巻き込む!オウンドメディアの作り方 第5回

企画力を身につけよう ファッションはフュージョンでモードになる

2017.05.10

コンテンツマーケティング

  • 山本 由樹

    株式会社「編」代表取締役社長 山本 由樹

企業や組織にとって、オウンドメディアは今や必要不可欠のコミュニケーションツールです。しかし、闇雲に企業都合のPR活動を行っても逆効果です。ターゲットに届くオウンドメディア制作のポイントを、多彩な実績を誇るカリスマ編集者であり、数々のブームの仕掛け人でもある当社の編集アドバイザー、山本由樹氏が伝えます。
今回はファッションの世界を例に、企画におけるフュージョンメソッドを見ていきます。

前回はPPAPを例に取りながら、フュージョンメソッドについて語りました。
大切なのは「違和感と非常識」をフュージョン(融合)すること、ということまでお伝えしました。PPAPの最も際立ったフュージョンは「突き刺す」という行為にあったわけです。

ファッションの世界ではフュージョンは最も有効なクリエイティブの方法です。
宿命的に「今」をテーマとしなければならないファッションブランドは、ブランドの遺産である「過去」のデザインとフュージョンさせることによって、突き抜けようとします。
「過去のレガシー」と「今の感覚や流行」「今の素材や技術」、つまり「今そのもの」とフュージョンするのです。過去の否定ではなく、過去と今を融合することによってより新しさが際立ってくるのです。

歴史あるブランドに見るフュージョンの数々

実際、歴史があるブランドは過去のレガシーを引用したデザインを、頻出させています。
例えばシャネル。ココ・シャネルが生み出した「シャネルスーツ」も「チェーンバッグ」も、毎年のコレクションで大御所カール・ラガーフェルドによってリニューアルされています。

2016年のAWコレクションから。 デザイナーはカール・ラガーフェルド。 (C)showbit/amanaimages

2016年のAWコレクションから。デザイナーはカール・ラガーフェルド。
(C)showbit/amanaimages

あるいはディオール。クリスチャン・ディオールの過去のデザイン、例えば有名な「バージャケット」からインスパイアされたデザインなどは、実によく再登場しています。

ルイ・ヴィトンはどうでしょうか? 服のコレクションも発表していますが、基本はバッグのブランドです。過去のアーカイブというよりも、定番として売れ続けているバッグによって支えられているブランドといっていいでしょう。とはいえ、流行感を失ってしまうとあっという間に過去のブランドになってしまいます。そのために彼らが選んだ手法は、現代を代表するアーティストとコラボすることでした。有名なところでは日本のアーティスト村上隆とのコラボでしょう。モノグラムと呼ばれるLVマークの柄の上に、アニメ的なキャラクターのプリントを描いたり、さまざまな色をミックスした「マルチカラー」はブームにさえなりました。流行しすぎて、今となっては持つのが恥ずかしい。それもまた「モード」の世界に生きる宿命でもある訳です。

ブランドの過去のアーカイブに限らず、すでに一般化したデザイン遺産を今の感覚でモードに変える手法はたくさん見られます。例えばライダースジャケットという、よくロックミュージシャンが着ている革のジャケットがあります。すでに様式化されたデザインですが、その原点をいつ誰が生み出したのか、実のところよく分かっていません。ライダー(バイク乗り)のために機能性を満たす目的で作られたものが、いつの間にか一般化していたというものです。
そのライダースジャケットを最近ではサンローランやディオールが取り入れて、新しいモードなライダースに生まれ変わらせています。私も欲しいなあとよく思うのですが、40万円を超える価格を見るとタメイキを吐いてしまいます。

「過去を知る」とは「アイデアをもらう」と同義

モードとは「流行」という意味ですが、去年のモードと今年のモードは違うものです。今年でしか存在しえない感覚に付加価値をもたらすもの。それが過去のデザイン遺産という訳です。あえて図解するとこうなります。

今 + 過去 = モード

今と過去を融合させるという手法は、さまざまなシーンで使われています。
クリエイターにとって「過去を知る」とは、「アイデアをもらう」と同義だとさえ言えます。
この連載の第2回でも言いましたが、アイデアとは無から有を生む作業ではなく、有から有を生み出す作業です。天才でもない限り、歴史上どこにもないアイデアなんて生み出せません。ただ、下手にアイデアをもらい過ぎると「パクリ」と言われてしまいますから要注意です。
あらかじめ「あの作品をリスペクトした」という言い方もできますから、クリエイターの方々は戦略を間違わないように注意してください(笑)。

記憶に新しいところでは東京オリンピックのロゴデザインのパクリ疑惑があります。あのデザインをした佐野研二郎はとても優れたアートディレクターで、過去の仕事も高く評価されている方なのですが、インターネットの時代という不幸もありました。そう、画像検索というヤツです。類似画像を世界中から探せてしまう現代では、簡単に元ネタ(かどうかは本人のみぞ知るですが)が判明してしまいます。
元ネタ(かどうかは本人のみぞ知る)が誰も知らなかったベルギーの美術館のロゴデザインではなく、1964年の東京オリンピックの亀倉雄策のデザインを「リスペクト」したと言ったら、もしかしたら許されたのではないかと想像したりします。実際、佐野デザインのロゴにある赤い丸は、亀倉デザインの日の丸を強く思わせるところがあります。

国旗を思わせるモチーフは今のオリンピックのデザインではNGとされているそうなので、堂々と日の丸を主張できないという事情はありますが、今見てもとてもシンプルで突き抜けたデザインです。

その亀倉雄策の言葉を引用して今稿を終えたいと思います。
「われわれ日本のデザイナーに課せられた問題の一つに伝統がある。伝統はデザイナーにとって重荷であるが、これを拒否することはできない。われわれはわれわれの伝統を一度分解して、新しく組み立てる義務がある」(「亀倉雄策」・ggg Books別冊)

山本 由樹

株式会社「編」代表取締役社長 山本 由樹

1986年光文社に入社。週刊女性自身で16年、その後「STORY」創刊メンバーとなる。2005年~2011年同誌編集長。2008年には「美STORY(現美ST)」を創刊し、「国民的美魔女コンテスト」を開催。美魔女ブームを仕掛ける。2013年9月に株式会社giftを設立するとともに、自立したアラフォー女性をターゲットとした月刊誌「DRESS」を創刊。読者のコミュニティDRESS部活は30以上の部活数、3万人以上の部員が集っている。編集長退任後は「編」にてメディアの枠を超えたコンテンツ・プロデュースをしている。2017年9月まで日本テレビ『スッキリ』でレギュラーコメンテーターを務める。 著書/「『欲望』のマーケティング」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、「会社を辞めても辞めなくてもどこでも稼げる仕事術」(共著・SBクリエイティブ)

※肩書きは記事公開時点のものです。