チェンジメーカーに聞く 『次の一手』 第1回 ヘルスケア編(前半)

藤田康人氏 狙うならシニアよりプレシニア

2020.04.30

コンテンツマーケティング

  • 山本 由樹

    美魔女ブームの仕掛け人 カリスマ編集者 山本 由樹

「狙うならシニアよりプレシニア」
巻き込む!オウンドメディアの作り方」でご好評をいただいた、編集者・山本由樹氏による新連載をお届けします。事業を通じて社会課題の解決に挑む「チェンジメーカー」たちと、山本氏による対談形式のマーケティングコラムです。

さまざまな分野で成功を収めてきた経営者やマーケッターたちは、次に何を仕掛けようとしているのか。最初に登場していただくのは、株式会社インテグレートの藤田康人代表取締役CEO。素材メーカー在職中に日本のキシリトール・ブームを仕掛けた気鋭のマーケッターに、ヘルスケア市場の見方について伺います。

少子高齢化と人口減少が進む日本では、「高齢者」というマスが顕在化しているがゆえに、企業は商品やサービス開発のターゲットを見誤りがちだと説きます。第1回では、その理由とともに、藤田氏が注目する「プレシニア市場」について伺います。

「シニアにサプリ」の誤り

山本 人生100年時代に差し掛かり、多くの人が、これまで定年とされていた60歳よりも20年ほど長く働く必要が出てきました。40代後半~50代のわれわれプレシニア世代が、まだまだ日本の中心でいなければなりませんよね。そこで大切なのが、健康だと思うんです。

藤田 おっしゃる通りです。お金や生きがいの問題もありますが、健康でなければ働けないし、人生を楽しめないですからね。今回はその健康に関するマーケットについて、世の中で唱えられているものとは別の捉え方をお話ししたいと思います。

山本 面白そうですね。

藤田 平均寿命の伸びに伴って、日本では健康についての市場が大きくなっていると言われています。でも、実際にビジネスを成功させているプレーヤーは少ない。なぜだか分かりますか。ターゲットの設定を間違えているからです。

山本 と言うと?

藤田康人氏

インテグレート代表取締役 CEO
藤田 康人(ふじた・やすと)氏

慶應義塾大学卒業後、味の素に入社。1992年、ザイロフィンファーイースト社(現ダニスコジャパン)の設立に参画。1997年にキシリトールを日本に初めて導入し、キシリトール・ブームを仕掛けた。2007年、IMC(統合型マーケティング)プランニングを実践するマーケティングエージェンシー、インテグレートを設立。

藤田 超高齢社会の日本では、シニアをメインの対象に想定して健康ビジネスを展開している企業が圧倒的に多い。ここに間違いがあります。健康に関わるマーケットは大きく2つに分かれます。1つは、病気になった人を治療する、医薬品や医療サービスの市場。もう1つが、病気にならないために体をケアする、予防の市場です。

このうち、65歳以上のシニアの利用が多いのは治療の領域です。たいていの治療は国の医療保険制度の適用対象ですが、予防に対してはそのような制度上のサポートがありません。国が費用の面倒を見るのは治療に関する医療費のみですから、民間企業が力を入れるべきは予防の方なんですね。その予防における最も大きなターゲット層は、シニアではなく、われわれプレシニアです。

ところが実際はどうか。食品や食事、適度な運動といった生活習慣に関わるサービスや食品、食事を、多くの企業は65歳以上のシニアに向けて訴求しているわけです。

山本 シニアは治療で、プレシニアには予防。全く共感します。僕自身、予防のために毎日すごい量のサプリメントを飲んでいます。肩が凝るとか眠りが浅いとか、病気ではないけどなんとなく不調である状態を改善するために。例えばビタミンCを1日5回に分けて飲んでいます。そうすると僕の場合は風邪もひかないし、口内炎ができにくくなりました。

藤田 あえて印象に残るように思い切った言い方をしますね。65歳以上に絶対的に必要なのは、予防ではなく治療です。シニア世代の人々にとって病院での診療や処方される薬は欠かせないものですが、健康食品やサプリメントを皆が買うわけではありません。しかし、多くの企業は「高齢者=何らかの病気を抱えているはず、だからサプリメントが必要」とステレオタイプに思い込んでしまっている。でも高齢者になってサプリメントを飲み始めても予防効果は限定的なんです。

「ヘルシーエイジング」の時代

山本 僕が思うに、予防市場における重要なキーワードって“頑張らない”じゃないかと思うんです。頑張って腹筋を割ればモテるって時代でもないし、痩せると逆に病気じゃないかと心配されるし。プレシニア世代の人々が頑張って若さを取り戻すのではなくて、頑張らずに健康であり続ける方法が今の時代に求められているのではないかと‥‥‥。

藤田 米国では老いに抗う「アンチエイジング」という概念はすでに時代遅れです。代わって普及しているのが「ヘルシーエイジング」という考え。日本ではウェルエイジングとも呼ばれています。つまり年齢に抗うのではなく、上手に健やかに年を重ねていく方にニーズがあるんです。日本もそういった風潮にありますし、今後その傾向はさらに強まると思います。

