パーパス経営の先進企業に学ぶ、経営戦略の実装と社内外への浸透施策①

ベネッセがパーパスを経営・事業活動の軸に据え、浸透・体質化を積極的に推進

  • デジタル本部 ビジネスアーキテクト部 金繩 洋右

(株)ベネッセコーポレーションは、ラテン語の「bene(よく)」と「esse(生きる)」を組み合わせた社名の由来そのままの「よく生きる」という企業理念のもと、パーパス策定と浸透に取り組んでいる。少子化という社会の構造的問題が存在する中、「こどもちゃれんじ」や「進研ゼミ」に代表される“学び”を事業の柱とする同社が、多彩な事業のよりどころとして重視しているパーパスにまつわる活動についてお届けする。
(2022年5月20日開催セミナー「実践・企業価値向上 パーパスを最大限に活かす組織づくりとは」より)

文=斉藤 俊明、構成=金縄 洋右
写真=木村 輝

原点に創業者の思い「建物のない学校をつくりたい」

ベネッセコーポレーションは、生徒手帳の制作を手がける福武書店からスタートし、幼児向け通信教育「こどもちゃれんじ」や、小・中・高校生向け通信教育「進研ゼミ」を始め、大学生・社会人を対象とした国内教育に加えて、海外向けの「グローバルこどもちゃれんじ」、妊娠・出産・育児・ペットライフといった生活に関わる領域でも事業を展開している。

この社名は「よく生きる」を意味する造語であり、「Benesse」という言葉は1990年代、まずはブランドの哲学を指すフィロソフィーブランドとして導入され、1995年には社名もベネッセコーポレーションへと変更した。

この分かりやすい企業理念としてのフィロソフィーがあり、しかも社名自体で明確に表していながら、なぜ同社はパーパスを改めて重視したのか。ベネッセコーポレーション 経営推進部長の富川麻衣子氏はこう語る。

「進研ゼミの事業は、福武書店創業者・福武哲彦の『建物のない学校をつくりたい』という思いから始まっています。その後、ニーズを追求しながら時代に合わせた挑戦と開発を続けてきましたが、現在は環境の変化が目まぐるしく、社会の構造的課題も拡大しています。この、変化が大きく、課題も複雑になる中、『よく生きる』を各事業でどのように具現化していくのか。そのよりどころになるものとして、パーパスが重要だと考えています」

ベネッセでは今でこそパーパスという言葉を使っているものの、そもそもはパーパスを作ろうという議論から始まったわけではなく、ベネッセとしての本質的な価値を追求していく過程で結果的に「パーパス」になったと富川氏は説明する。

野間 和香奈氏
株式会社ベネッセコーポレーション
経営推進部 部長 富川 麻衣子氏

「2018年頃から、教育改革の変更など学校や子どもたちを取り巻く環境の変化が大きくなり、同時に教育業界にもDXの波が押し寄せていました。そうした不安定な状況下でベネッセの商品・サービスを選んでいただくには、機能だけでなく、ベネッセとして何を目指し、提供していくのかが大切になる。そのベネッセらしい思いや姿勢、熱量をブランドストーリーとして社内外に発信し、お客様から共感・信頼をいただくとともに、社員にとっても大きな道標にしていこうという活動が、経営も巻き込んで始まったのです」

ベネッセコーポレーションはコーポレートと各事業のカンパニーで構成されているが、事業フェーズの違いなどにより議論の進め方はそれぞれだったという。この中で、進研ゼミを担当している部門が「パーパス」という表現を使っていたことから、「活動がより前進していくために最適」という判断で言葉をパーパスに統一し、全社で検討をスタート。2020年2月にパーパスを社員へ発表することとなった。

パーパス実現へ言語化した5つの「ベネッセイズム」

富川氏はパーパス策定について「パーパスを作るという目的からスタートしたのではなく、いま目前に迫っている課題を受け、会社や事業が社会にとってなくてはならない存在であり続けるために必要なものは何かを考えたとき、それがパーパスの明文化であった」と振り返る。

