ニューノーマル時代の企業DXはテレワーク環境構築がけん引

2021.01.27

マーケティングリサーチ

  • 青柳 貴秀

    ブランド本部 調査部 青栁 貴秀

新型コロナウイルス(COVID-19)の影響が続く中で、ニューノーマル時代の企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の形が大きく変化している。調査結果から、上場企業を中心とした企業のモバイル・ICTを活用したDXへの投資は、AIなどの新技術ではなくテレワーク・在宅勤務といった新しい働き方の実現に注力している姿が明らかとなった。

新型コロナウイルスが猛威を振るい、2020年は世界規模で経済活動が甚大な被害を受けた。日本も例外ではない。2020年3月13日に成立した新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく緊急事態宣言が内閣より発令された。これを契機に、多くの企業が従業員の出社を規制し在宅勤務体制構築を余儀なくされた。この過程でモバイル・ICT投資が急務となったわけだ。

日経BPコンサルティングでは、上場企業を中心とした企業のモバイル・ICT活用状況に関する調査を実施し、報告書「DX時代のモバイル“法人利用”実態調査 2020」をまとめた(調査概要は記事下段に記載)。本記事では、ニューノーマル時代への対応としてどのようなモバイル・ICT活用がされているか、3つのテーマから報告書を読み解いていく。

ニューノーマル時代の企業のDXは、テレワーク・在宅環境の整備

1つ目のテーマは、“ニューノーマル時代の企業のDX”である。テレワークとして、注目されるモバイル端末による業務ソリューションの利用状況を尋ねた(図1・2)。
最も注目される「Web会議」は、同様の調査を実施した2017年では42.0%だったのに対し、今回の調査では79.9%の利用率となった。実に37.9ポイントも上昇している。また、テレワークを実施するうえで課題となる「社員管理」では28.3%から52.3%と、24.0ポイントの上昇となった。

同様に、テレワーク・在宅勤務に関係する業務ソリューションの利用状況を見てみよう。「グループウェア」は、2021年以内に82.9%の利用率に、「ワークフロー」は2022年以降に81.6%に上昇する見込みだ。「ファイルサーバーのアクセス」においては利用率が2017年の49.4%から2020年に71.4%まで上昇した。

※:日経BPコンサルティング「携帯電話・スマートフォン“法人利用”態調査 2017」において実施した調査。以降、2017年の調査・調査結果とは前述の調査とその結果を指す。

図1「モバイル端末による業務ソリューション利用」(1)

図2「モバイル端末による業務ソリューション利用」(2)

※:横軸の「利用中」は2020年7月時点を指す

出所:日経BPコンサルティング「DX時代のモバイル“法人利用”実態調査 2020」

一方で、テレワーク・在宅勤務で利用が進むと予想された「シンクライアント」は、変化が見られなかった。

次に、今後注目・期待するクラウドサービスについて尋ねた(図3)。注目・期待されるサービスは、「在宅勤務などを実現するリモートワーク・テレワークサービス」(57.6%)で最多となった。ちなみに、最も注目・期待するサービスとしても22.3%で1位となっている。

図3「注目するモバイルを活用したクラウドサービス」

出所:日経BPコンサルティング「DX時代のモバイル“法人利用”実態調査 2020」

昨今のテレワーク・在宅勤務の環境を整える企業の関心の高さが表れ、その整備を担う業務ソリューションのニーズが急激に高まっているのが見て取れる。ニューノーマル時代の企業のDXは、テレワーク・在宅環境の整備が重要なテーマであるといえる。

主流となるモバイル端末にも大きな変化

2つ目のテーマは、モバイル端末の活用動向である。モバイル端末も、傾向に大きな変化が見られる。今後の業務で主流になる端末として72.4%の企業がノートパソコンを挙げた(図4)。

2017年に実施した同調査では、「ノートパソコン」「タブレット端末」「スマートフォン」の回答率が30%台で拮抗していた。当時はスマートデバイスが注目され、「タブレット端末」や「スマートフォン」の回答率が高かった。前回調査よりも「ノートパソコン」の回答率が高くなった要因として、テレワーク・在宅勤務といった業務環境において企業は「ノートパソコン」を重要視している点が挙げられる。

