「~非上場企業も対応を強化~ いま注力すべきESG情報開示を考える」①

海外投資家の期待に応えるESG情報開示のポイントとは

  • 古塚副本部長2020

    サステナビリティ本部 本部長 古塚 浩一

ESG情報の開示にあたり、日本の企業といえども意識しなければならないのが海外の投資家の存在だ。グローバルな金融機関で20年を超える勤務経験を持ち、資産運用やESG投資についても詳しいエミネントグループ株式会社代表取締役社長CEOの小野塚惠美氏が、外国人投資家が期待するESG情報開示のポイントと、対話においてサステナビリティ経営のストーリーを的確に理解してもらうためのヒントを解説した。

2023年5月10日開催
企業価値向上セミナー
~非上場企業も対応を強化~ いま注力すべきESG情報開示を考える」より
文=斉藤俊明
構成=古塚浩一、金縄洋右

海外機関投資家へ主体性のあるコミュニケーションが不可欠な理由

小野塚氏はゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントで約20年にわたり資産運用業務を手掛け、2013年頃からはESG投資先企業との対話を経験してきた経歴も有する。2022年にエミネントグループを設立し、現在はESG・サステナビリティと企業経営の統合を支援するアドバイザーとして活動するほか、金融庁のサステナブルファイナンス有識者会議委員など政府の仕事にも携わる立場だ。

グローバルな機関投資家がベンチマークとして利用するMSCIワールド・インデックス(ドルベース)を見ると、投資先の実に7割近くを米国が占め、2位の日本はわずか6%程度となっている。日本の下には英国、カナダ、フランスなどが続くが、いずれにしても世界の機関投資家のほとんどは投資先として米国を中心に見ており、その上で他の国々に分散投資を行っているのが現状だ。このことから、小野塚氏は「日本企業は外国人投資家とのコミュニケーションが不可欠となっており、その良さをアピールしていかなければなりません」と指摘する。

外国人投資家とのコミュニケーションが欠かせない理由として、小野塚氏はさらに2つ挙げた。

まずはESG投資の今後の動向だ。

ポストコロナの時代にはESGをアピールした企業の価値創造を重視する投資が大きくなっていき、2025年の世界の資産残高140兆ドルのうちESG投資は3分の1の53兆ドルを占めると見られる。このため、企業はESG・サステナビリティを経営に統合し、コミュニケーションを取っていかなければならないと小野塚氏は話す。

もう1つの理由として、ESGを投資の世界だけで語れる時代は去りつつあり、銀行の融資や証券会社の起債にも企業や社会の持続可能性を促すというサステナブルファイナンスの考え方が入り始めたとして、「投資家から言われて対話をする受け身のESG対応ではなく、企業側が対話の主導権を握り、自分たちのサステナビリティのストーリーを聞かせる、主体性あるコミュニケーションが今後必要になっていきます」と語った。

小野塚氏によれば、ESG投資よりも広い概念としてのサステナブル投資には大きく分けて3つのパターンがある。1つ目はESG投資で、特定の価値観に基づくSRI(社会的責任投資)やスクリーニング、投資活動にESGを組み込むESG統合、あるいは気候変動などのテーマに基づく投資だ。2つ目は、インパクト投資。従来の投資のようにリターンとリスクを2つの軸として投資判断を行うのではなく、環境・社会課題の解決に焦点を当て、リターン、リスクに社会的インパクトも含めて投資成果を考える手法である。そして3つ目はエンゲージメント投資で、これは株主として企業の行動変容を促すための対話や議決権行使、株主提案などを積極的に行っていくものだ。

小野塚氏が説明する「サステナブル投資」の3つのパターン(資料提供:エミネントグループ株式会社)

企業価値が伝わるコミュニケーションの要点

こうした投資を実行する海外の投資家に企業活動を伝える上で、まずは株式投資家について理解することが必要だと小野塚氏。

「株式投資家はインベストメントチェーンの一員で、アセットオーナーの考えを受けて行動するため、アセットオーナーにサステナビリティの志向が強ければその意向を酌んで投資していきます。また様々なタイプが存在するため、対話の場面では事前に細かく調査し、それぞれの機関投資家に刺さるストーリーを語ることが大切です」

