ブランド・ジャパン活用事例

ブランド力の可視化に役立つ調査「3年で総合力100位以内目指す」

  • 石原 和仁

    ブランド・ジャパン プロジェクトマネージャー石原 和仁

アイリスオーヤマ(以下、アイリス)は2019年度でグループ売上高5,000億円に達し、グループ売上高を公開して以降、17年連続増収という成長を遂げている。「なるほど家電®」シリーズでヒットを連発、いまや売り上げの6割近くを家電が占めるようになった。ブランド総合力もそれに従って、毎回順位を上げ、2010年には477位だったが、2019年は210位になった。しかし、同社はそれに満足せず、「3年で100位以内を目指す」と広報室の中嶋宏昭室長は力強く語る。そのためにどのような作戦を練っているのか、中嶋室長に聞いた。
アイリスオーヤマ株式会社 広報室 室長 中嶋 宏昭氏

聞き手・文=石原 和仁/写真=橋本 敏彦

ブランド・ジャパン(以下、BJ)ご利用の背景と、自社ブランドに対するお考えをお聞かせください。

中嶋 購入した一番の要因は社長交代です。創業者の大山健太郎が54年間社長を務め、年商500万円の零細企業をグループ5,000億円にまで成長させ、2018年7月に大山晃弘にバトンタッチしました。それまでは正直に言えば、ブランディングに関する話は社内であまりありませんでしたが、現社長がブランドを可視化して現状分析をしたいという意向を持っていました。そこで、調べる中でBJに出合ったわけです。データを分析することで、いろいろなことが見えてきて経営陣もブランドに対する考えが変わりました。

ブランド調査として、BJをお選びいただいた理由は何でしょうか。

中嶋 ノミネートブランド数と回答者数が多いということですね。調査対象の年齢も日本の人口構成を考慮しているので、よりリアルに現状が把握できると思ったことが理由です。

社内ではどのような報告をされていますか。またその反応はいかがですか。

中嶋 主に経営陣に報告していますが、会長は思っていたことと実際のデータにギャップを感じていたはずです。総合力の順位はあまり気にしなかったのですが、「フレンドリー」と「コンビニエント」が予想よりスコアが低かった。当社は生活者視点での商品開発を心掛けており、お客様にフレンドリーと思われていると想像していたので私自身も意外でした。しかし、そのことに気づけたことに意味があったと思っています。

御社は「イノベーティブ」の因子が高いわけですが、私もイノベーティブな会社だと思っていました。新商品開発を毎週検討する月曜日の新商品開発会議やヒットしている商品を通じて、ダイソンのような会社だというイメージを強く持っていました。ダイソンも御社同様に徹底した顧客視点で商品開発をしており、結果的に業界に風穴を開けるような商品を発売しています。

中嶋 だからこそ、イノベーティブがおのずと高くなります。フレンドリーの因子はもう少し、ユーザーとのタッチポイントが拡大してから上がってくるので、あと2~3年ほどかかるのではないでしょうか。グーグルもイノベーティブが突出していたのですが、ようやく一昨年からフレンドリーが上がり始めました。

フレンドリーを上げるための施策など今後の課題はありますか。

中嶋 年々、社内におけるBJの重要度は上がっています。過去3年間でメディア露出やテレビに取り上げられる件数などは2ケタの勢いで伸びているのに、ブランド総合力は50位程度しか上がっていません。やはり、メディア露出だけが要因ではないのだと分かりました。

お客様とのコンタクトポイントの改善や充実が重要であって、これまでブランディングは経営陣と広報だけで担当していましたが、マーケティングやデザインなど部門横断で取り組むことにしました。

社長からは「3年で100位以内に入るような戦略を考えるように」と厳命を受けていまして、一気に100位も上げるとなると、単なる頑張りでは通用せず、抜本的に変えないといけないと思っています。

いろいろと考えるうちに気づいたのが、社内を変えることです。これまで社外を中心に考えていましたが、ブランドは社員と一緒に構築する必要がある。社員とベクトルを合わせるためにインナー広報を強化することにしました。

さて、御社は2011年の東日本大震災を機に大きく変わり、生活における不満や課題を解決する「ホームソリューション」から、日本の課題を解決する「ジャパンソリューション」にシフトされましたね。

中嶋 最近ではジャパンソリューションに加えて、「ビジネスソリューション」も重視しています。東京アンテナオフィスを浜松町に開いたのもそのためです。ここで働き方改革を実践し、オフィス空間の提案を法人向けにしていきます。日本ではサプライチェーンや生産性などの効率性が低い場合がよく見られます。そこに当社ならではといえるサービスを提供できると考えています。

