ブランド・ジャパン活用事例

サイボウズ、パーパスを原動力に“行動するブランド”として認知を高める

  • 金縄

    マーケティング本部 ビジネスアーキテクト部 金縄 洋右

世界累計1000万人以上がビジネスで日夜活用するグループウェア「kintone(キントーン)」をはじめグループウェアを主力事業とするサイボウズ。
同社はコロナ禍以前から“世の中の当たり前”にとらわれない独自の取り組みを継続し、「ブランド・ジャパン2023」において2015年以来8年ぶりにノミネートブランドとなった。
会社全体で行動し、それを世の中に分かりやすく発信することでブランディングに成功してきた同社の戦略と施策を、取締役でコーポレートブランディング部の穂積真人氏に聞いた。
(2022年12月14日開催、「『ブランド・ジャパン2023』キックオフセミナー」より)
文=斉藤 俊明
写真=木村 輝
構成=金縄 洋右

会社全体で「行動した事実」の積み重ねを重要視

「ブランド・ジャパン2022」追加調査の結果を見ると、サイボウズをとくに高く評価しているのは「30代男性」と「50歳以上男性」で、役職は「経営者役員」「部長課長クラス」という課長以上の役職者、そしてエリアは「東京」が高い。
取引先の選定時には「業界リーダーとしての役割」を重視する人が多く、ブランドイメージとしては「この企業から学びたい」「時代を切り開く」「チャレンジ精神がある」「自由闊達である」の4つで高い数字となっていた。

この結果を受け、穂積氏は「決裁者の認知獲得とイメージアップを目指してコーポレートブランディングに取り組んできましたが、ある程度狙い通りのブランド認知ができていると考えています」と評価する。

前職で大手広告代理店に勤めていた穂積氏は、様々な商品の広告に携わってきた。商品のブランディングでは事実に基づいたキャッチコピーを作る。ところが多くの企業ブランドは事実に基づいたメッセージではなく、目指していきたい未来を語ることが多いとして「メッセージを受け取る生活者はしっくりこないため、共感しにくい」と指摘した。

それでは、サイボウズはどのように取り組んできたのか。穂積氏は、サイボウズは「行動するブランド」であり、その事実を大事にしていると語った上で、3つの事例を紹介した。

まずはインフレ特別手当。急激なインフレで想定外の出費が増える中、サイボウズは社員に対し最大15万円を支給した。これにより「サイボウズが従業員を大切にし、時代の流れに柔軟に対応する会社であることが伝わった」と穂積氏。

2つ目は社内公募型取締役制度だ。サイボウズでは社内情報が基本的にオープンで、社員に共有されている。情報共有が徹底している以上、不正や判断ミスは起こりにくくなり、結果として誰が取締役を務めても問題はない、という考え方だ。
この取り組みは同社のコーポレートガバナンスの具体的行動として、認知獲得の効果が高かったと穂積氏は振り返る。

そして3つ目は、「複業」が自由であること。穂積氏自身も地元福島の自治体やスポーツチームでのマーケティング業務を「複業」にしているとのことだ。

これら3つはメディアで紹介されることが多かったが、ブランドと生活者の接点はメディアだけではなく、雑談の中で話題に出たり、SNSで目にしたりすることもある。
もちろん、実際に製品・サービスが使われるのも重要な接点だ。

図:ブランドの接点

(資料提供:サイボウズ株式会社)

「様々な接点がサイボウズの価値につながっていることを体感しています」と語る穂積氏は、多種多様な接点でブランドの魅力を伝えていくにはブランディング部門の活動だけでは限界があるため、3つの事例のように「会社全体で行動していくことが、ブランド価値の積み重ねにつながっていきます」と話した。

パーパス起点のブランディングで支持されるブランドに

会社全体で行動していくためのポイントは何か。穂積氏は「パーパス」だと指摘する。サイボウズのパーパスは「チームワークあふれる社会を創る」。
この言葉は社員に深く浸透している。3つの事例もパーパスがあるからこそ生まれた「行動」であり、「世の中にある暗黙のルールにとらわれず、パーパス実現に向けて正しい選択をしていくことが、より良い取り組みにつながっていくと考えています」と穂積氏は語る。

ただ、「行動するブランド」としてのサイボウズも最初から存在したわけではない。「かつてはブラック企業」(穂積氏)で、2005年には離職率が28%に達していた。そして、社員がどんどんとやめていく状況を打破するため、人事制度の見直しや社内文化の整理とともに行った施策が、パーパスの策定だったという。その背景には「人間は理想に向かって行動する。全社共通の理念を設定しよう」という青野慶久社長の強い想いもあった。

こうして会社全体で行動する文化が醸成され、根づいてきた中で、ブランド認知を広げるのがコーポレートブランディング部の役割だが、「認知を獲得するだけではダメ。生活者がきちんと納得し、共感してくれなければ、ブランディングとはいえません。つまり、認知と同時に好意の獲得も狙っていくのが仕事です」と穂積氏。

Purpose(存在意義)チームワークあふれる社会を創る 人間は理想に向かって行動する。全社共通の理想を設定しよう!

(資料提供:サイボウズ株式会社)

同部の役割として、「サイボウズの認知度を高めるため、社内のネタを社外にわかりやすく、面白く、社会問題を絡めながら“編集”し、より多くの人に届ける」ことを大事にしていると語った。

この“編集”にこそこだわりがある。社内の話題をそのまま伝えるだけでは関心を持ってもらえない。そのためブランドジャーナリズムという客観性の視点も併せ持ち、社会の関心とサイボウズの取り組みの重なりを見つけながら伝えていく、という姿勢だ。
穂積氏は、“編集”の概念を生かした取り組みとして、社内の事例や探求したいと考える個人の働き方・生き方を記事にしているオウンドメディア「サイボウズ式」や、“働くママ”を応援する動画、コロナ禍の2020年に実施した「がんばるな、ニッポン。」という広告コミュニケーションなどを紹介した。

コーポレートブランディング部 10年間の取り組み

(資料提供:サイボウズ株式会社)

「行動するブランド」であり続けるため、パーパスを原動力に会社全体でブランディングを進めてきたと強調する穂積氏。今後もコーポレートブランディング部の“編集”力をうまく生かしながら、独自の取り組みを世の中に発信し続けていくことだろう。

ブランド・ジャパン活用事例

穂積 真人 氏

サイボウズ株式会社
取締役 ビジネスマーケティング本部
コーポレートブランディング部
穂積 真人(ほづみ・まさと)氏

福島県出身・在住。総合広告代理店を経てサイボウズに入社。サイボウズではコーポレートブランディングやオウンドメディア「サイボウズ式」の運営を担当。複業として自治体、プロスポーツチーム、小売企業のマーケティング業務に従事している。

※肩書きは記事公開時点のものです。

金縄 洋右

マーケティング本部 ビジネスアーキテクト部
金縄 洋右

企業コミュニケーション領域(ブランドコミュニケーション、デジタルコミュニケーション、コンテンツコミュニケーション、サスティナビリティ)の営業、デジタルマーケティング、販促施策などを担当。福岡県福岡市出身。

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