CSV、ESG、SDGsと企業ブランド

SDGsブランディングで企業価値を高めよ

  • 古塚 浩一

    マーケティング本部副本部長 兼 SDGsデザインセンター長 古塚 浩一

SDGsブランディングで企業価値を高めよ
CSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)、ESG(環境・社会・ガバナンス)、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の取り組みに積極的に取り組む日本企業が一気に増えた2018年。自社の取り組みを発信するために統合報告書を発行する企業も増加した。そうした中、いち早く統合報告書の発行をクリアした企業は、次のステップに入っている。それが、SDGsをブランディングに取り入れる動きだ。なぜ今こうした企業ブランディングが求められ、何から手を付けるべきなのか、SDGsブランディングの第一人者であり、味の素やファーストリテイリング、デンソーなどの社外取締役も務める一橋大学大学院客員教授の名和高司氏に話を聞いた。
聞き手=古塚浩一 / 文=斉藤俊明

企業のブランドが無形資産として機関投資家からも改めて重要視されていますが、企業は今なぜCSV、ESG、SDGsをブランディングに取り入れていかなければならないのでしょうか。

名和 ESGは、企業が持続可能かどうか、投資しても将来大丈夫かを資本市場が判断するための3つの指標です。ですから、ESGを私は企業がやらなければならない規定演技だと言っています。その中で、EとGは分かりやすいのですが、Sが分かりにくい。そこでヒントとなったのがSDGsです。SDGsはかなりの部分がSに関係しています。この目標で貢献しようというカードを各企業が握り、動き出した。それがSDGsをめぐる現在の流れだと思います。

このSDGsも、私は“いい会社”になるための規定演技だと考えています。真に先進的な企業はさらに先、SDGsにもない新しい価値を提案しています。例えば花王の「きれい」、三菱ケミカルの「KAITEKI」などは、SDGsにダイレクトには存在しないキーワードです。このようにSDGsを超えるもの、いわば自由演技をしっかりと世の中に見せていくことが、今求められています。

企業にとって規定演技だけでなく、自由演技も重要な理由は何でしょうか。

名和 その会社が何を目指し、どういう姿勢で、何を提供しているのかという一連のストーリーが、顧客を惹きつける重要なパワーになるからです。さらに言えば、従業員のパワーにもなります。顧客に向けて価値を実現するのは従業員ですから、彼らが会社の姿勢に共感し、“自分ごと”として事業に携われるようにすることが必要です。

ミレニアルの人たちは、社会にどれだけ貢献できるかを常に考えています。“やらされごと”ではなく、会社の姿勢に腹落ちし、社会に貢献している実感を抱いて仕事をすれば、従業員の生産性も上がっていきます。それによって会社としてのもうけが生まれ、企業価値が上がるサイクルが生まれます。

CSVは、規定演技と自由演技の活動を単なる社会貢献に終わらせず、事業のど真ん中で実践することです。重要なのはそこで得た利益をポケットに入れるのではなく、再投資し、好循環に回して、世の中に価値を広めていくこと。この好循環をつくることがCSVの本質的な狙いだと言えます。

CSVは単純に本業を通じ社会課題の解決に貢献することだと理解されることもありますが、利益を循環させることが重要だということですね。

名和 日本企業はその部分がまだまだ弱いと感じます。本業が社会課題の解決につながっているからいいじゃないか、そこで止まってしまいます。価値を狭いコミュニティーにとどめず、社会の中にどんどん広げ、恩恵をもっと多くの人に感じてもらおうというのが、資本主義時代のCSVだと思います。

CSVの実現に向けブランディングに成功している具体的事例として、まずは海外企業の例を教えていただけますか。

名和 よく挙げられるのはネスレとユニリーバです。いずれもトップたちがよりどころにするのは、会社の創業時の精神。両社とも会社の目的や志、存在意義をひもとく活動に力を入れています。ネスレは粉ミルクで赤ちゃんを救いたいという思いから出発していますし、ユニリーバもせっけんによって社会に衛生観念を生むことを大事にしているように、出発点を見極めたストーリーづくりを行っています。

