いきなりですが質問です。
Q 「いきなり!ステーキ」と「エニタイムフィットネス」の共通点をあげよ。
ウェブサイトは以下のリンクからチェックしてください。
・いきなり!ステーキ
・エニタイムフィットネス
「いきなり!ステーキ」の好調は皆さんも既にご存知でしょう。
ステーキをグラム単位で注文して食べる形式のチェーン店で、サイドメニューも最小限。文字通り「いきなりステーキを食べる」ことができる。立食形式などサービスはミニマムだが、その分価格は低く抑えられ、美味しいステーキを安く食べたい人たちに人気です。「肉マイレージカード」というポイントカードが発行されていて、食べた肉の重さの累積によってサービスも受けられます。
「エニタイムフィットネス」はご存知でしょうか?アメリカから来た24時間営業のフィットネスジムで、深夜や早朝でも利用できるため、時間の限られたビジネスマンに人気で、チェーン店を急速に増やしています。
なぜこの2店を取りあげるのか?
それは両方とも私がカスタマーとして愛用しているからです。
日頃利用しているからこそ見えるものがあるわけです。
では、いきなり!回答です。
A どちらも大成功している。
そりゃそうですよね。
大成功へ導いた共通点
では、どのくらい成功しているかみてみましょう。
「いきなり!ステーキ」を運営するペッパーフードサービスは、「いきなり!ステーキ」の成功によってふた桁成長を続けています。2017年は通期で280億円を超える売り上げを予想。今最も勢いのある外食チェーン店。
いきなり!ステーキは2013年に第1号店を銀座にオープン。2017年6月末で130店舗に拡大しました。
「エニタイムフィットネス」は2017年4月末で国内200店舗になった。2010年に第1号店を調布にオープンしてから急成長を遂げている。運営元であるファストフィットネスジャパンの発表によると、「エニタイムフィットネスは、地球上で最も急速に成長しているフィットネスクラブ・フランチャイズです。2002年、ミネアポリスの第1号店を皮切りに、現在、世界25カ国3,500店舗超がオープンしています」とある。
とにかく、どちらも急成長しているわけです。
共通点はまだあります。
A どちらもディスプレイスしている。
高級ステーキ店 → 立ち食い = いきなり!ステーキ
ジム → コンビニ = エニタイムフィットネス
「いきなり!ステーキ」は本来なら高級店でしか味わえなかった「厚切りステーキ」を、半額で提供するために回転率を高める必要があり、「立ち食い」という業態にディスプレイスした。
「エニタイムフィットネス」は24時間行けるジムにするために、「コンビニ」的業態にディスプレイス。コンビニはスーパーマーケットに比べて小さくて品数も少ない代わりに、いつでも気軽に行ける。同じように「エニタイムフィットネス」にはプールやジムはない代わりに、コンビニ程度の広さがあれば開業できる身近感を取り入れた。
外食産業やジムという「成熟産業」で大きな成長は期待できない業界に、全く異質の価値観にディスプレイスして新しいサービスに転化したこの2社。発想の根本はカスタマーのベネフィットを最優先に考える「カスタマーセントリック思考」にあるのだと思います。
カスタマーセントリックは単純に「顧客中心主義」と言い換えてしまうと、おそらく全ての会社が「我が社も顧客中心主義だ」と言いかねないでしょう。
ここで学ぶべきは「高級ステーキを半額で提供するため」とか「24時間行けるジムにするため」という顧客の利益を実現するために、業態から突き抜けた発想を実現する力です。それが「突破力」なんだと思います。
「時代の価値観」を味方につけよう
「いきなり!ステーキ」は肉を安く提供する代わりに、サービスはほぼ皆無です。客は肉を注文して、立ったまま食べてすぐに出て行く。
「エニタイムフィットネス」は24時間利用できる代わりに、深夜早朝はスタッフがいません。客は無人のお店にキーを使って入って、終わったら出て行く。実はここにはもうひとつの共通点が隠されています。
A サービスを限定している。
「顧客の最大ベネフィット」のためにサービスを限定する。
それが受け入れられる背景には、「立ち食い」や「コンビニ」といった「時代の価値観」をフュージョンしたということが理由としてあげられるでしょう。
まとめるとこうです。
突破力 = 顧客の最大ベネフィット × 時代とのフュージョン
おまけの共通点もあげておきましょう。
A ネーミングが業態を表している。
分かりやすさは大切です。
「宅急便」も「セブンイレブン」(元々は7時から11時までの営業だった)も、いいネーミングは業態そのものを表していたりします。
そうそう、「いきなり!ステーキ」の成功のヒントとなった「俺のフレンチ、イタリアン」なども、シェフを前面に立てた業態そのものが店名になっています。ネーミングも突破力の大きな要素です。
非常識とされることも、顧客の最大ベネフィットのために突破する。
実現してみればいつの間にか当たり前のサービスになるものです。
そんな「突破力」について今回は考えてみました。
連載:カリスマ編集者 山本由樹が考察
巻き込む!オウンドメディアの作り方
- 第1回 ターゲット設定の重要性と編集者の必要性
- 第2回 企画力を身につけよう
- 第3回 企画をロジカルに生むための思考法
- 第4回 企画力を身につけよう PPAPに学ぶフュージョン(融合)思考法
- 第5回 企画力を身につけよう ファッションはフュージョンでモードになる
- 第6回 ディスプレイスで商品の価値を変えてみる(前編)
- 第7回 ディスプレイスで商品の価値を変えてみる(後編)
- 第8回 非常識を現実にする「突破力」
- 第9回 TOKYO VOICE創刊の突破力①
- 第10回 TOKYO VOICE創刊の突破力②
- 第11回 スティーブ・ジョブズのプレゼンに学ぶ、真の価値を伝える方法
- 第12回 原点を振り返るというオウンドメディアの役割
- 第13回 原点をどう伝えれば届くのか
- 第14回 共感の時代の伝え方
株式会社「編」代表取締役社長 山本 由樹
1986年光文社に入社。週刊女性自身で16年、その後「STORY」創刊メンバーとなる。2005年~2011年同誌編集長。2008年には「美STORY(現美ST)」を創刊し、「国民的美魔女コンテスト」を開催。美魔女ブームを仕掛ける。2013年9月に株式会社giftを設立するとともに、自立したアラフォー女性をターゲットとした月刊誌「DRESS」を創刊。読者のコミュニティDRESS部活は30以上の部活数、3万人以上の部員が集っている。編集長退任後は「編」にてメディアの枠を超えたコンテンツ・プロデュースをしている。2017年9月まで日本テレビ『スッキリ』でレギュラーコメンテーターを務める。 著書/「『欲望』のマーケティング」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、「会社を辞めても辞めなくてもどこでも稼げる仕事術」(共著・SBクリエイティブ)
※肩書きは記事公開時点のものです。