企業ブランディングと発信力 ⑦

ブランディングの新潮流

2017.04.03

ブランディング

サブカテゴリー、カスタマー・スイートスポット、そして高い目的意識が3大潮流

ブランディングの新潮流阿久津 今後、ブランドマネージメントはどのような方向に向かうと考えていますか。

アーカー 第1に、トレンドは既存カテゴリー内の各ブランドの優劣競争ではなく、サブカテゴリーの構築競争に向かっています。大きな成長をもたらす唯一の方法は、“must have(顧客にとっての必須条件)”を再定義するサブカテゴリーを創出し、その中でブランドを運営していくことです。第2に、先ほど触れた「カスタマー・スイートスポット」を中心にしたプログラム展開が重視されます。顧客の関心は商品やその属性などではなく、商品の周辺にある情報だからです。第3に先ほど触れた、「高い目的意識」を持つことが重要になるでしょう。企業は売上や利益ばかりを追求するのではなく、社員を鼓舞し、顧客との信頼関係を高めるために、高い目的意識を構築する必要があるのです。

阿久津 新しいトレンドの中で会社が成功するために、ブランドマネージャーは、何に注目し、力を入れていくべきだと思いますか。

アーカー ブランドマネージメントという職務は組織的にも、コンセプト的にも大変な仕事です。組織的には様々なサイロで、限られた資源を獲得しようと競争している問題があります。コンセプト的には、世界の市場が猛スピードで変化しているという問題があります。商品オファーはどんどん変遷しているし、新しいサブカテゴリーも生まれては消えています。そのため、多くのブランドマネージャーが、どう対処したらいいか分からず途方に暮れているという状況があると思います。

さらに、昔から言われていることですが、「他と違ったクリエイティブな広告作りができているか」という問題があります。かつては広告制作に6~8カ月という期間をかけられたので、クリエイティブな制作が可能でしたが、物事が迅速に動くデジタル時代の今、広告制作には、これまでとは違う考え方や組織が必要になっていると思います。

阿久津 ブランドマネージャーにとっては、大きなチャレンジですね。高い目的意識とも関連しますが、今、多くの日本企業で「インターナル・ブランディング」の重要性が再認識されており、特に企業ブランド担当のマネージャーの重要な職務となっています。これをうまく実践するにはどうすればいいでしょうか。

アーカー インターナル・ブランディングを実践するにも、ストーリーが重要になります。それは創業者のストーリーでもよし、CEOが大転換を図ったストーリーでもよし、従業員や顧客のストーリーでもいいのです。しかし内容は、伝える価値がある、中身があるものでなくてはなりません。

阿久津 ストーリーをインターナル・ブランディングに上手く利用している企業の事例は何かありますか。

アーカー 中国の家電メーカーであるハイアールのCEO、張瑞敏氏のストーリーはその好例です。中間管理職だった張氏がCEOに就任した時、同社は衰退し、倒産の危機に瀕していました。当時、ある顧客が、不良品を持って同社を訪ねた時、張氏はその不良品を交換しようと倉庫に行ったのですが、商品の7割が不良品だったそうです。そこで彼はそれらをすべて運び出し、全社員の前でハンマーで叩き壊しました。以来、このストーリーは、品質の良い商品を生み出すよう社員を動機づけ、同社が世界最大の家電メーカーになることに貢献しました。その時使われた実物のハンマーは、現在、同社の本社に展示されています。

阿久津 先ほど少し話に出た、「サブカテゴリーを生み出すことが、既存カテゴリー内でのブランドの優劣競争よりも重要だ」という知見ですが、著書『カテゴリー・イノベーション ブランド・レレバンスで戦わずして勝つ』の中でも議論されていましたね。それについて馴染みのない読者の皆さんに、もう少し詳しく話してもらえますか。

アーカー 多少の例外はあるものの、ブランドが大きく成長する唯一の方法と言えるのは、顧客の“must have”を発見し、それを提供することです。顧客の“must have”が分かれば、サブカテゴリーを定義できます。そのサブカテゴリーの中で、自社のブランドがオンリー・ワンであるよう運営して、大きく成長させるのです。

振り返ると、様々な市場において、ブランドが大きく成長するのは新たなサブカテゴリーが定義された時でした。私はそれを、日本のビール市場を過去40年間遡って分析した時に発見しました。ビール市場は40年間で4回、市場シェアの順位が変化しています。4回のうち3回はアサヒのスーパードライ、キリン一番搾り、そして発泡酒が生まれた時でした。4回目は、2つのサブカテゴリーが再定義された時。つまりドライビールが再定義された時と、キリンがラガーからドラフトへ転換した時でした。

ビールに限らず、同じような現象が多くのカテゴリーで起きています。車もそうです。クライスラーはミニバンという新しいサブカテゴリーを定義し、継続的に新たな“must have”を生み出すようなイノベーションを投入した結果、16年間、競合の追従を許しませんでした。プリウスは10年以上、小型ハイブリッド車というサブカテゴリーの代名詞であり続け、世界で圧倒的なシェアを占めています。

実際、既存市場でブランドの優劣競争に参加することは、企業にとって楽しいことではありません。結局のところ、いくら競争してもほとんど成長に繋がらないというのが現実です。企業はサブカテゴリーを定義づけるような、大きなイノベーションを起こすことに、もっと資本を投下すべきだと思います。

