企業ブランディングと発信力 ⑧

ブランド・ジャパンについて

2017.04.10

ブランディング

16年目を迎えた調査は、日本企業をどう変えたか

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阿久津 ブランド・ジャパンが誕生して16年になります(※当対談は2016年に実施しました)。ブランド・ジャパンは日本企業のビジネスのやり方に、どのような影響を与えてきたと思いますか。

アーカー 日本企業はブランド・ジャパンから多くのことを学ぶことができます。例えば、なぜあるブランドは衰退し、あるブランドは繁栄しているのかについて理解を深めることができます。2016年版のブランドランキングでは、アマゾンが1位、グーグルが2位となりました。その大きな理由は、両社のサイトの使い易さに顧客が満足しているからです。両社の非常に詳細で、正にかゆいところに手が届くサービスオファーには、ただただ目を見張るばかりです。そしてそれは、両ブランドの高い目的意識の影響でもあります。

また、ブランド・ジャパンでは、自社ブランドと同じブランド・イメージを提供して成功している企業から学ぶこともできます。あなたの企業が、暖かみと親近感のあるブランド・イメージを求めているとしたら、同じイメージを提供して順位が上がっているブランドを探し出し、そこから学ぶことができるのです。逆に、同じイメージを提供しているのに衰退してしまったブランドからもその原因を学ぶことができます。

また、ブランド・ジャパンは、複数の観点からブランド力を評価するので、自社ブランドの現状確認を詳細にすることができます。ここ数年のブランドの状況、今後テコ入れしたい点や変えていくべき点など、明確な洞察が得られます。

阿久津 ブランド・ジャパンは、同じ質問項目で調査を継続しているので経年的に一貫性があり、時間とともにその価値が高まっていると思います。私たちはブランド・ジャパンの評価項目に加えて、「環境的配慮」など、別途分析が可能な観点を数年前に新たに加えましたね。今後、補強すべき観点として考えているものは何かありますか。

アーカー 「高い目的意識」はぜひ付け加えたい観点ですね。「環境的配慮」は高い目的意識の中では最も重要なものですが、他にもっと一般的に考えられる高い目的意識があるからです。

阿久津 私もそれには大賛成です。そのためには、具体的にどんなことが高い目的意識の対象になるのか、もう少し調査する必要があるかもしれません。

アーカー ケーススタディも重要になってきます。高い目的意識を伝えられるストーリーテリングを行っている企業を見つけるのが鍵だと思います。

用語解説

【ブランド・ジャパン】
2001年より日経BPコンサルティングが実施している日本最大規模のブランド価値評価調査。国内1500ブランドの価値を、5万人超の消費者とビジネスパーソンが評価する。

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Epilogue 対談を終えて…

アーカー ⇒ 阿久津

私にとってトシは、今や互いに家族ぐるみでおつきあいをする、仕事を超えた存在です。お子さんたちは、毎年、数週間、私の家にホームステイしています。彼の年長のお子さんにはテニスを教え、一緒にプレイをしているし、下のお子さんの名前は私の妻の名前に由来しているほどです。毎年、ブランド・ジャパンの分析をしていますが、それも、トシら日本の友人たちがいるからできることです。トシは拙著の翻訳もしてくれましたし、学会やイベントにも何度も一緒に参加しました。仕事からプライベートに至るまで幅広い関係があるトシは、私の親友です。

阿久津 ⇒ アーカー

デイヴは本当に素晴らしい研究者で、とても尊敬しています。ブランドマネージメントでは常に最先端の研究をしており、現況やトレンドの動きも的確に把握しています。彼の著書は多くのエグゼクティブの経営方法に影響を与えてきました。その中には、私が訳したものも何冊かあります。翻訳でもそれなりの作業ですから、次々と本を執筆していくのはとても大変なことです。最近、これまでの研究のダイジェスト版と言える『ブランド論』を上梓されましたが、早くも次作に取りかかっているとのこと。さすがです。私も今取りかかっているプロジェクトをまとめて早く出版させようと、デイヴへのインタビューを終えて身が引き締まりました。​​​​​​​

カリフォルニア大学バークレー校名誉教授 プロフェット社副会長 デービッド・アーカー 氏

カリフォルニア大学バークレー校名誉教授
プロフェット社副会長
デービッド・アーカー 氏

カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院名誉教授、ブランドコンサルティング企業プロフェット社副会長。ブランド論の第一人者として知られている。著書に『ブランド・エクイティ戦略』『ブランド・リーダーシップ』、『ブランド・ポートフォリオ戦略』(いずれもダイヤモンド社)、『カテゴリー・イノベーション』(日本経済新聞出版社)ほか多数。近刊は『ブランド論』(ダイヤモンド社。翻訳は阿久津氏)。

※肩書きは記事公開時点のものです。

阿久津 聡 氏

阿久津 聡(あくつ・さとし) 氏

カリフォルニア大学バークレー校Ph.D.(経営学博士)。専門はマーケティング、消費者行動論、ブランド論。
著作に『ブランド戦略シナリオ - コンテクスト・ブランディング』(ダイヤモンド社:共著)、『ソーシャルエコノミー』(翔泳社・共著)、『ブランド論』、『ストーリーの力で伝えるブランド』(ダイヤモンド社:訳書)、『カテゴリー・ イノベーション』(日本経済新聞出版社:監訳書)、『弱くても稼げます』(光文社:共著)、『サクッとわかるビジネス教養 マーケティング』(新星出版社:監修)などがある。

※肩書きは記事公開時点のものです。

※本コンテンツは日経BP社の許可により「日経ビジネス特別版 2016.12.5」から抜粋したものです。禁無断転載。

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