巻き込む!オウンドメディアの作り方 第1回
ターゲット設定の重要性と編集者の必要性
まずは自己紹介させてください。
私は長年女性月刊誌の編集長をつとめてきました。
「STORY」というアラフォー女性のファッション誌や、「美ST」というビューティ誌などご存知でしょうか。テレビなどに出るときには「美魔女の生みの親」と紹介されますが、そう言うとなんとなく分かっていただけるでしょうか。昨年末までは、「DRESS」という米倉涼子さんが表紙のファッション誌の編集長をしていました。
編集者になって今年でちょうど30年。週刊誌から月刊誌、男性誌、女性誌と全てを経験してきて今感じるのは、商業誌の時代の終わりと、オウンドメディアの時代の始まりです。それくらいオウンドメディアには可能性があると思っています。とはいえ企業の発信するメッセージやコンテンツを、単なるPR発想で発信していては、伝えたいことも伝わりません。
伝えたいことが伝わるために、大切なことはなにか。
それは伝える技術=編集力です。
この連載では、オウンドメディアに求められる編集力について、語りたいと思います。
オウンドメディアの○と×
オウンドメディアとは言うまでもなく企業が「Owned:オウンド」(所有する)メディアのことですが、デジタルシフトの結果、印刷メディアだけでなくデジタルメディアやSNSなど、消費者との接点は多様化しています。
今回は主に私の得意な印刷メディアについて考えたいと思います。
オウンドメディアを持つメリットとはとはなんでしょうか?
- ① 顧客と直接コミュニケーションができる
- ② コストが安い
- ③ コンテンツが資産化される
まだ他にも「芸能人に会える」とかあるとは思いますが(笑)、話を前に進めます。
ではデメリットはなんでしょうか?
- ① 顧客の評価が見えにくい
- ② 顧客に訴えるコンテンツの制作が難しい
私が編集していた商業誌というのは、読者が「書店で手にとって、内容を吟味して、購入して」初めて商売が成り立つビジネスです。
一方オウンドメディアは「書店で売る」メディアではありません。書店売りのオウンドメディアがあったら素敵だとは思いますが、それはまた別の話。
「売る」かわりに「届ける」わけです。
商業誌は「実売率」という指標で評価されます。どれだけの読者が買ってくれたかです。その点オウンドメディアは「届ける」ことで実売数に左右されない反面、顧客の評価が見えにくいという欠点があります。
顧客の評価が見えにくいと、その顧客に訴えるコンテンツの制作が難しくなります。ターゲットが絞れないということです。
ここに編集不在のオウンドメディアが生まれる土壌があります。
ターゲット設定の大切さ
編集とは「誰に、何を、どう伝えるか」というテクニックです。
メディアを作る時、最初に編集者が考えるのは「ターゲットは誰か」ということです。届ける人に合わせて、「何を(内容)」を伝えるかプランニングします。そしてその内容を「どう(表現)」伝えたら一番届くのかを考えるのです。
「老若男女すべての人に届けたい」
企業側がそう思うのもわからないではありません。
でもすべての人に届けたいというメディアは、結果として誰にも届かないメディアになってしまいます。まずはターゲットを絞り込みましょう。
とはいえ絞り込むことはとても難しいことです。
そこでプロの編集者が必要になってくるのです。
私たちはよく「魚影が濃い」とか「魚影を見つけた」という言い方をしますが、それはターゲットである読者が見えたという意味でもあります。
例えばみなさんががんばって「アラフォー女性がターゲット」と決めたとします。でもそれでもまだとても大まかなターゲット設定です。
同じアラフォー女性でも、働いてるか働いていないか、結婚してるかしていないか、子供がいるかいないか、都市生活か郊外生活か……などなど、絞り込む要素はいくらでも出てきます。
私が「STORY」の編集者だった当時、「東急田園都市線の二子玉川までの40代主婦」というターゲット設定で、読者調査をしたことがあります。京王線でも小田急線でもありません。関西だったら、阪神線ではなく阪急線です。
もちろんオウンドメディアにここまでのターゲット設定は必要ありませんが、ある程度確度の高いターゲットを想定しましょう。
雑誌の面白さが格段に違ってきますよ。
編集者は通訳
編集者とは、企業と顧客のコミュニケーションの間に入る通訳のようなものです。この図を見てください。そのままだと伝わらない言語を、伝わる言葉に変えることが通訳である編集者の役割です。
通訳とは相手の言語に変換して伝える役目です。
それは企業の伝えたいことを、より魅力的な言葉に変えて伝えることでもあります。より魅力的に伝えるためには、B to CのコミュニケーションをC to Cであるかのように感じさせなければなりません。
企業発のメッセージやコンテンツであっても、「自分事化」できるようなコミュニケーションにするのです。それはつまり、CUSTOMERの趣味・嗜好や都合に合わせた伝え方が重要だということです。
オウンドメディアの編集者という職業はCOMPANY(企業)とCUSTOMER(顧客)のコミュニケーションの間に入って、お互いの関係を幸せなものにする、つまりエンゲージメントを生み出すことが役割なのです。
そのためには編集者はCUSTOMERについて誰よりも深く知っていなければなりません。時代に対する鋭敏な感性を持ち、観察力を持ってターゲットを捉えるプロフェッショナル。それがオウンドメディアの時代に求められる編集者の資質なのだと思います。
では優れたコンテンツを生み出す企画力とはどのようなものか?
以下次号に続きます。
連載:カリスマ編集者 山本由樹が考察
巻き込む!オウンドメディアの作り方
- 第1回 ターゲット設定の重要性と編集者の必要性
- 第2回 企画力を身につけよう
- 第3回 企画をロジカルに生むための思考法
- 第4回 企画力を身につけよう PPAPに学ぶフュージョン(融合)思考法
- 第5回 企画力を身につけよう ファッションはフュージョンでモードになる
- 第6回 ディスプレイスで商品の価値を変えてみる(前編)
- 第7回 ディスプレイスで商品の価値を変えてみる(後編)
- 第8回 非常識を現実にする「突破力」
- 第9回 TOKYO VOICE創刊の突破力①
- 第10回 TOKYO VOICE創刊の突破力②
- 第11回 スティーブ・ジョブズのプレゼンに学ぶ、真の価値を伝える方法
- 第12回 原点を振り返るというオウンドメディアの役割
- 第13回 原点をどう伝えれば届くのか
- 第14回 共感の時代の伝え方
株式会社「編」代表取締役社長 山本 由樹
1986年光文社に入社。週刊女性自身で16年、その後「STORY」創刊メンバーとなる。2005年~2011年同誌編集長。2008年には「美STORY(現美ST)」を創刊し、「国民的美魔女コンテスト」を開催。美魔女ブームを仕掛ける。2013年9月に株式会社giftを設立するとともに、自立したアラフォー女性をターゲットとした月刊誌「DRESS」を創刊。読者のコミュニティDRESS部活は30以上の部活数、3万人以上の部員が集っている。編集長退任後は「編」にてメディアの枠を超えたコンテンツ・プロデュースをしている。2017年9月まで日本テレビ『スッキリ』でレギュラーコメンテーターを務める。 著書/「『欲望』のマーケティング」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、「会社を辞めても辞めなくてもどこでも稼げる仕事術」(共著・SBクリエイティブ)
※肩書きは記事公開時点のものです。