パーパス経営の先進企業に学ぶ、経営戦略の実装と社内外への浸透施策②

パーパスの共感・浸透と、その土台となる“信念”を重視するライオンの取り組み

  • マーケティング本部 ビジネスアーキテクト部 金縄 洋右

創業から130年となる老舗企業であり、国内外で幅広く事業を展開するライオンは、パーパスの明瞭化とパーパスを実践するためのビリーフス(信念)策定を実施した。これらに基づく企業文化を醸成し、パーパスドリブンのビジネスを目指している。現在はパーパスとビリーフスの共感・浸透に向けた取り組みに力を入れているという。同社のパーパスとビリーフスに関わる施策を、リードするキーパーソンの言葉も交え詳しく見ていく。
(2022年5月20日開催セミナー「実践・企業価値向上 パーパスを最大限に活かす組織づくりとは」より)

文=斉藤 俊明、構成=金縄 洋右
写真=木村 輝

パーパスドリブン経営実践へ、ライオンが定める5つの「ビリーフス」

ライオンでは、2018年に「ReDesign(リデザイン)」というパーパスを策定し、パーパスドリブンに向けた取り組みをスタートさせている。プロダクトドリブンのビジネスがこれからの時代に合わなくなり、企業が大切にする理念や個性が求められていくという問題意識を持っているからだ。2018年時はもちろん、まだ世の中でパーパスが注目され始める前だ。なぜその時期から、ライオンはパーパスに着目したのか。経営企画部コーポレートブランド戦略室室長の阿曾忍氏は、「変化や競争が激しく不透明で複雑化する時代に社会から選ばれ続けるために、ライオンらしさを明確にすることが重要になったから」と切り出す。

阿曾 忍氏
ライオン株式会社
経営企画部コーポレートブランド戦略室 室長
阿曾 忍 氏

パーパスの背景にあるものを改めて振り返ると、ライオンは歯磨きや手洗いといった人々の習慣を提案し、かつ衛生関連製品に代表されるように生活課題・社会課題を捉えて解決するソリューションを提供してきた。その方法論としては、「おはようからおやすみまで、暮らしをみつめる」「いつもの暮らしの中に」「今日を愛する。」といったこれまでの企業スローガンに表れているように、生活者に寄り添い、共に歩んできた。

「ライオンはこれまでにも習慣をつくり、再設計を繰り返しながら、人々の日々の生活に貢献してきました。そこで、ライオンの提供価値となる『WHY』とその価値 を実現する『HOW』を改めて整理し、2020年には“より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(ReDesign)”とパーパスを明瞭化した」と解説する。

阿曾 忍氏
(「今日を愛する」という企業スローガンを掲げている 提供:ライオン(株))

パーパスを実践し、「次世代ヘルスケアのリーディングカンパニーへ」というビジョンを実現していくにはどうすればいいか。ライオンでは、その阻害要因を特定するために現状分析と学術的な側面を照らした結果、「企業理念を必要なものとして認知している社員は、理念を日々の業務に自己編集・展開し、理念が自身の働きがいや生きがいに溶け込むことで、強い推進力が生み出されているのでは」という考察に至った。

また理念を「上から落ちてきたルール」として捉えると働きがいにつながらず、推進力や生産性が低下してしまうのではないかと考察し、個人の働きがいと生きがいが融解していくための「会社のパーパスと自身の結びつきを見つけること」や「会社が目指す方向性に対して実践や行動につながる明確な信念を示す」ことが重要であると導いた。

「多くの会社でパーパスを業務に落とし込まなければいけないと言われますが、業務に落とし込むというと“上から降りてきたもの”と受け止め、思考停止に陥ってしまいがち。自身の働きがい・生きがいとの結節点を生み出していくためには、企業としては理念を明確に示すことが必要。かつ自身の業務や目指す姿を引き上げていくには、実践と行動につながる信念が必要となる。そこで、パーパスの明瞭化とパーパスを実践するためのビリーフス(信念)の策定を検討した。」(阿曾氏)

