前回、「ずらす(ディスプレイス)」という手法を使って、既存の商品の価値を変える思考実験をしました。今回はその続きです。
ロングセラー商品『潤い水』のリプロモーションプランを考えるに当たって、現状のポジショニングマップを作りました。二軸は「価格」と「容量」でした。
潤い水のポジショニング
今回は二軸を忘れてもっと自由に考えてみましょう。
思考実験ですから、 頭の中でイメージしてください。
目の前には『潤い水』のボトルが置いてあります。
どんなデザインですか?
透明感のある、ややブルーがかったプラスチックのボトル。
ボトルの正面には横書きの明朝体で『潤い水』と書いてあります。
高級感はないけど、わかりやすくて親しみやすいデザインです。
そのボトルをイメージしながら、無作為に思いついた言葉をイメージしてみてください。
それがそのまま『潤い水』をディスプレイスすることができるか?
何か新しい価値が付け加わりそうだと感じたら書き残しておきます。
例えば、こんな感じです。
潤い水のディスプレイス
ディスプレイスで新たな付加価値をさぐる
さあ、じゃんじゃんずらしましょう。
- 「使う部位」は?
- これは前回も語りましたが、顔だけでなく全身に使わせることができたら消費量アップです。『全身潤い水』という商品が生まれそうです。
- 「使う場所」は?
- 通常は洗面所でしょうか? アウトドアで使うとどうでしょう? 例えば日焼け止めの機能を付加してスプレータイプにします。『スプレータイプの日焼け止め潤い水』という商品を思いつきます。化粧水の日焼け止めというのは、ちょっと面白いかもしれません。
- 「男性用」は?
- 男性の美容市場というのは可能性はあるのに、なかなかうまくいっていません。
その理由のひとつに、高価格があります。女性と違って男性は自分の肌に高いお金はかけたくないのです。美容感度の高い男性は、資生堂やクリニークの男性用コスメを使うのでしょうが、一般男性はせいぜいメンズビオレくらいまでです。
というわけで『男の潤い水』という商品はどうでしょう。
うーむ、メンズビオレに勝つのは難しそうですね。
- 「子ども用」は?
- これは前回も語りましたが、独立した商品として、敏感肌やアトピーの子ども用の化粧水はあまりありません。大人用の刺激のない化粧水やクリームを子どもにも使っているのが実態でしょう。となると『お子さんにも安心 敏感肌の潤い水』という商品を作れば、子ども用にも使ってもらえそうです。
- 「読む化粧水」は?
- 美容は肌表面だけのことではありません。女性なら誰もが、食生活などの生活習慣が肌の調子に表れると実感しているはずです。読んで学んで、美しくなる習慣を身につけるためのブックレットを作って、付録につけるのはどうでしょう? 僕は美容雑誌もやっていた編集者なので、ご依頼があれば作りますよ(笑)。というわけで、『読む潤い水 美しくなる生活』というメディアができそうです。
- 「飲む化粧水」は?
- コラーゲンなどを成分とした美容ドリンクは一時期たくさんの商品が出ましたが、習慣としていつも飲んでいるという女性は、実際あまり見かけません。飲んでも肌の美しさをすぐに実感できないというのが普及しない理由でしょうが、意外と高い価格という問題もあると思います。というわけで、毎日飲める価格設定にしましょう。1本200円以下に抑えたいところです。『美習慣 毎日飲む潤い水』と、商品名でも「毎日」を強調しましょう。あるいはペットボトルに入れて売るという方法もあるかもしれません。美容ドリンクは大抵1本50mlですから、500mlのペットボトルでごくごく飲める商品にするのもいいかもしれません。成分は薄くなりますが、スポーツドリンクのような売り方をしましょう。アウトドアも意識して、美白をうたってもいいかもしれません。『ごくごく飲める潤い水 プラス美白効果』。なんだか見たことのない商品が生まれました。
“非常識な連想ゲーム”で企画力をきたえよう
こうして思いつくままにディスプレイスしてみましたが、この手法は企画の視点を変えてみるためにはとても有効です。固定概念に縛られず、連想ゲームのように自由に思考すると、想像外のアイデアが生み出されるときがあります。
今回であれば『ごくごく飲める潤い水 プラス美白効果』は際立ったアイデアになりました。今市場に存在しない商品が、ちょっとずらしただけで生まれた訳です。
具体的にはこの図のように2回のディスプレイスを行っています。
『ごくごく飲める潤い水 プラス美白効果』を発想するまで
ここでのポイントは「飲む美容液」を現在市場にある50mlで200円以上する美容ドリンクとは違うポジションに置こうとしたことです。人の発想はすでにあるものに当てはめてしまいがちですが、そこをあえてペットボトルという「非常識な発想」にずらしてみる。
そこに今までなかった商品が生まれたという訳です。
ちょっとした思考トレーニングとして、みなさんも日々の企画会議から取り入れてみてください。
連載:カリスマ編集者 山本由樹が考察
巻き込む!オウンドメディアの作り方
- PART-1 ターゲット設定の重要性と編集者の必要性
- PART-2 企画力を身につけよう
- PART-3 企画をロジカルに生むための思考法
- PART-4 企画力を身につけよう PPAPに学ぶフュージョン(融合)思考法
- PART-5 企画力を身につけよう ファッションはフュージョンでモードになる
- PART-6 ディスプレイスで商品の価値を変えてみる(前編)
- PART-7 ディスプレイスで商品の価値を変えてみる(後編)
- PART-8 非常識を現実にする「突破力」
- PART-9 TOKYO VOICE創刊の突破力①
- PART-10 TOKYO VOICE創刊の突破力②
- PART-11 スティーブ・ジョブズのプレゼンに学ぶ、真の価値を伝える方法
- PART-12 原点を振り返るというオウンドメディアの役割
- PART-13 原点をどう伝えれば届くのか
- PART-14 共感の時代の伝え方
株式会社「編」代表取締役社長 山本 由樹
1986年光文社に入社。週刊女性自身で16年、その後「STORY」創刊メンバーとなる。2005年~2011年同誌編集長。2008年には「美STORY(現美ST)」を創刊し、「国民的美魔女コンテスト」を開催。美魔女ブームを仕掛ける。2013年9月に株式会社giftを設立するとともに、自立したアラフォー女性をターゲットとした月刊誌「DRESS」を創刊。読者のコミュニティDRESS部活は30以上の部活数、3万人以上の部員が集っている。編集長退任後は「編」にてメディアの枠を超えたコンテンツ・プロデュースをしている。2017年9月まで日本テレビ『スッキリ』でレギュラーコメンテーターを務める。 著書/「『欲望』のマーケティング」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、「会社を辞めても辞めなくてもどこでも稼げる仕事術」(共著・SBクリエイティブ)
※肩書きは記事公開時点のものです。