2030年を先取りする企業の全方位コミュニケーション①

ワークスタイル変革の推進で社員の成長と幸福追求を目指すJALの取り組み

  • 金縄

    マーケティング本部 ビジネスアーキテクト部 金縄 洋右

人的資本経営においては、従業員エンゲージメントを高める人材戦略が大切な要素となる。日本航空株式会社(JAL)では、早くからワークスタイル変革の推進によってサステナビリティ実現を目指し、社員の働きがいと物心両面の幸福を追求している。ワークスタイルを変えていく意義とその具体的施策、取り組みを進める上でのポイントについて、人財本部 人財戦略部 人財戦略グループ アシスタントマネジャーの中丸亜珠香氏に聞いた。

2022年11月30日開催
「NBPCキックオフカンファレンス2023」
特別講演①:「ワークスタイル変革を推進する意義とは」より

文=斉藤 俊明
写真=木村 輝
構成=金縄 洋右

働き方の見直しで、エンゲージメントの向上と全社員の幸福を追求する

JALグループの現中期経営計画(2021〜25年)は、「安全・安心」と「サステナビリティ」を2つの大きな柱としている。また、その先にある将来のありたい姿(JAL Vision)や企業理念を実現していくため、2019年に全社員が守るべき7つの行動規範を設定しているが、ワークスタイル変革については、その項目の1つ「一人一人の尊重と働きがい」において継続的に取り組むことを明言している。2022年の中期経営計画では「多様な人財の活躍・定着」「社員のモチベーション・満足度向上」「業務プロセスの改善」に重点的に取り組んでいる。

「働きやすい環境の中で社員一人ひとりが意欲を持って働くことは、『全社員の物心両面の幸福を追求する』、そのうえで『お客さまへ最高のサービスを提供し、社会の進歩発展へ貢献する』、という自社の企業理念を実現するための礎となります。働きがいを感じることで社員が幸せになれば、より良い商品・サービスが提供できるようになり、企業価値が向上する。結果として、ますます社員が幸せになる。そのループがサステナビリティの実現につながっていくと考えています」と語る中丸氏。JALがワークスタイル変革を推進する中でポイントとなった要素として以下の5つを挙げた

  1. 大義の明確化とリーダーのコミットメント
  2. 素早く着手する進め方
  3. 専任組織による推進
  4. 制度づくりと見える化の仕組み
  5. 全社的な取り組み

JALではまず2014年にD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)推進に着手したが、このとき「女性をはじめとした多様な人財の活躍が企業価値向上と活力の源泉になる」という考え方を当時の社長自ら社員に伝えた。さらに翌年、「多様な人財の活躍には柔軟な働き方や残業のない働き方の推進が重要」との認識から、やはり社長メッセージとしてワークスタイル変革への着手が発信された。2015年といえばSDGsが国連で採択された年であり、同社が先駆的に取り組みを始めていたことがわかるエピソードだ。

この際、ワークスタイル変革推進の目指すところとして「全社員がやりがいを持って働き、成長すること」「生み出された時間で自身の時間を充実させ、様々な経験を通じて成長すること」、そして「成長した社員が生み出す付加価値の高い仕事の成果として、会社も成長すること」が“あるべき姿”だと社員に説明。「社員の誰もが納得できる大義名分を最初から、しかもトップコミットメントとして掲げることができたのはとても大きいことでした」と中丸氏は振り返る。

とはいえ、最初から社員の100%の賛同を得られたわけではなく、現状に課題認識すら持たない社員もいたという。その中でワークスタイル変革を進めていくため、素早く着手する方法として「小さく産んで大きく育てる」(中丸氏)進め方を採用した。ワークスタイル変革に先行して取り組みたいと立候補した部署(調達本部)で、ペーパーレス化やオフィス改革、リモートワークなどを一気に進め、従来の働き方を一新。洗練されたオフィスでノートパソコン、スマートフォンを駆使して働く姿は他の部署の社員の羨望の的となった。また、仮想デスクトップ配備でテレワークを可能としたことで、調達本部社員のエンゲージメントも向上した。これが起爆剤となり、2019年までにほぼ全ての国内事業所が、フリーアドレスとリモートワークが可能な状態に生まれ変わったという。

