2030年を先取りする企業の全方位コミュニケーション③

ソニーがステークホルダーとの共創によって目指す価値向上とサステナビリティの取り組み

  • 金縄

    マーケティング本部 ビジネスアーキテクト部 金縄 洋右

ソニーは2021年に組織改革を行い、それまでのソニー株式会社を、グループ本社機能を担うソニーグループ株式会社と、祖業のエレクトロニクス事業を担うソニー株式会社に分割した。新しい体制に生まれ変わったソニーは、社内で深く浸透したパーパスをグループのサステナビリティの考え方に反映し、各事業会社の具体的取り組みに落とし込み、ステークホルダーとの対話を続けながらサステナビリティ活動を進化させている。その全体像をソニーグループのパーパスの策定とそのコミュニケーションに関わり、現在はソニー株式会社 執行役員 広報・渉外・サステナビリティ担当を務める今田真実氏に話を聞いた。

2022年11月30日開催
「NBPCキックオフカンファレンス2023」
基調講演:「ソニーにおけるステークホルダーコミュニケーション ~Purposeとサステナビリティ~」より

文=斉藤 俊明
写真=海老名 進
構成=金縄 洋右

パーパスをグループのサステナビリティに対する考えに反映

ソニーグループはグローバルで約11万人の社員を抱え、ゲーム&ネットワークサービス、音楽、映画、エンタテインメント・テクノロジー&サービス、イメージング&センシング・ソリューション、金融という6つの事業を展開する。

全世界のグループ社員が価値創出に向け同じベクトルで進んでいくには、パーパス(存在意義)と共通するバリュー(価値観)が必要との思いから、パーパスとして「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」を掲げ、日々仕事を行う上で大切にすべきバリューを「夢と好奇心」「多様性」「高潔さと誠実さ」「持続可能性」と定めている。「“ソニーらしさ”という言葉は社内外でよく使われていますが、人によって似て非なるものを指していることもあり得るので、創業時代から培われてきた暗黙知の企業文化をバリューで言語化しました」と今田氏は語る。

このパーパスとバリューは、吉田憲一郎CEOが2018年4月の就任直後から検討を始め、2019年1月に発表したものだ。CEO自身が時間をかけて社員の意見を聞き、各事業のトップとも意見交換しながら、じっくりと作り上げたという。一方、社外向けには「テクノロジーに裏打ちされたクリエイティブエンタテインメントカンパニー」というアイデンティティーを打ち出し、ソニーグループが向かう経営の方向性を「人に近づく」という言葉で表した。

パーパスの社内浸透に向けたアクションは、吉田CEOのビデオメッセージをはじめとして、様々な形で社員とコミュニケーションをとりながら継続的に実施。パーパス策定後だけでなく、パーパスの前身である、従来掲げていたミッションやバリューを見直していく初期段階から社員を巻き込んだ。「経営チームのメンバーのみならず、社員の思いもこもった言葉が完成しました。これが自分ごと化や共感につながり、結果として社員に深く浸透して、エンゲージメント向上にも寄与していると考えています」と今田氏は説明する。

実際、社員意識調査でも9割近い社員がパーパスとバリューに共感していると答え、7割の社員はパーパスとバリューを日々の業務の指針にしていると回答しており、その浸透度合いが見て取れる。パーパスとバリューの社外向け発信にも取り組み、ビジネスパートナーやステークホルダーに向けてソニーへの共感を訴えている。

今田 真実 氏

ソニー株式会社
執行役員 広報・渉外・サステナビリティ担当
今田 真実 氏

パーパスや「人に近づく」という経営の方向性は、ソニーグループのサステナビリティに対する考え方にも色濃く反映されている。パーパスのもと、ソニーが展開する「人」を軸にした多様な事業で価値をもたらすには社会と地球が健全であることが必要であり、その前提の上で「対話を通じてステークホルダーとの信頼を築きながら、イノベーションと健全な事業活動を通じて企業価値の向上を追求し、持続可能な社会の発展に貢献することを目指す」というのがその考え方だ。

サステナビリティの取り組みにあたり、2022年にグループ全社で改めてマテリアリティ分析を実施。重要項目の抽出・整理、自社視点とステークホルダー視点での評価を行った結果、ソニーの価値創造に影響を与える最も重要な項目として「気候変動」「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン」「人権の尊重」「サステナビリティに貢献する技術」の4つを特定した。また、この4つ以外にも近年重要度が高まっている項目として、AI (人工知能)倫理、情報セキュリティ、プライバシー、サーキュラーエコノミーなどの項目が抽出された。今田氏は「これらの項目は、ソニーがテクノロジーに裏打ちされたクリエイティブエンタテインメントカンパニーとして新しい感動空間を創出し、成長していく上で今後ますます重要になってくると考えています」と語った。

続いて、今田氏は執行役員を務めるソニー株式会社のサステナビリティの取り組みについて語る。同社はグループ内でエンタテインメント・テクノロジー&サービス分野を担うが、この分野は従来、「エレクトロニクス」と呼ばれており、2022年4月に名称を変更したものだという。

ソニーグループでは、グループのパーパスに基づくビジョンを各事業会社で制定している。ソニー株式会社のビジョンは「世界中の人と社会に、テクノロジーの追求と新たなチャレンジによって、『感動』と『安心』を提供し続ける」。そして経営方針は、「未来を共創する」という目標に向けて収益と成長の2軸で事業構造を確立することだ。

アンケートで社員や経営チームの思いを集め、「感動にあふれる未来のために、私たちができること」という社内向けのサステナビリティメッセージを策定。その上で、特に「環境」「アクセシビリティ」「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン」の3領域に注力している。「この3つについてはソニーグループをけん引していく覚悟で取り組んでいます」と今田氏は強調する。

「サステナビリティ自体が企業文化と経営の基盤であって、コストではなくお客様にとっての付加価値でありたいという捉え方をしています」と今田氏。プレスリリースや製品情報サイトなどで取り組み内容を伝えているほか、サステナビリティの特設サイトやSNS、各種イベントへの展示などでもソニーの思いを発信している。

最後に今田氏は「『未来を共創する』という目標は当然、ソニーだけで達成できるものではありません。クリエイターや顧客、パートナーの理解があって実現できるものです。今後もステークホルダーとのコミュニケーションを密にとりながら、世界中の人と社会に、テクノロジーの追求と新たなチャレンジによって、感動と安心を提供し続けていきたいと考えています」と話した。

「NBPCキックオフカンファレンス2023」
2030年を先取りする企業の全方位コミュニケーション

基調講演 :
「ソニーにおけるステークホルダーコミュニケーション
~Purposeとサステナビリティ~」
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連載:2030年を先取りする企業の全方位コミュニケーション

今田 真実 氏

ソニー株式会社
執行役員 広報・渉外・サステナビリティ担当
今田 真実(いまだ・まみ)氏

1993年、ソニー株式会社(現・ソニーグループ株式会社)入社。放送・業務用製品の営業や人事での採用担当を経て、広報業務に従事。
2017年広報・CSR部を統括するシニアゼネラルマネジャーに就任。
2021年より現職、ソニー株式会社 広報、渉外、サステナビリティ担当執行役員。

※肩書は記事公開時点のものです。

金縄 洋右

マーケティング本部 ビジネスアーキテクト部
金縄 洋右

企業コミュニケーション領域(ブランドコミュニケーション、デジタルコミュニケーション、コンテンツコミュニケーション、サスティナビリティ)の営業、デジタルマーケティング、販促施策などを担当。福岡県福岡市出身。

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