今回は、企画を論理的に考える方法についてお伝えします。編集者の第一歩は、ユーザーの価値観を理解しすることだと前回お話しました。それができていないと、企業論理だけに偏った、誰も読みたがらないコンテンツしか作れません。では、ユーザーの興味を引くコンテンツを作るにはどうしたらよいのか。ここで、前回のテーマをおさらいしましょう。
- ターゲット:30代から40代の中堅サラリーマン
- 企業:お酒のメーカー。肝臓に効く健康食品「呑むときに飲む!」を販売。
- 目的:「呑むときに飲む!」の訴求。
「現状の認識」「課題の把握」「企画」の3段階で思考
アイデアとは無から有を生む作業ではなく、有から有を生み出す作業です。天才でもない限り、歴史上どこにもないアイデアなんて生み出せません。
私が企画を考える時、まずこんなことを考えてみます。
「ターゲットの現状と課題とは何なのか?」と。
まずはターゲットを知ることから始めましょう。
この場合はターゲットになる「30代、40代の中堅サラリーマン」の健康に関する現状を「認識」して原因を「分析」して問題を「抽出」します。
例えばこうです。本来は長くなりますが、ごく大雑把に書き出してみますね。
- 現状の認識:肥満傾向、中性脂肪、ガンマGTPに問題あり。
- 原因の分析:平日は毎日仕事の会食か付き合いの飲み会がある。
- 問題の抽出:継続的な過食傾向、睡眠不足があるが、仕事のスタイル上変えられない。
次にそれを元に課題を「整理」して、主要な課題に「集約」して、その課題を「解決」する方法を考えます。
- 課題の整理:食べ過ぎと飲み過ぎ、疲労の蓄積するワークスタイル
- 課題の集約:毎晩飲んで食べても、ダイエットできて肝臓も健康になる方法
- 企画:食べ過ぎない食べ方と、ダメージのない飲み方の提案
ターゲットの問題点が見えてきました。
毎晩のように会食や付き合いの飲み会があって、過食と飲み過ぎで健康に差し障ってきている。でも働き盛りの中堅サラリーマンにとって、夜の仕事はとても大事で変えることはなかなかできない。そんな人たちに「呑むときに飲む!」を買って欲しいわけですが、そこに直線的にコンテンツを繋いだらターゲットには届きません。
「いいね!」と言われるアイデアを出すのが次のステップ「企画」です。
現状と課題まではロジカルに考えられるところですが、ここからは発想の飛躍が求められます。でも安心してください。発想の飛躍はテクニカルにできるのです。
突き抜けた企画をつくる2つのテクニック
企画のフェーズでは現状と課題で提示されたエレメントを念頭に、どういった「コンセプト」で届けるのかを考え、実際の企画案に落とし込んでいきます。その企画案に落とし込んでいく時に、異質なものや正反対の要素との「融合(フュージョン)」や、位相を「ずらす(ディスプレイス)」ためのブレインストーミングをします。
「融合(フュージョン)」や「ずらす(ディスプレイス)」ことは難しそうに思うかもしれませんが、実は簡単にできてしまいます。
フュージョンとは、硬直した発想を一旦フリーにするためのものでもあります。
例えば電車に乗っていて、目の前のサラリーマンが妙に似合わない赤いネクタイをしていたとします。ふと視線を週刊誌の中吊り広告に移すと、芸能人の不倫がスクープされていました。ここで「融合(フュージョン)」。
浮いた赤いネクタイ+不倫=オフィス不倫で彼女にプレゼントされたネクタイ
こんな連想が出てきます。その発想を企画に落とし込んでみてください。
媒体が男性週刊誌だったら例えばこうです。
「オフィス不倫 彼女にプレゼントされて困ったものワースト10」
媒体が女性月刊誌だったらこうでしょうか。
「妻たちの告白手記 夫が趣味ではない赤いネクタイをし始めた時」
あっという間に企画が2本できてしまいました。
「ずらす(ディスプレイス)」はどういうテクニックでしょうか?
実は今の企画はすでにディスプレイスをしているんです。
「妻たちの告白手記」という発想は主役を夫や愛人から妻にずらした時に思い浮かぶ企画です。つまりフュージョンとディスプレイスを両方行っているわけです。
ね、簡単でしょ?
