独自調査でSDGs推進の課題が浮き彫りに

ESG/SDGs、社内啓発の壁はこうして突破する

  • 企業SDGs調査チーム

今始めなければ、手遅れになる——。SDGsに取り組むことの重要性はすでに多くの企業が意識している。とはいえ、「社内ではまだまだSDGsの意義と取り組むメリットに対する理解が広がっていない……」。そう悩む企業担当者も多いと聞く。こうした状況の中、SDGsの社内啓発に向けてどのような対応を進めていくのが効果的なのか、日経BPコンサルティングの独自調査結果を踏まえて探ってみたい。 構成・調査=轟翔太×浅見剛司×平野優介/文=斉藤俊明

SDGs/ESGが経営に与えるインパクト

2020年7月、米テスラの時価総額がトヨタ自動車を抜いたというニュースが流れた。ガソリン車と比較して「環境にやさしい」とされる電気自動車(EV)への評価が高まる中、ESG投資の追い風を受けた結果だとみられる。また同10月には、国内有数の機関投資家である日本生命が、全投融資の判断にESG投資の手法を導入すると発表した。金融市場が企業のESGやSDGsへの対応を企業評価の主要な軸に据えるようになり、その結果が企業の株価や資金調達に大きなインパクトを与える時代が到来したことを示す典型例といえるだろう。

さらに、菅義偉首相は同10月の所信表明演説で、2050年までに国内の温室効果ガス排出を実質ゼロにする方針を発表した。すでにSDGsの取り組みを始めている企業は何歩も先を進む一方、始めていない企業は一刻も早くスタートを切らねばならない。

そもそも、SDGsに取り組むことで得られるメリットとは何なのかを再確認しておこう。日経BPは2020年10月、主要560企業ブランドを対象に、ESG活動が一般消費者へどう伝わっているかを調べた「第1回ESGブランド調査」の結果を発表した。ESG指数の1位はトヨタ自動車で、2位がサントリー。以下、イオン、キリン、花王など、SDGsに則った活動に注力し、社外への情報発信にも力を入れる企業が上位に並んだ。

消費者の意識も大きく変化してきている。楽天市場が2018年に開始した「EARTH MALL with Rakuten」は、環境や人権に関する国際認証を取得した商品のみを扱うECサイトで、ここ近年は売り上げが急速に伸びている。今後社会に出る大学生高校生などにも「SDGsネイティブ世代」として、そうした活動に対して熱心に取り組む企業に好感を持つ傾向が表れている。こうした背景からSDGsは、ブランディング、採用活動、マーケティングにも効果を期待できるだろう。

SDGs/ESGを経営に実装するための「最適解」

だからこそ、すぐ着手しなければ手遅れになる可能性もあるわけだ。その際、トップダウンの推進が重要であることはもちろんだが、実際に業務に携わる従業員の納得感も大切な取り組み推進の要素となる。

日経BPコンサルティングがビジネスパーソンを対象に実施した調査では、勤務先がSDGsの取り組みを行っている企業の社員の約93%が、企業がSDGsを推進することを「大切だと思う」と答えている。これに対して取り組んでいない企業の社員では、「分からない」との回答が32.5%を占めた(図表1)。ちなみに、SDGsに取り組んでいる企業で「分からない」と答えたのは3.3%にとどまっており、30ポイント近くの大きな差がある。これからSDGsに取り組む企業にとっては、まず社員にその意義を浸透させることが重要だということになるだろう。

図表1 企業におけるSDGs取り組み状況

とはいえ、この作業が多くの企業ではハードルとなっている。上記調査でSDGsに関する社内啓発を実施している企業に課題を尋ねた設問では、「継続的な取り組みが難しい」が最も高く、次いで「教育コンテンツを自社で作るノウハウがない」となっている。以下「教育内容が業務に活用されるかわからない」「教育にかける時間を確保できない」と続く。(ともに図表2)。

図表2 SDGsに関する社内啓発上の課題

では、企業はSDGsの社内啓発をどのように進めればいいのか。日経BPコンサルティングでは、「なぜ今SDGsが必要なのか」という部分から、「SDGsに取り組むメリット」や「取り組まないことが招くリスク」、さらには「注目すべき先行企業の事例紹介」などを盛り込んだ日経ESG監修の「SDGs eラーニング」を提供している。

このeラーニングをすでに導入した企業に満足度を聞いたところ、「教育コンテンツを自社で作るノウハウがない」という課題を持つすべての企業から課題解決に役立ったとの回答をいただいている。また、「分量や難易度がちょうどいい」「SDGsを知らなかった従業員に浸透させられた」といった評価も多く届いており、安心して導入していただけるのがポイントだ。

コロナ禍の影響を受け続ける現在、eラーニングはテレワークの働き方にもマッチしたプログラムといえるだろう。2021年の改訂では、ウィズコロナ・アフターコロナ時代における対応についても盛り込む予定であり、今後長い期間にわたり活用いただけるはずだ。

ブランド本部 調査部
轟 翔太(とどろき・しょうた)

大学でスポーツビジネスを専攻。その際、パラリンピックをはじめとしたパラスポーツ(障がい者スポーツ)について学ぶ機会を持ち、共生社会について関心を持つようになる。
調査・コンサルタント会社に入社後は、官公庁をクライアントとし、福祉やスポーツの分野を中心に調査実施支援や計画策定支援を行う。現在はBtoB、BtoC企業のマーケティング支援に従事。

コーポレート本部 管理部 / ブランド本部 調査部
浅見 剛司(あさみ・ごうし)

大学にて史学科を専攻。自衛隊に入隊し部隊長などを経験。その後、日経BPコンサルティングに入社。入社後は、未来予測調査、社会調査を中心に活動。

コンテンツ本部ソリューション1部
平野 優介(ひらの・ゆうすけ)

記者・編集者・防災士。中央省庁関連書籍の担当を経て、2011年3月より地方行政の総合誌「ガバナンス」の記者・編集者を担当。(公財)後藤・安田記念東京都市研究所の「東日本大震災に関する資料リスト」には、自ら企画した特集およびインタビュー記事が所蔵される。その後、税務分野の月刊「税理」副編集長に就任。2017年9月、日経BPコンサルティング入社。日本ユニシス「Club Unisys」など各種Webメディア編集、周年事業センターのコンサルタントを経験。現職に至る。