巻き込む!オウンドメディアの作り方 第6回

ディスプレイスで商品の価値を変えてみる(前編)

2017.05.31

コンテンツマーケティング

  • 山本 由樹

    株式会社「編」代表取締役社長 山本 由樹

企業や組織にとって、オウンドメディアは今や必要不可欠のコミュニケーションツールです。しかし、闇雲に企業都合のPR活動を行っても逆効果です。ターゲットに届くオウンドメディア制作のポイントを、多彩な実績を誇るカリスマ編集者であり、数々のブームの仕掛け人でもある当社の編集アドバイザー、山本由樹氏が伝えます。

前回は「過去と未来」をフュージョンすることによって、モードという突き抜け方をするファッションブランドについて考えました。今回は位相を「ずらす(ディスプレイス)」というテクニックについて語りましょう。

「ずらす」とは文字通り置かれた場所を変える作業です。
『置かれた場所で咲きなさい』というミリオンセラーがありましたが、置かれた場所で咲いても実際は目立たないので、違う場所で咲かせてみます。すると全く違う価値観が付与されて、突き抜けて見えてくるのです。

ディスプレイスの第一歩は、商品の立ち位置の再確認から

「ずらす」方向は幾つか考えられます。
今回はある商品をテーマに、ディスプレイスの実例を考えてみましょう。
例えば、「化粧水」なんていかがでしょう?
価格も機能もブランドも出尽くした感のある超レッドオーシャン商品です。

あなたはあるコスメメーカーの商品企画室に在籍しています。
長い間会社の収益の柱であった、『潤い水』という化粧水のリプロモーションを考えています。これまでのターゲットは「主婦層」で、当初の設計は「20〜30代」というところでしたが、商品の長寿化に伴い顧客も「50代以上」と高年齢化してきました。そのため売り上げは緩やかな右肩下がりを描き、今のうちにリフレッシュさせて売上の減少に歯止めをかけたいところです。
主な売り場はドラッグストアや大型ショッピングセンターです。

今回はリプロモーション案なので、商品自体の変更は伴っていません。
ただ企画内容によっては、多少のリニューアルなら許容できるというのが会社の方針です。
現状をまとめてみましょう。

【商品仕様1:ずらす前】

商品名 潤い水
価格 1,620円(税込)
売り場 ドラッグストア、ショッピングセンター
ターゲット 50代以上の主婦
機能 ヒアルロン酸で保湿
新商品コピー たっぷり使えて、しっとり潤う220ml!

価格が安い割に大容量というのが現在の売りになっています。化粧水なんてほとんど水ですからそれなりに利益は出ているのですが、『潤い水』でなければという顧客はあまりいないという厳しさもあります。
では、『潤い水』の現状をポジショニングマップにしてみましょう。

潤い水のポジショニング:ずらす前
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こうして見ると、百貨店とは競合していないものの、通販コスメとはかなり競合していることがわかります。実際『潤い水』は通販ではあまり動かない商品です。通販専売のコスメやコスメの評価サイトで話題になるような商品とは、やはり違いがあります。
毎日の買い物ついでに大根や豚肉と一緒に買って帰る。そんな購買シーンがふと目に浮かんできます。

“ずらし”がイノベーティブな企画を生む

現状のポジショニングでディスプレイスしてみましょう。
価格軸を「安い」から「高い」にずらすことはできるでしょうか?

新商品なら可能かもしれませんが、リプロモーションでは解決できません。
容量軸を「多い」から「少ない」にずらすことはできるでしょうか?
確かに『潤い水』は大容量なので、旅行などの持ち歩きには重すぎます。
『小さいサイズの潤い水』は商品化できるかもしれませんが、大きな需要は無さそうです。
価格と容量の評価軸では、突き抜けた企画は生まれそうにありませんか?
実はひとつあるんです。それは「多い」にもっとディスプレイスすることです。
『常識外れに超大容量の潤い水』を商品化するのです。

潤い水のポジショニング:ディスプレイス①-容量軸を“多い”方へずらす
20170531_2.png

化粧水の常識を外れるくらいの大容量、500mlや1ℓくらいあってもいいかもしれません。商品名もコピーもこれを機会に変更します。

【商品仕様2:容量軸を“多い”方へずらす】

商品名 常識外れに超大容量の全身潤い水
価格 5,400円(税込)
売り場 ドラッグストア、ショッピングセンター
ターゲット 家族
機能 ヒアルロン酸で保湿
新商品コピー 家族みんなでたっぷり潤う、超大容量1

容量を常識外れにディスプレイスさせた結果、ターゲットが「主婦」から「家族」へと広がりました。化粧水は女性の使うものというイメージの強い商品ですが、家族へとターゲットを広げることで、新たな市場を開拓できる可能性が広がります。
今までも男性用の化粧水などは発売されていましたが、市場としてはあまり大きなものになっていません。それは男性側に「俺の肌に高い金かけなくていい」という抵抗感があるからでもありますが、この商品であればバシャバシャ使えます。
容量が多いので顔だけでなく、全身にも使えます。
また子供などの敏感肌にも対応できるように、アルコールフリーの商品展開をする方法もあります。これはリニューアル程度の商品開発に当たるかどうかは、私は詳しくないのでなんとも言えませんが、こんな感じでしょうか。
価格はちょっと上げてもよさそうです。

【商品仕様3:ターゲティング変更+アルコールフリー化】

商品名 常識外れに超大容量、しかも敏感肌の全身潤い水
価格 6,480円(税込)
売り場 ドラッグストア、ショッピングセンター
ターゲット 家族
機能 アルコールフリー、ヒアルロン酸で保湿
新商品コピー 家族みんなで敏感肌でもバシャバシャ使える、超大容量1ℓ!

『潤い水』のターゲティングを家族へと変更することは、マーケティング戦略だけでなく商品そのものの見直しへと繋がりそうです。その先には大きな市場を開拓できる可能性さえあるでしょう。
これだけのイノベーティブな発想が、ちょっと商品の置かれた場所をディスプレイスしただけでできるのです。

次回は、このディスプレイスの続きです。

山本 由樹

株式会社「編」代表取締役社長 山本 由樹

1986年光文社に入社。週刊女性自身で16年、その後「STORY」創刊メンバーとなる。2005年~2011年同誌編集長。2008年には「美STORY(現美ST)」を創刊し、「国民的美魔女コンテスト」を開催。美魔女ブームを仕掛ける。2013年9月に株式会社giftを設立するとともに、自立したアラフォー女性をターゲットとした月刊誌「DRESS」を創刊。読者のコミュニティDRESS部活は30以上の部活数、3万人以上の部員が集っている。編集長退任後は「編」にてメディアの枠を超えたコンテンツ・プロデュースをしている。2017年9月まで日本テレビ『スッキリ』でレギュラーコメンテーターを務める。 著書/「『欲望』のマーケティング」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、「会社を辞めても辞めなくてもどこでも稼げる仕事術」(共著・SBクリエイティブ)

※肩書きは記事公開時点のものです。

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