統合報告書に託した大学の想い

「東北の教育大学」という価値をストレートに伝える

宮城教育大学

  • マーケティング本部 ビジネスアーキテクト部 藤本 淳也

長きにわたり東北の教員養成の中核を担う宮城教育大学は、「東北の教育大学」としてふさわしい教員養成の教育研究の推進、研究成果の提供に尽力してきました。第4期中期目標・中期計画が始動し存在感を高めていく中で、大学版統合報告書を発行し、ステークホルダーへの情報提供にも積極的に努めています。そこにはどんな想いが託されているか、財務担当理事・副学長/広報・研究振興室 広報部会長である宮内健二氏にお話を伺いました。


教員養成単科大学として、独自の価値を生み出し、伝える義務がある

統合報告書を制作するに至ったきっかけを教えてください。

宮内 全国に86校ある国立大学の中で、教員養成単科大学は11校あります。宮城教育大学はそのうちの1校で、かつ全国でも最小規模の大学です。そんな我々のミッションは、東北地方に存在する教員養成単科大学としての意義、価値を高め、「各地域に良い教員を輩出すること」と「学校教育の発展に寄与すること」なのですが、現在は教員養成大学そのものの存在意義が問われています。併せて、本学の収入の約80%は国立大学運営費交付金や施設整備補助金などの税金で賄われている事実もあることから、ステークホルダーに向けて、現在はどういう状況でどういう成果を挙げているのか、きちんと情報公開しなければならないという前提がありました。

企業の統合報告書はそのステークホルダーである株主や投資家に向けて作られていると思います。ですが本学のステークホルダーは、直接的には教育関係者となるものの、運営資金の大半を税金が担っている大学として、国民の皆様にも適切に情報を伝えなければなりません。

そうは言っても、規模が小さい大学ですので、資金も人員も少ない。令和2年度から学内組織改革により、広報部会とともに、事務局では経営企画課が全体の広報担当を担うようになった。さらには令和3年度から大学院改革、令和4年度から学部改革や入試改革を行う中で、少ないリソースでどのように全体広報を行うべきか、向き合って考えることになりました。

宮城教育大学 財務担当理事・副学長/広報・研究振興室 広報部会長 宮内健二氏

宮城教育大学 財務担当理事・副学長/広報・研究振興室 広報部会長 宮内健二氏

統合報告書を発行する前には、広報誌『あおばわかば』をはじめとして、各種様々な広報誌を作成されていましたが、統合報告書に集約されたと伺っています。

宮内 私が学内の広報部会長を務めているのですが、それぞれの発行物には作ってきた経緯や歴史があります。それをまとめる、統合するのは勇気のいる決断でした。とはいえ、「実際に誰が読んでいるのか」という部分にフォーカスして、それがどのような成果を生んでいるかと問われた際には、答えに困ってしまう部分もあったのです。効率面とコスト面で最適解なのは何かと考えた際に、限られた予算や人員の中できちんと情報提供するために、統合報告書を発行するという結論に至りました。また、令和2年度の組織改革の際に、アドミッションオフィスを設立して、当面は入試広報に重点を置くこととしたため、全体広報の在り方を見直し、統合することもやむを得ない状況でした。

左から『あおばわかば』、『絆』、『宮教力』

写真左から『あおばわかば』、『絆』、『宮教力』と、各ステークホルダーに向けた様々な広報誌が発行されていた

「東北地方」という最優先のステークホルダーと向き合う

制作がスタートした際の体制や状況を教えてください。

宮内 いつ発行するのか、どういう内容にするのか、どういった成果が見込めるのか―――、担当する経営企画課を中心として統合報告書制作というまったく新しい業務が始まりました。ただ、これまで作ってきた大学概要や広報誌でも、それなりに手間がかかっていた部分もありますので、「最初の生みの苦しみを乗り越えれば、いいものができる」と信じてプロジェクトを進めました。

制作体制やコンセプト設計という点ではいかがでしょうか。

宮内 特に大がかりなプロジェクトチームは作っていません。経営企画課を中心に学内関係者の意見を聞きながら進めていきました。事務職員78名、教員90名という非常に小さい組織ですので、おそらく他大学と比べると距離が近いんですよね。すぐに学長室へも入れますし、ミニマムな分だけ意思疎通がしやすい。また、メールでのコミュニケーションも活発で、ここにもそれほど垣根がない印象です。制作を進めていくうえでも、そういった面で困ったことはありませんでした。

