巻き込む!オウンドメディアの作り方 第14回

コンテンツマーケティングとブランドジャーナリズム

2018.09.04

コンテンツマーケティング

  • 山本 由樹

    株式会社「編」代表取締役社長 山本 由樹

第3回 企画をロジカルに生むための思考法
前回は、オウンドメディアにおけるブランドジャーナリズムの役割を語りました。
今回はブランドジャーナリズムとコンテンツマーケティングの違いを語ります。混同されがちな両者には明確な違いがあり、それがブランドジャーナリズムの活用法のカギでもあるのです。

前回は私が作った『ワコールジャーナル』を例に、ブランドジャーナリズムについて簡単に語りました。今回はコンテンツマーケティングとの違いについて語ろうと思います。
実はこのふたつ、よく混同されるのです。

ごく基本的なことから説明しましょう。
企業がオウンドメディアでコンテンツを提供する時の目的は、まず第一に「売り上げを立てる」ことだと思います。そして、コンテンツによってマーケティング活動につなげることをコンテンツマーケティングと言います。

例えば企業のEC用の記事や動画を作るとします。その商品の魅力や機能性を訴求するコンテンツは、「マーケティング=売ること」のためにあります。

一方、ブランドジャーナリズムはよくコンテンツマーケティングと混同されます。オウンドメディアでコンテンツを提供することが両社の共通点ですが、目的は違います。ブランドジャーナリズムの目的は「売ること」ではなく「ジャーナリズム」。つまり「報道」です。企業の持つ価値ある情報の伝達が狙いです。その報道により、ブランドに対する認知度や共感、信頼度がアップします。間接的に、そのブランドの商品を購入することにつながるかもしれません。

その意味では、どちらもオウンドメディアマーケティングに含まれます。

オウンドメディアマーケティング

ブランドジャーナリズム独自の目的とは

あるコスメメーカーのオウンドメディアを考えてみましょう。
企業のECサイトでは売り上げを立てるための様々なコンテンツが溢れています。
例えば真夏の日焼けを防ぐための日焼け止めクリーム。その機能性を訴求する記事の中には、商品の購入ボタンが仕込んであります。
これはもちろんコンテンツマーケティングです。

このコスメメーカーが、自らの知見やエビデンスを元に日焼けを防ぐノウハウ記事を公開したとしましょう。この記事のねらいは、自社製品を買ってもらうことではありません。企業の研究で発見された日焼け防止に有効な成分や、日常生活の中で役立つ日焼け予防の情報を伝え、より幅広い人に日焼けを防いでもらうことを目的としています。これがブランドジャーナリズムです。

一見同じような情報ですが、ユーザーにとっての見え方は全く違います。

コンテンツマーケティングは買わせるための情報なので、日焼け止めを買おうとしている人にとっては価値ある情報ですが、それ以外の人にとってはよくできたセールストークでしかないのです。一方、買わせることを目的としないブランドジャーナリズムは、日焼け止めを求めていない人にも有益な気づきを与える可能性があります。その結果、もしかしたら自社の日焼け止めを買ってくれるかもしれない。でも、それはあくまで二次的な収穫でしかありません。紫外線を防ぐ大切さを知ったユーザーは、他社の日焼け止めを買うかもしれないからです。それでもよしとする考えが、ブランドジャーナリズムの大前提です。先ほど述べたように、「より幅広い人に日焼けを防いでもらうことを目的」としているのですから、この結果でOKとすべきなのです。

「本屋のお客さん」を念頭に置く

コンテンツマーケティングとブランドジャーナリズムでは、ターゲットも異なると考えるべきです。コンテンツマーケティングのターゲットは「お店に来たお客さん」だと考えると分かりやすいでしょう。「お店」はもちろん「ECサイト」で、お客さんに購入を決断させるための情報提供がコンテンツマーケティングの役割です。

ブランドジャーナリズムのターゲットは「本屋のお客さん」です。本屋と言っても実際の本屋ではありません。漠然と情報を求めていたり、暇つぶしに訪れたりする人がたくさんいる場所を「本屋」とイメージしています。そんなお客さんに有益な情報を提供することが、ブランドジャーナリズムの役割です。

ターゲットが違う

何となくイメージできたでしょうか? ブランドジャーナリズムを行う時には、その企業やブランドの近くにいない人たちも対象にすることが重要です。そうすることで、より多くの人たちに、ブランドの価値を知ってもらうチャンスが生まれるからです。

となると、ブランドジャーナリズムを担当する部署は、マーケティングではなく広報・宣伝が適切なのでしょうか。確かにそういう面もありますが、あまり厳密に分けて考えてしまうとメリットを生み出せません。オウンドメディア制作においては、双方のフィロソフィーが一致していないといけないからです。
つまり「商品」で伝えるか、「情報」で伝えるかという違いはあるにせよ、伝えるべき「ブランドフィロソフィー」は完全に一致しているべきだということです。

大企業ほど、部署ごとにサイロ化してしまい、それぞれの論理が一致しないことはよくあります。しかし、オウンドメディアの時代となり、企業価値そのものである「ブランドフィロソフィー」がより重要性を増している現在、マーケティング広報・宣伝の一体化は不可欠です。
顧客との直接的な関係性が構築できる時代だからこそ、オウンドメディアのあり方そのものから考えてみてはいかがでしょうか?

次回はブランドジャーナリズムを行う上でのよくある問題について語ります。
それは「どこに置くか?」という問題です。

山本 由樹

株式会社「編」代表取締役社長 山本 由樹

1986年光文社に入社。週刊女性自身で16年、その後「STORY」創刊メンバーとなる。2005年~2011年同誌編集長。2008年には「美STORY(現美ST)」を創刊し、「国民的美魔女コンテスト」を開催。美魔女ブームを仕掛ける。2013年9月に株式会社giftを設立するとともに、自立したアラフォー女性をターゲットとした月刊誌「DRESS」を創刊。読者のコミュニティDRESS部活は30以上の部活数、3万人以上の部員が集っている。編集長退任後は「編」にてメディアの枠を超えたコンテンツ・プロデュースをしている。2017年9月まで日本テレビ『スッキリ』でレギュラーコメンテーターを務める。 著書/「『欲望』のマーケティング」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、「会社を辞めても辞めなくてもどこでも稼げる仕事術」(共著・SBクリエイティブ)

※肩書きは記事公開時点のものです。