特別対談:サステナブル時代に適応した企業コミュニケーション

企業はサステナビリティ経営にどう取り組むべきか

  • 寺山 正一

    日経BPコンサルティング 代表取締役社長 寺山 正一

コロナ禍やウクライナ情勢、資源高騰、世界的インフレなど、社会が未曽有の変化にさらされる今、企業はサステナビリティへの対応にどう取り組むべきか。
ESGシフト代表取締役の本田健司氏と当社代表取締役社長の寺山正一が語り合った

文=松田 慶子、写真=海老名 進

世界で浸透するサステナビリティ経営今、
日本企業が理解すべきこととは

寺山 周知のように2022年は大きな社会変化に見舞われましたが、サステナビリティを重要視する動きは変わらない、むしろ加速しているように感じます。

本田 同感です。社会がサステナビリティの実現に向かう流れは今後も加速し続けるでしょうし、経済活動を実際に担っている企業が主体となりけん引していくと考えています。現に、CSV、つまり事業を通して社会貢献しようという意識が企業の間で高まっていますね。

寺山 はい。そのようにサステナビリティ経営が広がっている背景は、何だとお考えですか。

本田 国内では2021年6月のコーポレートガバナンス・コード改訂をきっかけに、上場企業を中心に、サステナビリティ経営の推進に向けて何かしなくてはいけないという機運が高まりました。
ただ、サステナビリティ経営とは何か、という理解が不十分なまま、統合報告書の作成だけを進めている企業もあるようです。

本田 健司
株式会社ESGシフト 代表取締役 本田 健司

サステナビリティ経営とは、ひと言で言うと長期視点での経営だと私は説明しています。企業が長期に存続し続けるには、社会や環境への配慮が必要になるし、競争優位性を持ち続ける必要がある。そのために研究開発や人的資本をどうやっていくのか、長期的に考えて経営していくことがサステナビリティ経営です。そして競争優位性を確立し維持する道筋を投資家に示すものが統合報告書というわけです。

サステナビリティ経営と企業の成長は表裏一体
長期的にもうけようという姿勢が軸に

寺山 サステナビリティに取り組み競争優位性を得た企業として、どのような企業を思い浮かべますか。

本田 ネスカフェを擁するネスレが代表例です。コーヒー豆生産者は零細農家が多かったため、ネスレは農業技術指導や水環境の支援、農家からの直接購入を進めています。農家の生産環境も向上し、ネスレも安定してコーヒー豆を購入できるという仕組みです。
ユニリーバも有名な実践企業です。発展途上国の農村地域において、NPOと共同し女性の自立支援、衛生状態改善などを行っています。するとそこに需要が生まれ、自社の石けんなどの市場を築くことができる。

寺山 どちらも短期的には企業活動を制限することもあるでしょうが、農村が成立しなくなったらプロダクトの生産もできなくなるわけで、まさに30年、50年先を見据えた活動といえますね。

寺山 正一
日経BPコンサルティング 代表取締役社長 寺山 正一

本田 日本でも、ダイキン工業が省エネ空調機を発展途上国にサブスクリプション、つまり初期投資不要の形で提供するなど、CSV実践企業が増えています。

寺山 反対に、サステナビリティの取り組みが競争力につながらない企業の問題点は何でしょう。

本田 やはり、長期的視点でもうけようとする姿勢の弱さだと思います。サステナビリティと企業の成長は表裏一体で、もうけることとサステナビリティの両方を実践しなくてはいけない。その際、イノベーションへ結び付く要素に、しっかりと長期的な投資をする計画や体制を整えていない企業が多いようです。
実は、投資家がコーポレートガバナンスの強化を求める理由もそこにあります。統合報告書には取締役のスキルマップが掲載されているでしょう。あれは本来、イノベーションを起こそうとする経営者を後押しする取締役の体制を示すためのもの。イノベーションを起こせる組織であることを投資家は求めているのです。

自社の価値創造ストーリーを
統合報告書でアピールできているか

寺山 現在、統合報告書を発行する日本企業は700社を超えています。改めて、どのような情報開示が必要なのか教えていただけますか。

本田 統合報告書を財務情報と非財務情報を統合したものと考える人が多いのですが、本来の意味は、「『統合思考』に基づき、主に中長期機関投資家に対して、 短・中・長期にわたる『価値創造プロセス』を『価値創造ストーリー』として伝える報告書」です。難しいですね(笑)。
まず統合思考ですが、簡単に言えば社会と共生し事業を行うこと。難しく言えば外部不経済の内部化です。

寺山 例えば、工場排水を川に垂れ流して社外にかける迷惑が外部不経済。それを社内の課題として考えるのが統合思考ということですね。

本田 はい。次の価値創造プロセスというのはビジネスモデル、競争優位性を確立し保つための設計図といえます。そして、その価値創造プロセスを、企業理念 や歴史・沿革、経営資源などとの関連性を示しつつ、「こういう歴史や資源を持つ私たちだからこそ、こう した価値を生み出せる」と、投資家を納得させるストーリーに仕立てたものが価値創造ストーリーです。

寺山 自分たちの企業活動をしっかり棚卸しして、我々はこういうビジネスで社会に貢献していくとアピールするツールが統合報告書というわけですね。伺っていると、企業のサステナビリティ部門の役割は非常に重要で、経営に近い。

本田 その通りです。サステナビリティ部門の役割は経営サポートです。そして経営者と投資家、両方の目線を持つ必要があります。担当される方の負担は大きいかもしれませんが、必要に応じて外部コンサルタントを入れつつ、サステナビリティの取り組みをうまく進めていただければと思います。

寺山 私たちも、100年先も続く企業の土台づくりをお手伝いしてまいります。
本日はありがとうございました。

本田 健司 氏

株式会社ESGシフト
代表取締役
本田 健司(ほんだ・けんじ) 氏

㈱野村総合研究所にてシステムエンジニアとして企業のシステム開発に携わる。1985年~94年証券・公共などのシステム開発に従事、1995年~98年香港駐在、1999年~2012年コンビニ企業のネット通販や携帯・スマホのカーナビアプリ開発等、新規事業の立上げに従事、2013年本社に異動、14年サステナビリティ推進体制の立上げに携わり、16年10月~ 22年3月サステナビリティ推進室長として従事。2022年6月に野村総合研究所を退職後、株式会社ESGシフトを設立。

※肩書は記事公開時点のものです。

寺山正一

日経BPコンサルティング 代表取締役社長
寺山 正一

1964年生まれ。87年東京大学経済学部卒業後、麒麟麦酒に入社。89年日経BPに入社し、「日経ビジネス」編集部記者、ニューヨーク特派員、格付投資情報センター出向を経て、2008年から「日経ビジネス」編集長を3年間務める。2019年より現職。

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