中丸 亜珠香 氏

日本航空株式会社
人財本部 人財戦略部 人財戦略グループ アシスタントマネジャー
中丸 亜珠香 氏

続いて、3点目の要素であるワークスタイル変革の専門組織は2015年に設立され、全社的なかじ取りと変革実現に向けた全社共通のシナリオの作成を行った。「各部署にワークスタイル変革担当をアサインし、柔軟な働き方を実現するためのプロセスをマニュアルで提示しました。これによって、誰がいつどのように変革を進めていけばよいかが明確になり、どの部署も立ち止まることなく対応できました」と中丸氏。このマニュアルに沿い、ペーパーレス化やワークフローのオンライン化、ワークプレイスのクラウド化などを進めてきたことで、2020年2月以降のパンデミック下でも緊急事態宣言の翌日から在宅勤務へスムーズに移行できたという。

並行して、4点目の要素となる在宅勤務・テレワークに関する制度導入と業務の見える化の仕組みづくりも進めた。制度についても“小さく産んで大きく育てる”方式でトライアルを重ね、徐々に制度を拡充していったが、その過程では社員の声を聞き、使い勝手の良さにこだわって制度設計をしたという。とりわけ、自己成長や仕事の幅の拡大につながるワーケーション・ブリージャー制度は、利用した社員の満足度がきわめて高い。「これまでのように家か会社かの二者択一ではなく、旅行中の一部の時間を業務に充てる、出張先で休暇を取るなど、仕事と余暇を組み合わせた枠にとらわれない働き方が、コロナ後のニューノーマルになっていくと考えています」と中丸氏は話す。

加えて、業務プロセス改革も実施。こちらも専門部署の社員が社内コンサル的な立場で、業務を効率化したい部署に伴走し、業務棚卸しによる可視化や個人別のスキルレベル分解、特定業務のフロー化による課題特定などを行う。最終的な業務の見直しではソリューションとしてRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)など自動化の活用が多くなっており、社員自身がRPAを作成するケースも出始めているという。

中丸氏は最後に、全社的な取り組みの推進についてこのように語る。

「対面業務が中心となる予約、空港、客室、整備部門などの社員に関しても、1人1台のタブレット支給やデジタル技術活用によるワークスタイル変革を推進してきました。最近は客室乗務員からもRPAを使って業務効率化したいとのリクエストがあり、DX推進の意識が社員一人ひとりに見られるようになりました。ワークスタイル変革をフックとしたデジタルスキルの習得は、業務効率化とDX推進の両方が叶うため、リスキリングとしてもきわめて効率性の高い方法だと考えます」

こうした取り組みの成果として、社内エンゲージメント調査では「仕事が忙しすぎ、ほとんど仕事だけの生活になっている」という答えは年々減少。反対に「長く安心して働ける環境にある」という答えは増える傾向にある。「これらの調査から、ワークスタイル変革が従業員エンゲージメントに良い影響を与えている可能性があります」と、中丸氏は手応えを示した。

「NBPCキックオフカンファレンス2023」
2030年を先取りする企業の全方位コミュニケーション

特別講演① :
「ワークスタイル変革を推進する意義とは」
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連載:2030年を先取りする企業の全方位コミュニケーション

金縄 洋右

マーケティング本部 ビジネスアーキテクト部
金縄 洋右

企業コミュニケーション領域(ブランドコミュニケーション、デジタルコミュニケーション、コンテンツコミュニケーション、サスティナビリティ)の営業、デジタルマーケティング、販促施策などを担当。福岡県福岡市出身。

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