巻き込む!オウンドメディアの作り方 第12回

原点を振り返るというオウンドメディアの役割

2018.04.02

コンテンツマーケティング

  • 山本 由樹

    株式会社「編」代表取締役社長 山本 由樹

前回は、企業がユーザー向けに情報発信する際、消費者の観点に立つことが大切だとお伝えしました。今回は、オウンドメディアの役割の一つ、企業理念の原点を振り返るという点について考えます。

旅行会社大手のHISの澤田秀雄会長が、長期のひとり旅に出るそうです。3月からと報道にあったので、もうすでに旅立ったのでしょうか。3カ月から半年の間、連絡はできるだけとらず、詳細な日程も決めずに世界中を回るそうです。正直、うらやましい。

  • 「最近は自分の発想が豊かでなくなった。世界の変化から刺激を受けたい」
  • 「原点回帰の旅」
  • 「人間死ぬときは死ぬ」

澤田会長は西日本新聞の取材にそう語っています。上場企業の最高経営者が長期間不在にするというのは、とても勇気のある決断です。

大学生時代には50カ国以上を旅したという澤田会長
大学生時代には50カ国以上を旅したという
澤田会長
©共同通信社/アマナイメージズ

HISは1980年の創業で格安航空券を世に広めて急成長した会社です。私も大学時代に初めてヨーロッパに行った時、HISで格安航空券を買い、『地球の歩き方』を持って旅に出たことを覚えています。

帰国便の決まっていない1年間のオープンチケットで、降り立ったパリで最初にしたことは、その日の宿探しでした。 そんな経験にさえドキドキして、東洋から来た自分はいかにもちっぽけに思えて、新鮮で不安な毎日を過ごしたものです。そんな小心者のバックパッカーの旅は、バルセロナでパスポートと現金を盗まれて2カ月ほどで終わってしまったのですが……。思い出話はこれくらいにしておきましょう。

澤田会長が「原点回帰」の旅に出る理由とは?

HISは80年代からの個人旅行ブームに乗って、企業規模を拡大していきました。余談ですが、沢木耕太郎の『深夜特急』の発刊が1986年5月。この年の4月から社会人になった私はまさに“深夜特急世代”のさきがけでもあったのです。おっと、また思い出話になってしまいました。

その後HISは航空ベンチャーのスカイマークを設立したり、証券会社を買収したり、2010年にはハウステンボスを子会社化したりと、積極的に事業の多角化を進めました。ハウステンボスの敷地内にオープンした、史上初のロボットが接客するホテル「変なホテル」も話題になりました。そして2017年の売上高は6,060億円、従業員は13,000人以上。今や押しも押されもせぬ大企業です。
その大企業の経営者をして「原点回帰の旅」をせしめる理由とはなんでしょうか?

「変なホテル」はロボットが接客。2018年に7カ所オープン予定で全国12店となる 「変なホテル」はロボットが接客。2018年に7カ所オープン予定で全国12店となる
©共同通信社/アマナイメージズ

「澤田さんは何をやっていいか分からなくなったんじゃないかな」

このニュースを聞いたある経営者は、こんな風に言っていました。

企業の歴史は、時代との闘争の記録でもあります。その過程で、多くの企業が業態を大きく変革させてきました。しかし、それは一方で企業の原点から遠ざかったり、原点が曖昧になったりする場合もあります。澤田会長も「売上高1兆円にする」と公言していますが、多角化する中で、HISの原点を見失ってしまう危険性に、自ら警鐘を鳴らしたのではないでしょうか? つまり、この旅の目的は澤田会長自身が「HISの原点」を問い直すためであり、同時に13,000人の従業員たちに「HISの原点」を知ってもらうためでもあるのです。
長旅から帰った澤田会長が従業員にどんなメッセージを伝えるのか、今から注目しています。そこには「HISの原点」を端的に語る“黄金の言葉”があるはずだからです。

私がオウンドメディアをコンサルティングしているある企業の経営者は、こう語ります。

「毎日の売り上げに追われているうちに、社員やスタッフたちは会社の原点を忘れてしまう。それは仕方ないのかもしれない。だからオウンドメディアがお客さんだけでなく、スタッフに向けても、この会社のアイデンティティを伝えるツールになってほしい」

例えば1杯のコーヒーを売るとき、コーヒーという商品を売るのか、コーヒーを楽しむ快適な時間を売るのか、同じ「売る」という行為でも売り手の意識の持ち方で顧客の体験は全く違ってきます。

また、その「快適」の定義とは何か? そこまでスタッフが共有できたら、そのコーヒーショップはとても質の高いサービスを提供できるでしょう。

企業活動の川上から川下まで全てを通貫するフィロソフィー。

それを言語化したものが「原点」なのです。

「原点」はオウンドメディアで伝えよ

企業規模が大きくなると、経営者の言葉を末端まで伝えるのが難しい状況もあり得るでしょう。

オウンドメディアは一般的にB to CないしはB to Bのメッセージや情報、コンテンツを伝えるツールと解釈されています。

この場合B to Cのメディアを頭に思い描いて話を進めましょう。Cとは文字どおりCustomer(顧客)のことですが、末端のスタッフもCustomerと考えてみるとコミュニケーションは一変します。

彼ら彼女らを最もロイヤルティの高い顧客にできれば、ブランドの価値は向上します。なぜなら、ブランドロイヤルティが「原点」にあるサービスは、こうして欲しいという気持ちを一般の顧客とスタッフが共有できるからです。痒いところに手が届けば、サービスの質も自ずと向上します。

この連載の第1回に使用した図をちょっと変えてみました。 こんなイメージです。

では、オウンドメディアでどんなコミュニケーションを取ればスタッフのブランドロイヤルティが向上するのでしょうか? 次回はそんなお話をします。

山本 由樹

株式会社「編」代表取締役社長山本 由樹

1986年光文社に入社。週刊女性自身で16年、その後「STORY」創刊メンバーとなる。2005年~2011年同誌編集長。2008年には「美STORY(現美ST)」を創刊し、「国民的美魔女コンテスト」を開催。美魔女ブームを仕掛ける。2013年9月に株式会社giftを設立するとともに、自立したアラフォー女性をターゲットとした月刊誌「DRESS」を創刊。読者のコミュニティDRESS部活は30以上の部活数、3万人以上の部員が集っている。編集長退任後は「編」にてメディアの枠を超えたコンテンツ・プロデュースをしている。2017年9月まで日本テレビ『スッキリ』でレギュラーコメンテーターを務める。 著書/「『欲望』のマーケティング」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、「会社を辞めても辞めなくてもどこでも稼げる仕事術」(共著・SBクリエイティブ)

※肩書きは記事公開時点のものです。

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