パーパス浸透実態調査から見えた課題、対処法

パーパス経営の未来図、“自分ごと化”できる組織へ

  • マーケティング本部 ビジネスアーキテクト部 金縄 洋右

日経BPコンサルティングでは全国のビジネスパーソン(従業員層、経営者層)1000人に対し、自社の社会的存在意義(パーパスなど)についての浸透度合いや取り組み、社内課題に関する調査を実施しました。パーパス策定や浸透プロジェクトに第一線で携わるベネッセコーポレーション・経営推進部 部長の富川麻衣子氏と、ライオン・経営企画部コーポレートブランド戦略室 室長の阿曾 忍氏に調査結果の考察を交えつつ、いかにしてパーパスを最大限に生かす組織を構築し未来へとつなげていけるか、そのポイントを聞いた。
(2022年5月20日開催セミナー「実践・企業価値向上 パーパスを最大限に活かす組織づくりとは」より)

【聞き手】
日経BPコンサルティング
コンテンツ本部 編集3部 部長
菅野 和利

文・構成=金縄 洋右、写真=木村 輝

自社の存在意義「パーパスとして規定」の割合は少ない

菅野 まず初めに、「社会的存在意義を何で規定しているか」という質問結果についてです。「企業理念として規定している」か、それとも「パーパスとして規定している」かという選択回答ですが、パーパスとして規定しているという数字は経営者層で8.0%、従業員層で16.8%と実はパーパスとして規定しているという企業は、まだまだ少ない結果でした。

企業の社会的存在意義(パーパス等)浸透調査レポート 無料進呈中

また、従業員層に自社の社会的存在意義について聞いたところ、回答者の約3分の1が「関心がない」との回答でした。経営者層からすると、従業員にパーパスを自分ごととして捉えてもらえていない課題がある印象です。

「関心がない層」の従業員はどの組織にもいると思います。このデータを阿曾様はどのように捉えますか。

阿曾 従業員もその企業にとってのステークホルダーとなります。会社とステークホルダーの関係の基盤が「パーパス」とするなら、自社の社会的存在意義を見つけられない状態では、経営者層も従業員層もなぜ共にその会社で働いているか分からなくなってしまうのではないでしょうか。

従業員が情熱を持って仕事をする上では、会社の存在意義を考えるよりも、先に自己成長を追い求めがちになるとも考えられます。しかし、パーパスによって関係がつくられていない組織にいると「なぜ私はこの会社で働いているのか」答えが見出せていない状態になってしまいます。従業員層、経営者層の両者で自社の存在意義に無関心だというのは、お互い不幸なことかもしれないですね。

菅野 ベネッセ様は「よく生きる」という企業理念のもとパーパスを策定されました。パーパス実現に向けて独自の「イズム」を掲げられ、積極的にパーパスとイズムを根付かせるメッセージを発信されています。ベネッセ様ではパーパスへの当事者意識を持っている従業員の方々が多いと感じますか。

菅野 和利
日経BPコンサルティング
コンテンツ本部 編集3部 部長
菅野 和利

富川 当社は企業理念「よく生きる」に共感し、入社を希望する人が多い印象です。似たような調査を自社の従業員を対象に実施した際、「パーパスが必要」と回答する人が多かったこともありますし、その背景には従業員が当社で働くベースとして、「社会貢献がしたい」「人のために何かをやりたい」という気持ちを持った従業員が多いからなのではないかと考えています。

しかし、パーパスをもとに社会貢献への思いを個々人が抱いても、世の中やお客さまに届けるには一人の力ではなかなか実現しにくいところがあります。やはり組織の力は必要なのかなと。従って、従業員一人ひとりの思いと自社のパーパスへの認識をいい意味で対等にすることがすごく重要だと考えます。

富川 麻衣子氏
株式会社ベネッセコーポレーション
経営推進部 部長
富川 麻衣子氏

社会貢献への関心が高いはずの若者世代 自社のパーパスには「関心がない」が多数

菅野 次に、世代別のパーパスについての関心度合いについてです。
20代の「関心がない」が約5割ですが、年代が上がるにつれて関心が高くなっています。

若い方は今、就職先を決める上でSDGsに取り組むなど、社会課題に取り組む企業に興味・関心を抱いているとの話をよくお聞きしますが、自社の社会的存在意義に関しては、関心がない傾向が見られました。富川さんはこの結果をどのように見ますか。

富川 弊社ではパーパス策定や浸透までの過程において若い世代を巻き込むことを重視してきました。この結果は意外でした。

今の10代、20代の人たちは社会貢献に対する意識がすごく強い印象です。仕事もそうした基準で選びたいという意識が大きいのではと考えます。しかし、自分が勤めている会社においては、そこまでパーパスを意識していないのかなと感じました。