ビジネスソリューションという新たな事業もブランディングも部門横断で目的を共有することが重要だと思います。カルビーを成長させた元会長兼CEOの松本晃さんは「日本で一番フレンドリーな会社を目指す」と社員の意識と共有感を高め、「堀りだそう、自然の力。」をキャッチフレーズに、自然素材を活用していることを訴えたり、価格を下げてユーザーとのコンタクトポイントを増やしたり、ジャガイモのキャラクターを目立つようにするなど次々に策を打ち出しました。

中嶋 フレンドリーのスコアと共に、我々がショックを受けたのが、「品質が優れている」という項目が低かったことです。経営陣に見せると、会長や社長は「やっぱりな」という反応でした。あやふやだった実態をはっきりと見せてくれるのはBJのいいところです。
実はブランド分析のためにトップ100ブランドの平均値と当社のスコアを比較したのです。それによって、当社の何が強いのか、弱いのか分かってきました。家電カテゴリーだけでブランドを考えている限り、100位に入るのは無理です。

多くのユーザーには高価格は高品質という思い込みがあります。だから、低価格路線では品質が低く見られやすいのです。ユニクロもニトリも当初は品質のスコアが低かったですが、ヒートテックなど機能性商品が出てくると上がり始めました。ニトリも2019年に総合力7位に入っています。

中嶋 確かにそうですね。2019年にニトリが7位、ダイソーも8位に入っています。そのことで私たちにもチャンスがあると可能性を感じました。前述したブランド分析でIT企業、低価格路線メーカー、家電メーカー、話題性の高い企業の4カテゴリーで比較したのですが、結論として強いところを伸ばしていくべきだと考えています。

ここまでBJのデータを使いこなすためのコツは何でしょうか。

中嶋 いままで個々の従業員がイメージで考えていたので、ここまで数値化できると便利です。あとは、「興味がある」「好きである、気に入っている」の項目が低いのも気になっています。

話題性のあるブランドは「興味」「好き」が低く出る傾向にあります。アマゾンやグーグルもそうでした。しかし、ある点を超えると、高くなることも分かっています。

中嶋 これまでブランディングのためには新たに何かやらなければと思っていましたが、いまできていることをもっとしっかりと発信しなければと反省しています。特にCSRに関してはこれまでも取り組んでいたのですが、発信が弱かった。経営陣もそのことに同意してくれました。今年4月からは部門横断の委員会を作って、SDGsを含めて取り組むことにしています。

P&Gで伝説のマーケッターと呼ばれたジム・ステンゲルが『GROW(成長)』(日本版書名は『本当のブランド理念について語ろう 「志の高さ」を成長に変えた世界のトップ企業50』)で、「高い志を持ったミッションドリブンの会社50社を分析したところ、ROI(投資収益率)の伸び率が平均より4倍高い」と述べています。ミッションドリブンであることとブランド力は自然と売り上げにつながるわけです。御社も同様でしょう。社員の意識は変わってきましたか。

中嶋 最近、「アイリスオーヤマブランド」という言葉が社員からよく出るようになりました。営業もブランドこそ価格競争を回避する要素だと分かってきました。これから社内でブランドセミナーを開催して、社員の理解を深めたいとも考えています。私は広報を担当するようになって10年経ちますが、これまでメディア対応が仕事だと思っていました。ところが、ブランドを扱うようになってそうではないということに気づき、ますます、広報の仕事が好きになりました。BJがそれを気づかせてくれたわけで、広報は面白いし、まだまだやりたいことがたくさんあります。

ブランド・ジャパン活用事例

中嶋 宏昭氏

アイリスオーヤマ株式会社 広報室 室長
中嶋 宏昭氏

2003年アイリスオーヤマ入社。
営業、マーケティング部、購買部を経て、2011年より広報室に異動し、東京分室の立ち上げに従事。現在は、広報・PR、広告・宣伝の責任者を務める。

※肩書きは記事公開時点のものです。

ブランド本部 ブランドコミュニケーション部 コンサルタント
石原 和仁

大学ではバイオテクノロジーを専攻。卒業後は、飲料メーカー、リサーチ会社、マーケティング会社を経て、日経BPコンサルティングに入社。2015年より日本最大のブランド価値評価調査「ブランド・ジャパン」のプロジェクトマネージャーを担当。様々な企業のブランディング業務(調査、体系づくり、PDCA設計、ブランドメッセージ制作など)に従事。

 

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