巻き込む!オウンドメディアの作り方 第4回

企画力を身につけよう PPAPに学ぶフュージョン(融合)思考法

2017.04.04

コンテンツマーケティング

  • 山本 由樹

    株式会社「編」代表取締役社長 山本 由樹

企業や組織にとって、オウンドメディアは今や必要不可欠のコミュニケーションツールです。しかし、闇雲に企業都合のPR活動を行っても逆効果です。ターゲットに届くオウンドメディア制作のポイントを、多彩な実績を誇るカリスマ編集者であり、数々のブームの仕掛け人でもある当社の編集アドバイザー、山本由樹氏が伝えます。第4回目は企画を際立った内容にするためのメソッドについてです。

前回のコラムでは「現状→課題→企画」という3段階の思考方法と、簡単に企画を突き抜けたものにする「フュージョン(融合)」「ディスプレイス(ずらす)」という発想法について解説しました。
今回はより詳しく企画を突き抜けたものにするメソッドについて語りたいと思います。

フュージョンとは、異質なもの同士を融合させ「新しい価値」を生み出すためのテクニックです。最近では「PPAP」こそフュージョンの典型的な成功例でしょう。
世界中で大ヒットしたPPAPですが(原稿執筆時点でのYouTubeの再生回数は116,489,416回!)、文化を超えてウケた理由はその単純で明快、そして意味不明なフュージョンにあります。あえて図解するとこんな感じです。

PEN + PINEAPPLE + APPLE + PEN = PPAP
PEN + PINEAPPLE + APPLE + PEN = PPAP

なんという意味不明でしょう。パイナップルとリンゴがペンによって突き刺されています。
ビデオ(https://www.youtube.com/watch?v=0E00Zuayv9Q)を見ながら細く分析して行きましょう。

  • ① 「PPAP」と言ってピコ太郎が踊っている。
  • ② 「I HAVE A PEN. I HAVE AN APPLE.」
  • ③ 「ハッ!」とPENをAPPLEに刺す。「APPLE+PEN」
  • ④ 「I HAVE A PEN. I HAVE A PINEAPPLE.」
  • ⑤ 「ハッ!」とPENをPINEAPPLEに刺す。「PINEAPPLE+PEN」
  • ⑥ 右手で「APPLE+PEN」、左手に「PINEAPPLE+PEN」
  • ⑦ 「ハッ!」と両方を突き刺す。「PEN + PINEAPPLE + APPLE + PEN」
  • ⑧ 「PPAP」と言いながら嬉しそうに踊る。最後に天に捧げるようにPPAPを掲げる。

赤字で示した部分が、この単調なビデオのアクセントになっています。
ペンをリンゴやパイナップルに突き刺す瞬間。ピコ太郎のちょっとサディスティックな表情も相まって、不思議なカタルシスさえ生み出されています。

PPAPがウケた理由のひとつに、このサディスティックな「突き刺す」行為があります。子供から大人まで、人間の持っている加虐欲求が可愛く満たされたのです。ペンをリンゴに突き刺すイメージを持って、スッキリしたというわけです。
ヒットの理由の根源には「欲望」への訴求が必ずあります。PPAPのヒットの根源には「加虐という欲望」があるのですが、その話はまた別の機会にしましょう。

ここで語りたいのはフュージョン(融合)という手法です。
硬直した発想をフリーにするために、人は日常的にフュージョンをしています。
PPAPのフュージョンのポイントはペンとパイナップルとリンゴを融合させた面白さにあるのですが、最も際立った融合は「突き刺す」という行為にあります。ここにPPAPの突き抜けたアイデアがあるのです。

PEN + PINEAPPLE + APPLE + PEN = PPAP

ペンとパイナップルとリンゴをフュージョンさせただけでは、実は全く面白くありません。企画を突き抜けさせるためには、「突き刺す」という行為のフュージョンが必要だったのです。まさに「突き刺して突き抜ける」です(笑)。

企画が突き抜けるために意識して欲しいことがあります。
それは常に「違和感と非常識」をフュージョンするということです。
人間の感性は意外と鈍感で、柔軟なものです。例えばマツコ・デラックスが初めてテレビに登場し始めた頃は、「違和感と非常識」の塊のようなインパクトがありました。それが今では2016年好感度タレントランキングでは、明石家さんまに次いで第3位(ビデオリサーチ調べ)です! このように人間の感性には「慣れ」という耐性があるわけですから、企画を突き抜けさせるときには「やり過ぎ」くらいを志向した方が、ちょうどいい塩梅です。

ちなみに手前味噌ですが、私が作った「美魔女」という言葉もフュージョンによって生まれています。「美」というポジティブな価値観と、「魔女」というネガティブな言葉のフュージョンです。

美 + 魔女 = 美魔女

今では見慣れてしまった言葉ですが、メディアに登場し始めた当初は大きなインパクトがありました。韓国の女性月刊誌『ウーマンセンス』とコラボして美魔女のプロモーションをしようと、ソウルまで乗り込んだことがあります。その時、先方の編集長は「魔女という言葉はネガティブだから変えたい」と言いました。キリスト教徒の多い韓国と日本では状況は違うのでしょうが、もうちょっと「やりすぎ」を志向しても良かったのではないかと思います。
韓国版美魔女は「K-QUEEN」としてコンテストも盛り上がっているようですから、結果としてはとても良かったなあと思います。でも「K-QUEEN」というネーミングは、まだまだ突き抜けてないですよね。

フュージョンという企画を際立たせるメソッドに関しては、次項に続きます。

山本 由樹

株式会社「編」代表取締役社長 山本 由樹

1986年光文社に入社。週刊女性自身で16年、その後「STORY」創刊メンバーとなる。2005年~2011年同誌編集長。2008年には「美STORY(現美ST)」を創刊し、「国民的美魔女コンテスト」を開催。美魔女ブームを仕掛ける。2013年9月に株式会社giftを設立するとともに、自立したアラフォー女性をターゲットとした月刊誌「DRESS」を創刊。読者のコミュニティDRESS部活は30以上の部活数、3万人以上の部員が集っている。編集長退任後は「編」にてメディアの枠を超えたコンテンツ・プロデュースをしている。2017年9月まで日本テレビ『スッキリ』でレギュラーコメンテーターを務める。 著書/「『欲望』のマーケティング」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、「会社を辞めても辞めなくてもどこでも稼げる仕事術」(共著・SBクリエイティブ)

※肩書きは記事公開時点のものです。