阿曾 ミレニアル世代はエシカル消費やサステナビリティ、SDGsに関心が高いと思っていましたので、私もこの結果は意外でした。

富川さんがおっしゃる通り、多くの人が仕事を通じて社会貢献したいという想いを抱いていると思います。この想いを会社の仕事を通じて体現できるかできないかというのは非常に重要です。

阿曾 忍氏
ライオン株式会社
経営企画部コーポレートブランド戦略室 室長
阿曾 忍氏

菅野 ライオン様では日々の業務を通して個人の想いを体現する機会は設けていますか。

阿曾 当社では、会社や組織の習慣をどのように再設計できるか全て習慣で語ることができます。また仕事を通じて自分たちの想いを体現するような「リデザインフォーラム」や部署や世代を超えた人とのつながり、自らを変革していくことをかなえる場などさまざまなワークショップやコミュニティーが立ち上がっています。

菅野 その成果はいかがですか。

阿曾 ワークショップやコミュニティーの活動にしても、参加後の感想は相互理解し合えて「やってよかった」と感じてもらえる人が多い印象です。対話を重ねることはとても重要で、例えば営業部門の人と研究開発部門で遠い関係にある部門の人が、世の中に貢献したい共通の想いを伝え合い、それぞれの関係がどのようにつながっているか話してお互いの橋を架けていけば、自分の想いがつながっていることが理解できると思います。そういった対話し合える場があると、従業員の心をイグナイトするきっかけにもなるのかなと思います。

20代「社内報」に高い関心、熱量の高いコンテンツは経営側の思いが伝わる

菅野 「パーパスの社内浸透に効果があると感じている取り組みはどのような施策か」という質問です。世代別の調査で、20代の回答は社内報や動画、SNS、ワークショップなどがある中、「社内報」がトップでした。一見、若い世代には刺さりにくそうな社内報が、意外と皆さん求められているという結果が出ました。

また、数ある施策の中に「動画」があります。動画は人の感情を動かしやすい特徴がありますので、パーパスを伝えるのに効果的なのではないでしょうか。

阿曾 昨今の環境下でオンライン化が進み、リアルで人に会いにくい人もいると思いまし、会社の職場環境も同様です。経営トップの思いを伝える施策として動画活用が有効に働くこともあるかもしれませんが、単に動画を出せばよいということではないと考えます。従業員に対するコミュニケーションを統合的に進めていく際に、コミュニケーションを図る各ビークルにおいて、動画がどのような役割を果たすのかという視点が非常に重要です。

例えば、何の工夫もなくイントラネットに動画を公開しただけでは見られないと思います。その動画の重要性を事前に説明したり、さまざまな就労環境にいる従業員が見にいきやすい導線を設計したりする手立てが大切なのではないでしょうか。

菅野 動画ありきではなく、導線を設計し、そこに最適なメディアをはめていくということですね。ベネッセ様では動画も含め従業員がパーパスを腹落ち、共感するためにどのような施策をされていますか。

富川 2021年からベネッセでは、パーパス浸透施策対策の一環で「従業員による提案制度」を採り入れています。この制度を経営側が現場の従業員の思いを受け止め、その思いに100%応えるという覚悟で取り組んでいるのですが、どのようにすれば制度の気概が伝わり、従業員の心を動かすことができるか、悩んでいました。

そこで活用したのが、「動画」です。幹部層が一人ずつこの提案制度の必要性を発信しました。結果的にテキストベースで行ったときよりも良い反応を得られました。対面でのコミュニケーションの方が熱い思いは伝わりやすいのかなと考えていましたが、コンテンツを通しても熱量は伝わるものだと実感しました。

社内外へ好循環を生むコーポレートサイトでのパーパス発信

菅野 パーパスについて「コーポレートサイトでの発信があるかどうか」について「あり」「なし」と、「外部メディアへの宣伝効果があるかどうか」について「あり」「なし」を比較したところ、こちらも非常に顕著な差が出ました。

外にパーパスを発信することで従業員が社外で目にし、自ら実践する意識が生まれ、浸透へとつながる――。こういった効果が生まれることも期待されるのではないでしょうか。
ベネッセ様はコーポレートサイトでパーパスをしっかり発信されています。

富川 パーパス策定を機に、これまで商品紹介がメインだったコーポレートサイトを大きくリニューアルしました。パーパスをもとにどのような思いで事業に取り組んでいるのかを発信するサイトに変更しました。

その内容をお客さまに見ていただけるだけでなく、思わぬ効果もありました。コンテンツを作成する過程で、取材を受ける従業員が自分の言葉で思いを語ることにより、日々の業務がパーパス、ベネッセのイズムと合致しているかどうかを確認できた場面に立ち会えました。腹落ちした瞬間や、組織の中で共有し合う場面を多数見ることができました。

