巻き込む!オウンドメディアの作り方 第8回

非常識を現実にする「突破力」

2017.07.20

コンテンツマーケティング

  • 山本 由樹

    株式会社「編」代表取締役社長 山本 由樹

前回まで企画を突き抜けさせる二つの思考方法、「フュージョン」と「ディスプレイス」について語ってきました。今回は現実のビジネスの成功例を見ながら、成功の要因となる突き抜ける力=突破力についてまとめたいと思います。

いきなりですが質問です。

Q 「いきなり!ステーキ」と「エニタイムフィットネス」の共通点をあげよ。

ウェブサイトは以下のリンクからチェックしてください。
いきなり!ステーキ
エニタイムフィットネス

「いきなり!ステーキ」の好調は皆さんも既にご存知でしょう。
ステーキをグラム単位で注文して食べる形式のチェーン店で、サイドメニューも最小限。文字通り「いきなりステーキを食べる」ことができる。立食形式などサービスはミニマムだが、その分価格は低く抑えられ、美味しいステーキを安く食べたい人たちに人気です。「肉マイレージカード」というポイントカードが発行されていて、食べた肉の重さの累積によってサービスも受けられます。

「エニタイムフィットネス」はご存知でしょうか?アメリカから来た24時間営業のフィットネスジムで、深夜や早朝でも利用できるため、時間の限られたビジネスマンに人気で、チェーン店を急速に増やしています。

なぜこの2店を取りあげるのか?
それは両方とも私がカスタマーとして愛用しているからです。
日頃利用しているからこそ見えるものがあるわけです。

では、いきなり!回答です。

A どちらも大成功している。

そりゃそうですよね。

大成功へ導いた共通点

では、どのくらい成功しているかみてみましょう。
「いきなり!ステーキ」を運営するペッパーフードサービスは、「いきなり!ステーキ」の成功によってふた桁成長を続けています。2017年は通期で280億円を超える売り上げを予想。今最も勢いのある外食チェーン店。
いきなり!ステーキは2013年に第1号店を銀座にオープン。2017年6月末で130店舗に拡大しました。

「エニタイムフィットネス」は2017年4月末で国内200店舗になった。2010年に第1号店を調布にオープンしてから急成長を遂げている。運営元であるファストフィットネスジャパンの発表によると、「エニタイムフィットネスは、地球上で最も急速に成長しているフィットネスクラブ・フランチャイズです。2002年、ミネアポリスの第1号店を皮切りに、現在、世界25カ国3,500店舗超がオープンしています」とある。

とにかく、どちらも急成長しているわけです。
共通点はまだあります。

A どちらもディスプレイスしている。

高級ステーキ店 → 立ち食い = いきなり!ステーキ

ジム → コンビニ = エニタイムフィットネス

「いきなり!ステーキ」は本来なら高級店でしか味わえなかった「厚切りステーキ」を、半額で提供するために回転率を高める必要があり、「立ち食い」という業態にディスプレイスした。
「エニタイムフィットネス」は24時間行けるジムにするために、「コンビニ」的業態にディスプレイス。コンビニはスーパーマーケットに比べて小さくて品数も少ない代わりに、いつでも気軽に行ける。同じように「エニタイムフィットネス」にはプールやジムはない代わりに、コンビニ程度の広さがあれば開業できる身近感を取り入れた。

外食産業やジムという「成熟産業」で大きな成長は期待できない業界に、全く異質の価値観にディスプレイスして新しいサービスに転化したこの2社。発想の根本はカスタマーのベネフィットを最優先に考える「カスタマーセントリック思考」にあるのだと思います。
カスタマーセントリックは単純に「顧客中心主義」と言い換えてしまうと、おそらく全ての会社が「我が社も顧客中心主義だ」と言いかねないでしょう。
ここで学ぶべきは「高級ステーキを半額で提供するため」とか「24時間行けるジムにするため」という顧客の利益を実現するために、業態から突き抜けた発想を実現する力です。それが「突破力」なんだと思います。

「時代の価値観」を味方につけよう

「いきなり!ステーキ」は肉を安く提供する代わりに、サービスはほぼ皆無です。客は肉を注文して、立ったまま食べてすぐに出て行く。
「エニタイムフィットネス」は24時間利用できる代わりに、深夜早朝はスタッフがいません。客は無人のお店にキーを使って入って、終わったら出て行く。実はここにはもうひとつの共通点が隠されています。

A サービスを限定している。

「顧客の最大ベネフィット」のためにサービスを限定する。
それが受け入れられる背景には、「立ち食い」や「コンビニ」といった「時代の価値観」をフュージョンしたということが理由としてあげられるでしょう。

まとめるとこうです。

突破力 = 顧客の最大ベネフィット × 時代とのフュージョン

おまけの共通点もあげておきましょう。

A ネーミングが業態を表している。

分かりやすさは大切です。
「宅急便」も「セブンイレブン」(元々は7時から11時までの営業だった)も、いいネーミングは業態そのものを表していたりします。
そうそう、「いきなり!ステーキ」の成功のヒントとなった「俺のフレンチ、イタリアン」なども、シェフを前面に立てた業態そのものが店名になっています。ネーミングも突破力の大きな要素です。

非常識とされることも、顧客の最大ベネフィットのために突破する。
実現してみればいつの間にか当たり前のサービスになるものです。
そんな「突破力」について今回は考えてみました。

山本 由樹

株式会社「編」代表取締役社長 山本 由樹

1986年光文社に入社。週刊女性自身で16年、その後「STORY」創刊メンバーとなる。2005年~2011年同誌編集長。2008年には「美STORY(現美ST)」を創刊し、「国民的美魔女コンテスト」を開催。美魔女ブームを仕掛ける。2013年9月に株式会社giftを設立するとともに、自立したアラフォー女性をターゲットとした月刊誌「DRESS」を創刊。読者のコミュニティDRESS部活は30以上の部活数、3万人以上の部員が集っている。編集長退任後は「編」にてメディアの枠を超えたコンテンツ・プロデュースをしている。2017年9月まで日本テレビ『スッキリ』でレギュラーコメンテーターを務める。 著書/「『欲望』のマーケティング」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、「会社を辞めても辞めなくてもどこでも稼げる仕事術」(共著・SBクリエイティブ)

※肩書きは記事公開時点のものです。