企業ブランディングと発信力 ⑤

ストーリーの力

2017.03.21

ブランディング

ベストなコンテンツは通常、「物語」の形をとっている

chapter5_01.jpg阿久津 プリウスの話に戻りますが、市場にこの車が登場した時、ハリウッドスターたちがこぞって飛びつきました。それは、先ほどお話された「自己表現ベネフィット」があったからでしょうか。

アーカー それは、「ストーリーの力」でも説明できると思います。ストーリーは今、マーケティングとコミュニケーションの分野で、とてもホットなキーワードとなっています。顧客がコミュニケーションをコントロールしている今、マーケティングでは何よりコンテンツが重要です。そして、ベストなコンテンツは、通常、ストーリーという形態を取っているのです。だから、企業は是非ストーリーを活用してほしいと思います。

ストーリーを活用した成功事例として、ユニリーバが持つ「ライフボーイ」という石鹸のブランドがあります。ライフボーイは、インドである宣伝用ビデオを流して、多くの人々を「手をよく洗う」という習慣に導きました。そのビデオでは、ある村に住む1人の女性が木の下で佇んでいる姿が映し出されます。その村では子供が生まれると、植樹する習慣があるからです。また、多くの子供たちが、しっかり手を洗っていれば亡くなることはなかった様々な病気で、5歳未満で亡くなっているというデータも示されます。夜、その女性は寝床に入り、翌朝、5歳を迎えることができた我が子の誕生日を祝うのです。ビデオの終わりでは、手を洗うことによってたくさんの命が救われることを述べ、ライフボーイの「洗手」プログラムを紹介しています。

阿久津 つまりストーリーは、それを見た人々の生き方を変える力があるわけですね。

アーカー 重要なのは、このビデオが、高い目的意識を持ったストーリーであるということです。この宣伝では2つのビデオが制作されたのですが、1つは1100万人が、もう1つは1900万人が視聴しました。そのため、売上にも大きく貢献したのです。一方で費用はというと、それほどかかっていません。この事例から分かるように、ストーリーという形態を取ると説得力が出て来るので、人々はいつまでも心に留めることができます。人々は、石鹸という商品自体には気を留めませんが、こういったストーリーには興味を示すのです。

阿久津 確かにストーリーは、ブランドコミュニケーションの分野で、大きなトレンドになっていますよね。ほかに、最近のブランディングの傾向を示すキーワードとしてどのようなものがありますか。

アーカー 一般的にマーケティング職に携わる人々は、商品やその属性、購買理由、使用法などに焦点を当てたコミュニケーションを重視しますが、残念ながら顧客はその商品の自体の情報にはそれほど興味を持っていないことが多い。むしろ、その商品の周りに関心を持っていることが多いので、そちらに焦点を当てる必要がでてきます。

例えばおむつのブランドであるパンパースは、ベビーケアに関するウェブサイトを設けました。顧客がおむつではなく、ベビーケア情報に興味があると分かったからです。セフォラも、顧客がコスメではなく、美容情報に興味があることが分かったので「ビューティー・トーク」というサイトを設けました。トラクターを製造しているジョンディアが農業従事者たちに配布している冊子には、トラクターの商品情報ではなく、彼らが関心を持ちそうな田園のライフスタイルや科学的農法などが紹介されています。つまり、顧客が関心を持つ「カスタマー・スイートスポット」を見つけ、それを中心に、顧客が参加できるプログラムを作ることが重要です。直接宣伝をしても顧客はなかなかついてきませんが、「カスタマー・スイートスポット」を通じてならついてくるのです。

阿久津 「カスタマー・スイートスポット」や「ストーリーの力」を重視したプログラムは、ウェブサイトやSNS、YouTubeなどデジタルを使って効果的に行うことができますよね。

カリフォルニア大学バークレー校名誉教授 プロフェット社副会長 デービッド・アーカー 氏

カリフォルニア大学バークレー校名誉教授
プロフェット社副会長
デービッド・アーカー 氏

カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院名誉教授、ブランドコンサルティング企業プロフェット社副会長。ブランド論の第一人者として知られている。著書に『ブランド・エクイティ戦略』『ブランド・リーダーシップ』、『ブランド・ポートフォリオ戦略』(いずれもダイヤモンド社)、『カテゴリー・イノベーション』(日本経済新聞出版社)ほか多数。近刊は『ブランド論』(ダイヤモンド社。翻訳は阿久津氏)。

※肩書きは記事公開時点のものです。

一橋大学大学院国際企業戦略研究科 教授 阿久津 聡 氏

一橋大学大学院国際企業戦略研究科 教授
阿久津 聡 氏

一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院にてアーカー氏に師事。同校で経営学修士と博士号を取得。専門はブランド論、マーケティング、消費者心理学、文化心理学、知識経営論、行動経済学。『知識経営実践論』(白桃書房)、『ブランド戦略シナリオ』(ダイヤモンド社)、『ソーシャル・エコノミー』(翔泳社)ほか著書・訳書多数。

※肩書きは記事公開時点のものです。

※本コンテンツは日経BP社の許可により「日経ビジネス特別版 2016.12.5」から抜粋したものです。禁無断転載。

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