コーポレートサイトを通じてパーパスを発信すれば、さまざまなステークホルダーに思いを伝えることができますし、自社にも良い循環を生む効果が表れると感じています。

菅野 日々の仕事がパーパスの実現につながっているかどうか、社内だけでは確信が得られない場合もあると思います。第三者からの評価で実現度合いが見えてくる側面があるのではないでしょうか。

富川 コロナ禍で掲げたパーパスを拠り所とした取り組みが共感を呼び、お客さまの口コミがメディアにも取り上げられ、SNSでも良い反応で返ってきたときに、自分たちがやってきた取り組みが間違っていなかったと感じました。社会からの評価はパーパス実現のカギとなるのと感じています。

菅野 最後に、お二人がパーパスの策定、浸透に関わって良かった点、そして今後の抱負を聞かせてください。

富川 パーパスに関わる活動を経営トップと一緒に取り組ませていただき、自分たちの事業の存在意義を再確認できました。

未来志向の意識が持てるようになり、組織を俯瞰で見られるようにもなりました。今ベネッセで働いている意味を私自身も改めて腹落ちできました。今後も一人でも多くの従業員が「この会社で働いて良かった」と感じてもらえるよう貢献したいです。

阿曾 ライオンという企業は、健康な生活習慣や環境に優しい習慣をつくる取り組みをしています。次世代の子どもたちと関わる機会も多く、働きがいや自己成長につながり、私自身も想いを体現できる場があったと認識しています。

こういった働きがいと生きがいが融解してくるような感覚を従業員一人ひとりが持てると、ライオンで働いている価値をより実感でき、ライオンのパーパスに情熱を傾けられていくのではないかと思います。従業員がもっとパーパスを自分ごと化するための機会や接点をつくり、今はまだ情熱を向けられていない人にも良いきっかけとなる機会を生み出していきたいです。

菅野 本日はありがとうございました。

富川 麻衣子(とみかわ・まいこ) 氏

株式会社ベネッセコーポレーション
経営推進部 部長
富川 麻衣子(とみかわ・まいこ) 氏

2008年ベネッセコーポレーション入社。
<こどもちゃれんじ>「進研ゼミ」の横断マーケティング、ブランドコミュニケーション部門を経て、2018年より全社ブランド戦略を担当。
現在は、経営推進の責任者を務める。

※肩書きは記事公開時点のものです。

阿曾 忍(あそ・しのぶ) 氏

ライオン株式会社
経営企画部コーポレートブランド戦略室 室長
阿曾 忍(あそ・しのぶ) 氏

これまで菓子メーカー2社でビスケット・シリアル・グラノーラ・コラーゲンドリンク等の研究開発・マーケティングに従事し、Eコマース対策なども担当。
2017年からライオン株式会社でブランドコミュニケーションを中心にIMC・顧客体験の設計、CRM・データ活用の取組み、サービスデザイン等の領域にも携わる。2020年8月よりコーポレートブランド戦略の専任として、ライオンの企業価値を高めるための社内外のコーポレートブランディングに従事している。

※肩書きは記事公開時点のものです。

コンテンツ本部 編集3部/周年事業ラボ コンサルタント
菅野 和利

BtoB企業の広報誌やWebサイト、ニュースリリースなど、企業メディアの戦略立案から媒体設計、制作まで支援。PR誌制作においては日本BtoB広告賞を5年連続で受賞している。企業コミュニケーション全般のコンサルティング、周年事業のコンサルティングにも携わっている。

 無料進呈 

企業の社会的存在意義(パーパス等)浸透調査レポート
~浸透度合いや課題からわかる コンテンツコミュニケーションの重要性~

企業のパーパス策定が広がっています。社員のエンゲージメントが下がっている、競合他社がやっているなど、様々な理由から策定プロジェクトが進んでいます。

ただ、パーパスは策定しただけでは意味がありません。従業員に共感してもらい、自分事化して日々の行動の判断基準にしてもらう必要があります。

日経BPコンサルティングは、社会的存在意義(パーパス等)が企業内でどのくらい浸透しているのかを調査しました。

日経BPコンサルティング通信

配信リストへの登録(無料)

日経BPコンサルティングが編集・発行している月2回刊(毎月第2週、第4週)の無料メールマガジンです。企業・団体のコミュニケーション戦略に関わる方々へ向け、新規オープンしたCCL. とも連動して、当社独自の取材記事や調査データをいち早くお届けします。

メルマガ配信お申し込みフォーム

まずはご相談ください

日経BPグループの知見を備えたスペシャリストが
企業広報とマーケティングの課題を解決します。

お問い合わせはこちら