高校生の社会課題へのまなざし

SDGs時代の「グローバル人材育成」とは?

  • 山内 由紀夫

    SDGsデザインセンター シニアコンサルタント 山内 由紀夫

SDGsの時代を迎え、さまざまな企業や組織で、さまざまな場面でグローバル人材が求められています。一口に「グローバル人材の育成」といっても、現実問題として、職場でのOJT や集合研修だけでは、世界中の人々が共感できる価値観を持ち、円滑なコミュニケーションを図り、行動のできる人材を育成することは至難の業なのではないでしょうか。
こうした課題認識もあり、グローバル人材育成の「入り口」は、今や学校教育にまで降りてきているようです。ここでは、他の教育機関に加え、企業や市民団体などから注目を集める大阪府立千里高等学校(以下、千里高校)の取り組みをご紹介します。


千里高校は万博記念公園のそば、吹田市北部の丘陵に位置する大阪府屈指の進学校で、1967年に普通科高校として開校。2005年には国際・科学高校に改編しています。同校が文科省から、グローバル・リーダーを育てる教育を率先して進めるSuper Global High School (SGH) の指定を受けたのは2015年、国連がSDGsを採択した「SDGs元年」と言われる年とも重なります。同校はSDGsも、このSGHの取り組みにうまく取り込んでいます。

千里高校が掲げる「2つの取り組み」

SGHの指定を受けるにあたり、同校では2つの取り組みを掲げています。
1つ目は「グローバル課題についての研究」です。これについて、同校では国連グローバル・コンパクトの4分野(人権、労働、環境、腐敗防止)に着目しました。2017年8月には国連グローバル・コンパクトにも署名しています。同校でSGHを推進する英語科の大西 千尋先生は、「グローバル課題についての研究」について、こう語ります。「カリキュラムに『課題研究』を組み込んだのは、本校が国際・科学高校に改編された2005年のことです。当初の課題研究は各教科について掘り下げるものでしたが、SGHへの指定後は、課題研究のテーマが『社会課題の探求』に変わりました」

生徒が主体的に「社会課題」について深く学び、自分ごととして考えるようになるまでの過程について大西先生は、「本校での1年生のカリキュラムとして『国際理解』という特別授業があります。ここではSDGsにも掲げられるようなグローバルな社会課題を知ってもらいます。具体的には、国際問題に精通する若手研究者や社会課題の解決に取り組む組織の方々から講演をしていただいたり、フィールドワーク研修を実施したり、まずは探究のための『種まき』を行います。生徒は1年生の終わりまでに各自『こんなことを探究したい』というテーマを決めます。2年生では生徒が選ぶテーマごとに12のグループに分かれ、週1回、2時間連続の授業で、それぞれのテーマについて探究を進めます」と説明してくれました。

2つ目は「多様性について理解を深めること」です。「地元にある多様性を知る」という考えのもと、同校近隣の豊中市にある「とよなか国際交流協会」や、茨木市の「大阪茨木モスク」「コリア国際学園」などと交流を図っているほか、ニューヨーク研修として、毎年10名の生徒を送り込んでいます。ニューヨークでは主に、移民がこれまでにどんな偏見を受けてきたかということを知るといった歴史的な部分と、偏見をなくすために動いている団体や学校と連携し、多様性の最先端であるニューヨークで今、どんな問題があり、それをどう解決しようとしているのかを、体験を通じて勉強させているのだそうです。

大西 千尋先生

SGHを推進する英語科 大西 千尋先生

なお同校では例年、ニューヨーク研修を経験した卒業生に対してアンケートを実施し、その後のキャリア形成、人生設計に、自分たちが体得したグローバルな視点をどう生かしているのかについても検証しており、その確かな成果についても実感しているとのことです。