一橋大学大学院特任教授の名和高司氏

一橋大学大学院客員教授の名和高司氏

創業精神は自社の原点ですから、他社のまねをする必要はありません。どの会社も持っている自社の原点を見直すことで、その会社ならではのストーリーが出てくるはずです。ただしそれだけではノスタルジックになる可能性があるので、原点を今日的に読み替える作業が必要になります。例えば清水建設は「子どもたちに誇れるしごとを。」というコーポレートメッセージを打ち出していますが、創業した江戸時代の大工たちの丁寧な仕事に立ち返りつつ、英語のタグラインでは「Today's Work, Tomorrow's Heritage」、すなわち今日の仕事が将来の遺産を生むという未来志向の表現に読み替えています。

清水建設の話が出ましたが、日本企業の事例はいかがですか。

名和 ユニクロのファーストリテイリング、無印良品やMUJIの良品計画も、原点を大切にしながら時代に合わせてコンセプトをアップデートし、魅力的なタグラインをつくり出しています。歴史が浅い企業でも、原点の見つめ直しと読み替えで効果的なブランディングを行える好例だと思います。BtoB企業では、デンソーが「Crafting the Core」というスローガンを打ち出しました。もっと自社らしく主張していきたいという思いから、コア=本物を、クラフティング=匠の技能で世に送り出すという原点に根差した志がこのスローガンに込められています。

こうした進化の仕方をする“いい会社”は、2つの確固たるPを持っています。1つはPurpose。目的ですね。これは原点ですからいつの時代も変わりません。そしてもう1つのPはPivot、つまり旋回軸です。一方の軸足として決して揺らがないPurposeを持ち、その足でPivotしながら、もう一方の足を大きく踏み出す。この2つのPを持っている会社が、CSVを実践し続けることができると考えます。

こうしたブランディングを行うには、まずどこから手を着ければいいのでしょうか。

名和 やはり原点に根差したビジョンが大切です。私がコンサルティングでお手伝いするときも、まずはビジョンづくりから始めます。私がよく提案するのは、企業が自分を発見するためのワークショップ。例えば「個人にとって」「社会にとって」「地球にとって」という3つの輪を描き、そこに自社の事業をプロットしていくと、自社の存在意義が見えてきます。

それが見えてきたら、次はスローガン、言葉に集約していきます。自分たちのこだわっている原点を書き出してもらい、そこからキーワードを導き出していきます。

そして言葉が固まったら、次はどう発信していくのでしょうか。

名和 これは、トップの発信、仕込み役の設定、そして現場の巻き込みという3つのレイヤーで実施する必要があります。トップの発信が重要であることはもちろん前提条件。加えて、各部門にアンバサダーやインフルエンサーといった仕込み役を置き、彼らの動きで現場を巻き込んでいきます。

ストーリーづくりと発信のヒントとしては、動画で分かりやすいものにすることです。会社のコンセプトを具体的に示す事例を選び、その会社ならではのストーリーに仕立ててビジュアル化し、それをInstagramやYouTubeといったツールを活用して発信する。ネスレのサイトを見ると、各現場が発信するビデオが数多くアップされています。こういった取り組みなら、どの会社でもすぐに始められるのではないでしょうか。

一橋大学大学院特任教授の名和高司氏

自社の企業価値の棚卸しと、棚卸しによって紡ぎ出された価値創造のストーリーを動画に落とし込む、まずはここからSDGsブランディングを始めることを強くおすすめします。

一橋大学大学院国際企業戦略研究科 客員教授
名和 高司 氏

1980年東京大学法学部卒業後、ハーバード・ビジネススクールにてMBA取得(ベーカー・スカラー授与)。三菱商事の機械グループ(東京、ニューヨーク)に約10年間勤めた後、マッキンゼーのディレクターとして約20年間、コンサルティングに従事。2010年6月より現職。

※肩書きは記事公開時点のものです。

マーケティング本部副本部長 兼 SDGsデザインセンター長
古塚 浩一

カスタムメディアのプロデューサー、ディレクターとして主にBtoB領域の企業コミュニケーションを支援。ナショナルジオグラフィック日本版広告賞(三井物産)、日経電子版広告賞BtoBタイアップ広告部門賞(三菱商事)等受賞。

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