少し話が変わりますが、日本人の平均寿命は世界トップレベルですよね。しかし、健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)はそれほど伸びていません。本来、100年かけて徐々に体の機能が低下していくはずですが、現代の過度なストレスや偏った食生活によって、70歳あたりから体を壊してしまう人が増えるんです。

「現役続行力」への提案に商機

「現役続行力」への提案に商機

美魔女ブームの仕掛け人
カリスマ編集者
山本 由樹

山本 つまり、心身ともに自立し、健康的に生活できるのは70歳までだと考えておいたほうがいい。しかし、これからは100歳まで生きる時代。健康寿命も伸ばす必要がありますよね。そのために生活者であるわれわれは、何をすべきでしょうか。

藤田 衰えてからではなく、早いうちから予防を始めることです。しかし、20~30代の若い人は自己回復能力が高いので、日本では若者向けのサプリメントは全く売れていません。40代になるとメタボリックシンドロームなどになる人が出だしますが、その頃はまだ命に直結する問題ではないと考えて、サプリメントを継続的に飲み続ける人は健康意識の高い人に限られます。ここに「空白の20年間」が生まれます。体の不調が見え隠れし始める45歳から、治療が必要になりだす65歳までの20年間です。

山本 何もしないという意味での空白ですね。

藤田 はい。世の中も政府も、シニアと呼ばれる65歳以降の話ばかりしていますが、一番大切なのは実はこの20年。45歳から65歳までに、どれだけ予防に注力するかが、その後の健康状態を大きく左右します。この期間について注目し、深く調査をしている企業は実はあまり多くはないのですが、本当はここにこそすごく大きなマーケットがある。

山本 今までは65歳になると退職金や年金がもらえましたけど、これからはそれ以降も現役でいなければならない分、健康であり続けることがさらに重要になってきますよね。

藤田 おっしゃる通り。現役続行力というキーワードだと思っています。

山本 現在のプレシニアはバブル世代のど真ん中。2023年には日本の年齢の中央値が50歳になるほどですから、非常に大きなターゲット層なのですね。

藤田 はい。ヘルスケア領域における最大のパラダイムシフトは、現役続行世代にこそ起こりうると思っています。それは、なるべく早く予防を始めるとか、それほど頑張らなくてもいいとか、体に悪いことをしないというように、今までのような認知症の防止や膝の痛みなどではないところに隠れた大きなニーズがあると思います。

山本 新たなライフスタイルを現役続行世代に創出できるということですよね。病気なった人に対する治療ではなく、可能な限り健康寿命を延ばす。現役続行世代として、働き続けたり、遊び続けたり、いつまでも変わらない健康と生活を手に入れようと呼びかける。“どういう生き方をすべきか”というライフスタイルとしての提案があって、初めてマーケットが生まれるんですね。

 

<対談を終えて>

藤田さんも僕も50代のプレシニア世代。バブル世代とも呼ばれるこの世代が2020年から続々と60代に突入していきます。65歳を超えても働き続けるために、藤田さんが考える新しいライフスタイル創出の可能性は、僕もとても大きいと考えています。
第2回では、ヘルスケア市場の先進国である海外の潮流と、藤田氏自身が注力しようとしているヘルスケア製品やサービスを明かしていただきます。(山本由樹)

インテグレート代表取締役 CEO
藤田 康人氏

慶應義塾大学卒業後、味の素に入社。1992年、ザイロフィンファーイースト社(現ダニスコジャパン)をフィンランド人社長と設立。1997年にキシリトールを日本に初めて導入し、キシリトール・ブームを仕掛けた。結果、ガムを中心とするキシリトール市場は、ゼロから2000億円規模へと成長。2007年、IMC(統合型マーケティング)プランニングを実践するマーケティングエージェンシー、インテグレートを設立。主な著書は『カスタマーセントリック思考』『THE REAL MARKETING』(ともに宣伝会議刊)。

※肩書きは記事公開時点のものです。

山本 由樹

株式会社「編」代表取締役社長 山本 由樹

1986年光文社に入社。週刊女性自身で16年、その後「STORY」創刊メンバーとなる。2005年~2011年同誌編集長。2008年には「美STORY(現美ST)」を創刊し、「国民的美魔女コンテスト」を開催。美魔女ブームを仕掛ける。2013年9月に株式会社giftを設立するとともに、自立したアラフォー女性をターゲットとした月刊誌「DRESS」を創刊。読者のコミュニティDRESS部活は30以上の部活数、3万人以上の部員が集っている。編集長退任後は「編」にてメディアの枠を超えたコンテンツ・プロデュースをしている。2017年9月まで日本テレビ『スッキリ』でレギュラーコメンテーターを務める。 著書/「『欲望』のマーケティング」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、「会社を辞めても辞めなくてもどこでも稼げる仕事術」(共著・SBクリエイティブ)

※肩書きは記事公開時点のものです。

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