個性的な探究テーマに見る、高校生の社会課題へのまなざし

2020年2月、同校では生徒の「探究」の成果を発表する「千里フェスタ」を開催しました。SGHに関する発表も個性あふれる多彩なテーマで繰り広げられました。

第15回千里フェスタ-2020- SGHに関する多彩な探求テーマ

  • どうすれば結婚出産をした⼥性が復帰しやすい環境をつくれるのか
  • ⼦育てから親の暴⼒をなくそう
  • レジ袋による海洋汚染から⽣物を守るためには
    〜レジ袋削減に対する取り組みの国際⽐較〜
  • 歴代のディズニープリンセスから⾒る理想の⼥性像の移り変わり
  • ⽇本の⼦どもたちにジェンダー平等意識を持たせるための教育とは
  • ⽇本のスーパーマーケットで環境に良い地産地消が普及するためには
  • 『⼦ども兵⼠』の実態と解決に向けての取り組みとは
  • ⼦どもの学習意欲はなぜ下がるのか
  • 外国⼈のための防災
  • 新たな飢餓と⾷品ロスは同時に解消できるのか
  • 貧困地域における賃⾦格差を救うクラウドファンディングとは
  • ⽬指せ!うるさい教室!

「千里フェスタ」で、何人かの生徒の声を拾うこともできました(生徒の学年は取材時点のもの)。

1.探究テーマ
「レジ袋による海洋汚染から⽣物を守るためには〜レジ袋削減に対する取り組みの国際⽐較〜」 発表者 野瀬 裕次さん(2年)、三木 朋香さん(2年)

野瀬 裕次さん

野瀬 裕次さん(2年)

野瀬  この探究テーマを選んだのは、もともと釣りが好きで、海や浜辺に落ちているレジ袋などのプラスチックゴミをよく見かけたことがきっかけです。海洋汚染が深刻化すれば、多くの海洋生物が影響を受け、好きな釣りもできなくなると思いました。

日本の小売店では何も言わなくても商品をレジ袋に入れて渡してくれますが、短期留学をしたカナダでは、そうではありませんでした。レジ袋が海に捨てられることへの意識が日本と異なるのです。恐らく日本の小売店のマニュアルにはレジ袋に入れて商品を渡すように書かれていると思われ、まずはそこを見直す必要があると思います。先進的な考えを持つ企業では、レジ袋やストローを紙に変えるなどの対応をしています。将来、環境について学び続け、環境に関わりのある職業に就くかどうかはまだわかりませんが、ビジネスで成功している企業はこうした環境対応にも優れており、そのような企業には魅力を感じます。

三木 朋香さん

三木 朋香さん(2年)

三木 千里高校の1年生には「国際理解」という特別授業があり、そこで、地球上で起こっているさまざまな出来事について学びました。私は、ウミガメの鼻にプラスチックのストローが刺さった画像を見て愕然としました。これまでは、プラスチックは便利なものという意識しかありませんでしたが、生物に悪影響を及ぼすことがあることを知り、その解決のために自分に何ができるのかを考えるようになりました。

プラスチックを減らすべきと多くの人が言いますが、便利だなと思うものは大抵プラスチック製品ですし、お店には沢山並んでいます。そこには少し矛盾を感じます。便利であれば良いというのではなく、環境にやさしい製品が良いということをもっと宣伝すべきではないでしょうか。

環境問題、社会問題に取り組むことは企業が果たすべき義務だと思います。CSRレポートなどで、企業が環境問題、社会問題への取り組みをアピールすることは、企業側にもメリットがあると思います。私は将来、企業のCSR部門で働き、社会課題の解決に取り組むことが、企業にとっていかにメリットがあるかという点について、考えたいと思います。

2.探究テーマ
「⽇本の⼦どもたちにジェンダー平等意識を持たせるための教育とは」 発表者 勝又 怜さん(2年)

勝又 怜さん

勝又 怜さん(2年)

勝又 マイノリティの人が受ける差別を改善するにはどうしたらよいか、ということに強い関心を持っています。日本ではマイノリティの方々がその個性を堂々と表現できる世の中になっておらず、そこに課題意識を持ちました。
例えば学校の制服が男性用と女性用に分けられていたり、トイレが「男性用」と「女性用」に分けられていたりする点を見ると、やはり日本ではマイノリティの人にやさしい社会になっていないと感じます。ショッピングモールには「多目的トイレ」がありますが、大体一つしか設置されていないし、健常者であるマイノリティの方々にとっては使いづらいものになっていると思います。

