高く、これに11位の資生堂が続きます。グーグル、島津製作所、テレビ東京の3社は同率18位でした。なぜGMOインターネットが、知名度で勝る資生堂やグーグルより上位だったのでしょうか。気になるので少し詳しく見てみましょう。

GMOインターネットは、政府の緊急事態宣言が出るはるか前、1月27日の時点で、テレワークへ移行しました(新型コロナウィルスの感染拡大に備え在宅勤務体制へ移行)。発表時期が早かっただけではありません。その後、採用選考や入社式のオンラインへの変更など新型コロナウイルス感染防止に向けた取り組みをこまめにリリースで発信しています。中でも印鑑の完全廃止(お客様手続きの印鑑を完全に廃止・契約は電子契約のみへ)を行っていて、これを高く評価する声もありました。しっかりと先を見たBCP(事業継続計画)を構築してきた成果なのです。

社会貢献と事業継続、両方を見据えることが大事

新型コロナ感染という非常時において、高く評価される企業とはどのような企業なのか、改めて確認してみましょう。

調査から見えてきたことは、まず世の中で求められていることに対して自社はどのような貢献ができるのかをきちんと把握しているということでしょう。たとえその答えが未経験の取り組みだとしても社会貢献としてやるべきかどうかを素早く決断すること、そしてその決断をタイムリーに発信すること、そして速やかに着実に実行に移すことが大事です。

対策が、その場の短期的な対応に終わらないよう、将来を見据えたBCP(事業継続計画)をしっかり作っておくことも重要なことです。

連載:「コミュニケーション・ディスタンス」克服の道

ブランドコミュニケーション部 コンサルタント
松﨑 祥悟(まつさき・しょうご)

これまでCSRレポートや統合報告書だけでなく、採用ツール、会社案内などの企業が発信すべき情報をステークホルダーに対応した形でお届けするカスタムメディアの制作に従事。紙、映像、Web、リアルイベントなど媒体ごとの特性も生かし、コミュニケーションを通じた企業の価値向上を支援。SDGsデザインセンター、周年事業センターのコンサルタントを歴任。