パーパスを言語化する検討過程においては、パーパスがビジョンやバリュー、ミッションとは異なり顧客目線であることを明確に意識するため、「お客様からいただきたい言葉」という点を重視した。加えて、ベネッセの持つ本質的な強みや“らしさ”であるカルチャー・価値観と、顧客のニーズや社会のニーズが交わるところがパーパスであるとの概念を共有し、「よく生きる」という企業理念は不変ながらも、パーパスは社会やお客様の変化に応じて変わっていくものだという点を強く認識するようにしたという。

そして出来上がったパーパスが、「社会の構造的課題に対し、その解決に向けてどこよりも真摯に取り組んでいる姿勢に共感できる存在」「自分が一歩踏み出して成長したいと思った時にそばにいてほしい存在」だ。

(資料:(株)ベネッセコーポレーション提供)

「このパーパスを実現するには日々の業務の中で行動できるかどうかが重要であると考え、ベネッセコーポレーション独自の考え方や行動指針を設定した」と富川氏。それを「ベネッセイズム」(以下、イズム)と呼んでいる。

設定したのは「お客様本位」「公明正大」「革新的に挑戦」「スピード重視」「共創・協業・連携」の5つで、それぞれに細かな行動基準を付して整理した。なお、同社では会社としてのパーパス以外に、各カンパニーの事業単位、コーポレート部門でもパーパスを言語化しているのが特徴的でもある。

パーパス実現に向けたイズム実践を重視

パーパスの浸透と体質化に向けた実際の取り組みとしては、パーパスとイズムを印刷したカードを全社員に配布するなど一般によく見られる施策も行っているが、一方で独自性の強い取り組みもある。富川氏は自社の取り組みをこのように解説する。

「1つ目は、パーパスを事業計画の起点として捉えている点です。事業のパーパスは何か、そのために必要なことは何であり、目指す状態は何か、実現するために最適な組織の形はどういうものなのかを、数字の目標ではなく、パーパスから入るものとしてフォーマット変更しました。

2つ目は会社の活動の柱と位置づけていることで、全社発信や施策の内容は全てパーパスの実現とイズムの実践を軸に展開しています」

パーパスとイズムがあることで、コロナ禍で世界が激変し先が読めない中でも、家庭でのオンラインの学びをはじめ顧客の困りごと解決につながる取り組みが驚くほどのスピードで生まれていったという。

「パーパスに関わる活動がメディアやSNSなどでも評価されたことで、社員にとってパーパスとイズムが確固たるよりどころとして確信を持てた点も、浸透と体質化において大きな一歩になったと考えています」と富川氏は振り返る。

(資料:(株)ベネッセコーポレーション提供)

現場の視点が経営に届く仕組みとして社内提案制度(B-STAGE)を開始するなど、中長期の成長を見据えた施策・制度面での取り組みもスタートさせ、パーパスとイズムを根付かせるメッセージを積極的に発信している同社。「私たちも、まだまだ活動の途上です」と富川氏は笑顔を見せた。

富川 麻衣子(とみかわ・まいこ) 氏

株式会社ベネッセコーポレーション
経営推進部 部長
富川 麻衣子(とみかわ・まいこ) 氏

2008年ベネッセコーポレーション入社。
<こどもちゃれんじ>「進研ゼミ」の横断マーケティング、ブランドコミュニケーション部門を経て、2018年より全社ブランド戦略を担当。
現在は、経営推進の責任者を務める。

※肩書きは記事公開時点のものです。

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企業の社会的存在意義(パーパス等)浸透調査レポート
~浸透度合いや課題からわかる コンテンツコミュニケーションの重要性~

企業のパーパス策定が広がっています。社員のエンゲージメントが下がっている、競合他社がやっているなど、様々な理由から策定プロジェクトが進んでいます。

ただ、パーパスは策定しただけでは意味がありません。従業員に共感してもらい、自分事化して日々の行動の判断基準にしてもらう必要があります。

日経BPコンサルティングは、社会的存在意義(パーパス等)が企業内でどのくらい浸透しているのかを調査しました。

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