こんなアイデア出しのトレーニングは日常いつでもできることです。
私たち編集者はあまり人の話を聞かない習性がありますが、それはつい人の話をネタにして発想をフュージョンさせたり、ディスプレイスさせたりしているからです。
脳を常にフリーにしておくトレーニングとして、皆さんもやってみてください。
企画を仕上げるポイント
さあ、企画出しのフュージョンとディスプレイスを経て、初めてアイデアは凡百のものから際立ったものになります。
たくさんのアイデアをブレストして「検証」します。これもブレストの一環で、あえて「ケチをつける」作業をするのです。それでもへこたれないアイデアは、きっと素晴らしいものになるはずですから。
そして以下の企画案が残ったとしましょう。
- 企画のコンセプト:意外性のある提案で惹きつける
- フュージョン:NYや上海とフュージョンさせる
- ディスプレイス:三ツ星シェフ
なんだかよく分かりませんが、タイトルにするとこんな感じです。
- サブタイトル
- NY、上海、東京、食の三都物語。三ツ星シェフ・ソムリエたちのセルフブランディング術
- メインタイトル
- 食べても太らない!飲んでも残らない!そしてカッコイイ!
食べる仕事の食べ方、呑む仕事の飲み方
企画としてはNY、上海、東京で洋・中・和を代表するシェフやソムリエたちに登場してもらいます。3人とも年齢よりも若々しくカッコよくて、なおかつスマートな人たちにします。シェフという仕事は味見も含めて食べないと成り立たない仕事です。ソムリエは飲まないとはじまらない仕事です。それでも健康でスマートでかっこいい秘密は、きっとそれぞれの体調管理術にあるはずです。
その体調管理術を具体的にコンテンツとして提供するのです。
実はメインタイトルにさりげなく「呑むときに飲む」を思わせるワードが忍ばせてあります。今回の登場人物の誰かが「呑むときに飲む」を使ってくれるのが一番ですが、ステマと思われても困るので、例えば「1ヶ月チャレンジ」的な企画を仕込んでおきます。
3人に継続的に「呑むときに飲む」を飲み続けてもらって、そのインプレッションをこの記事にタグ付けるという手もあるように思います。
企画をロジカルに生み出すための3段階思考方法。
「現状」+「課題」+「企画」を覚えておいてください。
そして企画を突き抜けたものにする発想法を自分のものにしましょう。
忘れてはいけないのは記事単体で面白いこと。
「おや、まあ、へえ」があって「いいね!」と言われることです。
結果的に「呑むときに飲む」に行きつくようなコンテンツ設計が大切なのではないでしょうか?
連載:カリスマ編集者 山本由樹が考察
巻き込む!オウンドメディアの作り方
- PART-1 ターゲット設定の重要性と編集者の必要性
- PART-2 企画力を身につけよう
- PART-3 企画をロジカルに生むための思考法
- PART-4 企画力を身につけよう PPAPに学ぶフュージョン(融合)思考法
- PART-5 企画力を身につけよう ファッションはフュージョンでモードになる
- PART-6 ディスプレイスで商品の価値を変えてみる(前編)
- PART-7 ディスプレイスで商品の価値を変えてみる(後編)
- PART-8 非常識を現実にする「突破力」
- PART-9 TOKYO VOICE創刊の突破力①
- PART-10 TOKYO VOICE創刊の突破力②
- PART-11 スティーブ・ジョブズのプレゼンに学ぶ、真の価値を伝える方法
- PART-12 原点を振り返るというオウンドメディアの役割
- PART-13 原点をどう伝えれば届くのか
- PART-14 共感の時代の伝え方
株式会社「編」代表取締役社長 山本 由樹
1986年光文社に入社。週刊女性自身で16年、その後「STORY」創刊メンバーとなる。2005年~2011年同誌編集長。2008年には「美STORY(現美ST)」を創刊し、「国民的美魔女コンテスト」を開催。美魔女ブームを仕掛ける。2013年9月に株式会社giftを設立するとともに、自立したアラフォー女性をターゲットとした月刊誌「DRESS」を創刊。読者のコミュニティDRESS部活は30以上の部活数、3万人以上の部員が集っている。編集長退任後は「編」にてメディアの枠を超えたコンテンツ・プロデュースをしている。2017年9月まで日本テレビ『スッキリ』でレギュラーコメンテーターを務める。 著書/「『欲望』のマーケティング」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、「会社を辞めても辞めなくてもどこでも稼げる仕事術」(共著・SBクリエイティブ)
※肩書きは記事公開時点のものです。