図4「データ端末利用予測」

出所:日経BPコンサルティング「DX時代のモバイル“法人利用”実態調査 2020」

ニューノーマル時代の新しい働き方を実現するためのモバイル・ICT投資が拡大

3つ目のテーマは、モバイル・ICT投資の変化についてだ。2020年と2021年の投資金額の変化を指数化しマッピングした(図5)。右上に位置する項目は投資注力度が高く、左下の項目は投資注力度が低い。20年、21年両方とも、投資注力度が最も高い項目は「クラウドサービス」だった。一方で、「人工知能(AI)活用」「IoT・M2Mソリューション」「ビッグデータ活用」「ロボット・ドローン活用」といった近年注目を集めていた新技術は、投資が縮小傾向となった。

図5「モバイル・ソリューションに関する投資の注力度」

<注力度(指数)>
■ 投資の注力度の回答に重み付け(「拡大」3ポイント、「横ばい」1ポイント、「縮小」マイナス3ポイント)した合計値を有効回答数(無回答を除外)で除した値。注力度指数が1の場合、前年との投資が同じということを示す。1より大きい場合、投資拡大傾向、1より小さい場合、投資縮小傾向となる。ピンクとブルーのセルにある項目は、前年よりも投資が拡大。特にピンクのセルは2年続けて前年より投資が拡大。また赤い斜線より上に位置する場合、前年よりも投資幅が拡大していることを示す。

出所:日経BPコンサルティング「DX時代のモバイル“法人利用”実態調査 2020」

17年の調査結果と比較すると、モバイル・ICT投資状況の変化が読み取れる(図6)。17年の調査では、すべての項目が投資拡大傾向だった。しかし20年の結果では、新技術への投資注力度よりも「クラウドサービス」「モバイルセキュリティ」など、テレワーク・在宅環境の構築に準ずるサービスの投資注力度が高い。新しい職場環境構築のソリューションを企業が求める傾向を表しているといえる。

図6「モバイル・ソリューションに関する投資の注力度の変化」

出所:日経BPコンサルティング「DX時代のモバイル“法人利用”実態調査 2020」

ニューノーマル時代の企業DX推進を捉える3つのポイント

これまで3つのテーマを通して、ニューノーマル時代の企業のDX動向を整理してきた。結論として、大きく3つのポイントが挙げられる。

  1. 企業のDXとして、テレワーク・在宅勤務環境の構築が大きく拡大
  2. モバイル端末として「ノートパソコン」が再注目
  3. 21年の投資注力度が最も高い「クラウドサービス」

企業のモバイル・ICT投資の拡大傾向は、新しい勤務環境の整備が落ち着く23年まで続くと見られる。一方、現在縮小傾向の新技術の投資拡大は、ローカル5Gの普及など新技術関連市場の拡大を通して注力度が高まると推察される。

“企業”のモバイル活用状況、モバイル・ICT投資を包括的に把握する

今回の調査はコロナ禍で実施されたため、企業の取り組み変化を大きく示すものとなった。ニューノーマル時代における企業DXの姿が、データで明らかとなった形だ。

「DX時代のモバイル“法人利用”実態調査 2020」には、図で示したテーマに加え、「携帯電話・スマートフォンの利用状況」「通信事業者の総合満足度」「携帯電話・スマートフォンの端末メーカー」などを収録。過去の調査との時系列比較や回答者の属性別比較ができるようになっている。

個人ユーザーを対象としたニューノーマル時代やDX関係の調査は数多いが、本報告書では「企業」を主体とした調査結果なのが特徴だ。よりビジネスに直結した形でモバイル・ICT業界を読み解くヒントになるだろう。モバイル・ICT業界に携わるマーケティング・事業開発担当者とともに、キャリア、SIer、NIer、メーカー各社にとっても今後の道標の1つとしてご活用いただきたい。

調査概要

調査目的 携帯電話/スマートフォン/タブレット端末の法人利用実態やDXの取組状況、ニューノーマルへの対応動向をまとめる。
調査対象 すべての上場企業約3500社と、非上場のうち優良企業を合わせた、全国5000社に対し、郵送でアンケートへの回答を依頼。
調査方法 ヒアリング調査(通信キャリアへのインタビュー)と郵送調査
回収数 567社
調査時期 2020年7月14日(火)~8月4日(火)
調査機関 調査企画・設計分析ともに日経BPコンサルティング
発行日 2020年9月4日

青栁 貴秀

ブランド本部 調査部
青栁 貴秀(あおやぎ・たかひで)

大学・大学院で経済学を専攻。卒業後、リサーチ企業に入社し、ICT業界/技術を対象にした市場調査業務に従事。新規市場に関する企業動向調査や技術動向調査の案件を担当。日経BPコンサルティングに入社後、ICT/BtoB企業を主要クライアントとして、マーケティング支援・新規事業開発コンサルティング等に従事。