阿久津 日本のビール市場の観察と分析から、デイヴがこの現象を発見したことは感慨深いです。車でいえば、現在、日産やテスラも電気自動車というサブカテゴリーを定義して大きく成長しようとしていますね。

アーカー 新しいサブカテゴリーが生み出せれば、アサヒのドライビールが、ある時点で市場シェアを9%から36%まで拡大したように、市場のリーダーになれる可能性が十分にあるのです。

重要なのは、ビジビリティと信頼性をまだ持っていないブランドが、あるサブカテゴリーにおいて、それを築くことです。そうすることで、そのサブカテゴリーの中では、競合ブランドよりも好まれることができる。問題は、自社ブランドではなく、競合ブランドがより好まれている場合でしょう。そうした状況を打開するには、そのサブカテゴリーでよりレレバントになるようにブランドを運営する必要があります。

阿久津 3つ目のトレンドである高い目的意識の重要性に関連して、日本企業の問題について感想を聞かせて下さい。今でも日本企業は、大学新卒者を中心に雇用する傾向があります。彼らの多くは、終身とまではいかずとも長期雇用を前提としていて、同じ会社で何年も働く中で、徐々にその会社のブランド理念を理解してもらうような仕組みになっています。一方、アメリカでは労働市場の流動性が高く、特に大企業のホワイトカラーの勤続年数は、日本に比べてかなり短いと思われます。それにも関わらず、高い目的意識をはじめとするブランド理念が短期間で効果的に共有できている企業が多いという印象があります。それについてはどう思われますか。

アーカー まず、雇用をはじめとする人事制度について、日本企業は大きな間違いを犯しているように思います。基本的に、多くの日本企業の人事制度は「あなたは40代後半になるまでは、リーダーにはなれません」と言っているようなものだからです。儒教的な文化背景からか、未だに若者や女性が十分に活躍できない状況に多くの日本企業があるように思います。しかし、世界には、20代後半~30代前半でも成功している素晴らしい経営者がたくさんいるのです。日本企業は、若い才能の芽を摘み取ることなく、また、リーダー的資質のある女性を採用することで、企業の発展に役立てるべきでしょう。

阿久津 日本企業は、ご指摘の問題を変えていこうとはしていますが、なかなかうまく行っていないのが現状です。入社間もない社員を積極的に抜擢できない主たる理由は、確かに文化的価値観や既存の人事制度によるものと思いますが、ブランドに関する課題としては、短期間で社員にブランド理念を内在化させる方法を企業が見出せていないということもあるのではないでしょうか。一方、アメリカでは、数年前に入社した社員がブランドコミュニケーションのリーダーを務めているというような状況もよく見られます。何か特別なトレーニングプログラムがあるのでしょうか。

アーカー 特に思いあたりません。それよりも、アメリカ企業の場合、ブランドに関する知識や経験が全くなくても、短期間のうちに、それを自ら学ぶことができるような有能な人材を、最初から雇用するようにしているように思います。

阿久津 なるほど、例えばブランドが掲げる高い目的意識を、個人としてすでに共有しているような人材を厳選して雇用するというようなことですね。

アーカー そうです。企業が人を雇ってから「これが我が社の高い目的意識だよ」と伝えるのではなく、雇用前から、高い目的意識を信じている人を雇うわけです。UCバークレーのハース経営大学院も同じで、学生を受け入れる際には、学業における優秀さとは別に、スクールが掲げる4つの指針を最初から信じている学生を厳選して入学させるようにしています。

用語解説

【インターナル・ブランディング】
インナーブランディングとも呼ばれる。自社社員に企業ブランドの価値や目指す姿を理解させる啓蒙活動。対義語は、消費者などに自社ブランドの価値を訴求するエクスターナル・ブランディング。


【サブカテゴリー】
1つの大きな商品ジャンルの中から、消費者がモノやサービスを選ぶ際の、選択の基準となるもの。例えば「ビール」という商品ジャンルにおける「生ビール」「ドライビール」「エール」などがサブカテゴリーに相当する。

カリフォルニア大学バークレー校名誉教授 プロフェット社副会長 デービッド・アーカー 氏

カリフォルニア大学バークレー校名誉教授
プロフェット社副会長
デービッド・アーカー 氏

カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院名誉教授、ブランドコンサルティング企業プロフェット社副会長。ブランド論の第一人者として知られている。著書に『ブランド・エクイティ戦略』『ブランド・リーダーシップ』、『ブランド・ポートフォリオ戦略』(いずれもダイヤモンド社)、『カテゴリー・イノベーション』(日本経済新聞出版社)ほか多数。近刊は『ブランド論』(ダイヤモンド社。翻訳は阿久津氏)。

※肩書きは記事公開時点のものです。

一橋大学大学院国際企業戦略研究科 教授 阿久津 聡 氏

一橋大学大学院国際企業戦略研究科 教授
阿久津 聡 氏

一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院にてアーカー氏に師事。同校で経営学修士と博士号を取得。専門はブランド論、マーケティング、消費者心理学、文化心理学、知識経営論、行動経済学。『知識経営実践論』(白桃書房)、『ブランド戦略シナリオ』(ダイヤモンド社)、『ソーシャル・エコノミー』(翔泳社)ほか著書・訳書多数。

※肩書きは記事公開時点のものです。

※本コンテンツは日経BP社の許可により「日経ビジネス特別版 2016.12.5」から抜粋したものです。禁無断転載。

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