自分が会社に勤めるとしたら、やはりマイノリティの人にやさしい会社に勤めたいと思います。「女性活躍」とか「LGBTに配慮した体制づくり」を謳う企業もありますが、そこに勤める一人ひとりがマイノリティに対して寛容でいられるような、職場の雰囲気づくりまで配慮している企業に勤めたいと思います。

3.探究テーマ
「⽇本のスーパーマーケットで環境に良い地産地消が普及するためには」 発表者 深谷 美遥さん(2年)

深谷 美遥さん

深谷 美遥さん(2年)

深谷 私はもともと、環境に良い消費に興味がありました。スーパーマーケットなどで、消費者がさまざまな産地の食材を選べることは良いことだと思われがちですが、私自身はちょっと違うかなと思っています。豊かな消費というものが、環境にとってはむしろマイナスに作用することが多いことに気づいたのです。もちろん豊かな消費も大切ですが、豊かさを保ちつつ、環境にもよいものに変えていく方法を考えてみようと思いました。

地元のスーパーで調査すると、地産地消に取り組んでいる場合でも、その理由は「地域の農業の活性化のため」に取り組んでいる場合が多く、必ずしも環境のためではないとわかりました。教科書では「地産地消は環境課題の解決のために進められている」と書いてあるのですが、実際にはそうでないように感じました。

企業は、自分たちにメリットのないことはあまりしようとしません。いくら環境にやさしい取り組みでも、そこにコストがかかりすぎると企業は受け入れません。従って、企業にとってのデメリットを減らしながら、環境にやさしい取り組みを行っていくことが重要だと考えます。

将来、環境問題に関わる職業に就くかどうかはまだわかりませんが、問題が生じたときに、対立する意見でも、双方に歩みより、双方が納得できるような答えを導けるような人になりたいと思います。

学校と企業がともに担う「グローバル人材育成」の未来

今後、グローバル人材の育成に向けて、日本の教育機関が何をすべきか、また千里高校はどう向き合うべきなのか。その点について大西先生はこう語ります。

「教育機関は、こうした課題研究を教育の場でもっと生かしていくべきです。今回の『千里フェスタ』における教員研修のテーマは「Whole School Approach」(学校全体としての取り組み)という考えです。学校全体としても、生徒のキャリア形成に結び付き、SDGsのような社会課題の解決にもつながるような教育に注力すべきでしょう。また千里高校としても、生徒の『確かな目』をしっかり受け止め、学校全体に広げていく必要があります。生徒の探究テーマにあった、学校がとれだけLGBTなどに向き合っているのか、といった点です。社会課題に向き合う一部の取り組みは優れていても、学校全体としては何も起きていないといった『二枚舌』にならないように、学校運営に関しても、環境課題や労働問題 (教員の働きやすさ)などにも向き合っていくことが重要だと思います」

大西先生は最後に、学校と企業との連携についてこう述べました。「企業の方々と交流する機会も増え始めています。企業側の視点は、教育現場にいる我々にとっては新鮮で、刺激になります。企業の方も学校に興味を持ってくださいます。『高校生がここまで考えているのか』ということを知っていただく機会となるからです。企業と生徒のコミュニケーションの場として、生徒たちの探究成果の発表の場をもっと使っていただきたいと思います。立場は違いますが、学校と企業は同じ方向を向いているはずです。企業にもきっとメリットがあると思います」

山内由紀夫

SDGsデザインセンター シニアコンサルタント
山内 由紀夫(やまうち・ゆきお)

都内信用金庫の証券運用部門、経営企画部門を経て、IR支援会社で上場企業の調査分析、アニュアルレポート・統合報告書・CSRレポートの編集および企画。 日経BPコンサルティングでは、財務、非財務の両面からバランスの取れた価値創造ストーリーの構築を支援。

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