(資料:ライオン(株)提供)

ビリーフスは「価値は顧客が決める」「自分の心に従い、自ら動こう」「スピードは世界を救う」「化学反応を起こそう」「変化こそ、私たちを進化させる」の5つ。これらのビリーフスに込めた意図について阿曾氏はこのように語る。

「高い目標と明るい未来を達成できる組織にしていくための共通言語であり、目標設定や方向性を決めるとき、行動するとき、結果を振り返るとき、選択するときの価値判断や拠り所になるものとして、日常的に意識し、活用することで、自分自身のものにしていくことを全社で目指している」

パーパス・ビリーフスに向き合い社内全体での共感浸透へ

こうしたビリーフスをベースにパーパスが実践されるような企業文化の形成が必要となる。“企業文化”とは「役員や社員、関係者が、ライオンでいえばパーパス、ビリーフスなどをベースに物事を捉える価値判断をもって、それが反復・伝播・蓄積されている状態」だと定義する。そしてこれを実現するには、目指す状態をしっかりと定め、思考方法や価値判断基準を繰り返し伝えて共有し、上記の思考や言動を促進・支援する仕組みと制度が必要となる。

そのうえで、パーパスドリブンを実践する企業文化を醸成していくには、パーパス・ビリーフスを軸に自発的・自律的に行動することが習慣化している状態が望ましいとし、「マインドセットから従業員の体験までをしっかり設計していく上で、パーパスとビリーフスが目に見えるプログラムや制度、慣行と、それらを従業員が体験できる場が必要」と語る。

(資料:ライオン(株)提供)

同社では、パーパス、ビリーフスの共感浸透に向けた対話を始めているという。このプロセスでは、まず経営層から発信されるメッセージを一定の共通見解として言語化を図ること、リーダー層の関係性向上の取組み、さらに部門スタッフに対しては、会社に属している理由やパーパスと自身のつながりを明確にし、ビリーフスを自分のものにして業務に向き合うための対話セッションをはじめている。

ライオンでは今後、経営層、リーダー層、スタッフ全員がパーパス・ビリーフスに向き合うため、経営層のディスカッション動画の配信や、全従業員と取組むオンラインの対話セッションも計画しているという。また、パーパスドリブンを実践する企業文化の醸成に向け、より良い習慣づくりの思考に基づいた新たな価値を創造するプログラム、経営トップとの対話・交流の場づくり、副業制度やフルフレックス制度など働きがい改革の多彩な取り組みをすでに実践している。常に習慣を起点に多彩な施策を行う中で、顧客と社会に価値を届けていく営みの繰り返しが、企業文化になっていく。ライオンではそれらを目指した取り組みを引き続き進めていくという。

阿曾 忍(あそ・しのぶ) 氏

ライオン株式会社
経営企画部コーポレートブランド戦略室 室長
阿曾 忍(あそ・しのぶ) 氏

これまで菓子メーカー2社でビスケット・シリアル・グラノーラ・コラーゲンドリンク等の研究開発・マーケティングに従事し、Eコマース対策なども担当。
2017年からライオン株式会社でブランドコミュニケーションを中心にIMC・顧客体験の設計、CRM・データ活用の取組み、サービスデザイン等の領域にも携わる。2020年8月よりコーポレートブランド戦略の専任として、ライオンの企業価値を高めるための社内外のコーポレートブランディングに従事している。

※肩書きは記事公開時点のものです。

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企業の社会的存在意義(パーパス等)浸透調査レポート
~浸透度合いや課題からわかる コンテンツコミュニケーションの重要性~

企業のパーパス策定が広がっています。社員のエンゲージメントが下がっている、競合他社がやっているなど、様々な理由から策定プロジェクトが進んでいます。

ただ、パーパスは策定しただけでは意味がありません。従業員に共感してもらい、自分事化して日々の行動の判断基準にしてもらう必要があります。

日経BPコンサルティングは、社会的存在意義(パーパス等)が企業内でどのくらい浸透しているのかを調査しました。

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