また、本学の一番のステークホルダーは「東北地方」。学生の9割は東北地方の出身です。なので、東北地方の高校生・受験生とその保護者の皆様、ひいては教育関係者や学校関係者の皆様にきちんと本学を理解してもらうことが最優先です。つまり、統合報告書の基本的なコンセプトはその部分にあります。

そんな統合報告書は、紙とWebでの両方で展開されていますね。

宮内 そうですね。ただ、本学はどちらかというとWebを重視しています。アドミッションオフィスのデータを見てみると、高校生・受験生が本学を知りたいとなったときはホームページから情報を得ることが多いようです。高校生でもスマートフォンを持っていますしね。全体広報としてもWeb上で情報をちゃんと理解できるようにするところに主眼を置いています。

もちろん、本学を支えていただいている同窓会やOBの方へは、しっかり紙でお配りして現状をお伝えしています。紙媒体は手元に残りますので、その他のステークホルダーの皆様へ情報を伝える際に役立てています。

とにかく、手に取ってページをめくってほしい。少しでも伝えていきたい。

制作フェーズ全般で、一貫して大事にしてきたことは何ですか?

宮内 作って配布して終わりではなく、とにかくステークホルダーに読んでもらわなければいけません。ですから、単純に「わかりやすいもの」「読みやすいもの」を作ることこそが重要でした。配ってすぐに机にしまわれてしまっては何の意味もありませんし、ホームページでも掲げるとなると、なおさら見やすさが重要になってきます。いかに必要なものを絞って見やすくするか、その中で本学の状況を理解してもらえるか、そのあたりに重点を置いていました。

わかりやすく読みやすいという点で、工夫されたことを具体的に教えてください。

宮内 事前に企業や大学の様々な統合報告書を見て研究しながら、できるだけストレートに伝えるためにピックアップするポイントを絞り、本学の特徴をなるべく理解してもらえるように心がけました。読み手にとってとっつきやすい写真を選んだり、わかりづらい部分には積極的に図を入れるなど、できるだけ情報を把握しやすいようにしたつもりです。仕様としても、手に取りやすい薄めの冊子にしています。

また、本学の仕事は「良い教員を養成すること」に集約されますので、他大学や企業の統合報告書にあるような価値創造プロセスという表現をせず、本学は「ビジョン」としてシンプルに記載しています。教員養成大学という明らかなミッションがあり、前提がはっきりしているからこそ、より具体的に語ることを優先した結果です。

宮内 教育関係者の皆様に、大学のガバナンスを効かせて、適切な経営体制を整えていることも伝えたかったポイントです。そのため、本学の従来の広報誌にはなかった財政状況もわかりやすく掲載することで、税金の趣旨にのっとって運営していること、厳しいながらも資金確保と活用も何とかやっていることをアピールしたいと考えました。

「東北地方」にフォーカスしたコンテンツがあるのも特徴的ですね。

宮内 繰り返しになりますが、本学は東北地方の学生を教員として育て、東北地方に送り出すことが大きなミッションです。さらには、東北地方の学校関係者や企業の皆様が、何かあったときに頼れる大学として門戸を開いておきたいという意思もあります。まだまだ、東北地方に根ざしきれておらず道半ばではあるものの、令和4年度からの第4期中期計画としても「東北の教育大学」を前面に掲げています。東北地方にどう還元しているのか、そこを今後も突き詰めていきたいですね。

すでに本年度の統合報告書に着手されていると伺っています。どのような方針で進められているのでしょうか。

宮内 さらに多くの他大学や企業の統合報告書を見て参考にしつつ、昨年度版を踏まえて、改良を加えるべきところなどを検討しています。メインとしては、第4期中期計画をもとに本学がどうしていくのかをしっかり見せていきたいですね。財政状況についても、もっとわかりやすくできるのではと模索しています。

とにかく、手に取ってページをめくってほしい。本学のことを少しでも伝えていきたい。そこに尽きると思います。

連載:統合報告書に託した大学の想い

藤本 淳也

マーケティング本部 ビジネスアーキテクト部
藤本 淳也

インターナルコミュニケーションや教育、HR、音楽などの様々な領域で、企画編集/マーケティング/プロダクトマネジメントに従事し、2022年に現職。コンサルティングから課題設定、ストーリーメイキング、各種制作と、コミュニケーション支援を幅広く担当している。

※肩書きは記事公開時点のものです。