その一方で、株式投資家は未来志向であり、企業の状況を数字で把握したいという点では共通していること、また経営指標としてはROE/ROA/PBRなど横の比較ができ、かつ分解して説明できる指標に注目していることを解説。ベンチマーキングとして世界の似た会社と比べどのような優位性があるのかなど、業種別のグローバルな比較に着目して対話することも重要だと小野塚氏は説く。

さらに、ビジネスモデルや経営体制について「米国でいえば●●社」といった形でアナロジーを使い説明すると、外国人投資家に理解されやすいというコミュニケーション上のヒントも提示した。

そしてもう1点、ガバナンス面で取締役会による監督の実効性、及びマネジメントの執行能力も、投資家が理解したいと考えるポイントだと付け加えた。

小野塚氏は、サステナブル経営におけるESGとはG=ガバナンスの屋根を持つ家のような発想だと説明する。

「何より大切な屋根の部分こそがガバナンスであり、ビジネスモデルを考えることと、ビジネスモデルの戦略及び執行の監督が中核になります。同じガバナンスでも、取締役会の構成やサステナビリティ戦略推進体制といった基盤部分は分けて考えることがポイントです。その上で、屋根と基盤という2つのGの間に、EやSの要素を置く。このような考え方をすると、投資家が知りたいESGのストーリーが整理されるでしょう」

小野塚氏が説明する「サステナブル経営」におけるESGの考え方(資料提供:エミネントグループ株式会社)

こういった社内活動の情報開示・発信活動には、ESGレーティングの向上や統合報告書作成、ESG・統合報告書説明会といったものがあり、外部と対話した上で改善のサイクルを回していくのが、サステナブル経営におけるESGの考え方だと小野塚氏は強調した。

最後に、実際に企業価値を伝えるコミュニケーションのポイントとして、小野塚氏はまず企業トップの意思と意図を挙げる。

「経営者がどれほどのコミットメントと経営における意図を示せるかを、海外投資家は注視しています」(小野塚氏)。

そこには説明責任も付随するとし、さらに対話力、規律、スピード感、外から見たアウトサイドインやベンチマーキングの考え方も必要になってくると語った。

2023年5月10日開催 企業価値向上セミナー
講演 ② 「外国人投資家に刺さるESG情報開示」
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連載:「~非上場企業も対応を強化~ いま注力すべきESG情報開示を考える」

小野塚 惠美 氏

エミネントグループ株式会社
代表取締役社長CEO
小野塚 惠美 氏

JPモルガン(1998-2000)、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント(2000-2020)、マネックスグループ カタリスト投資顧問取締役副社長COO(2020-2022)を経て現職。うち20年以上資産運用に携わり、2012年以降、ESG分野での専門性を培い機関投資家としてESGリサーチ、投資先上場企業との対話、議決権行使を中心としたスチュワードシップ活動を推進。金融庁サステナブルファイナンス有識者会議委員、経産省非財務情報の開示指針研究会メンバー、内閣府知財投資・活用戦略の有効な開示およびガバナンスに関する検討会メンバー、一般社団法人科学と金融による未来創造イニシアティブ代表理事。

※肩書きは記事公開時点のものです。

古塚 浩一

サステナビリティ本部 本部長
古塚 浩一

2018年、日経BPコンサルティング SDGsデザインセンター長に就任。企業がSDGsにどのように取り組むべきかを示した行動指針「SDGコンパス」の5つのステップに沿って、サステナビリティ経営の推進を支援。パーパスの策定やマテリアリティ特定、価値創造ストーリーの策定から、統合報告書やサステナビリティサイト、ブランディング動画等の開示情報をつくるパートまで、一気通貫でアドバイザリーを行うことを強みとしている。2022年1月よりQUICK社とESGアドバイザリー・サービスの共同事業を開始。ESG評価を向上させるサービスにも注力している。

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