企業ブランディングと発信力 ⑥

企業のサイロ問題

2017.03.27

ブランディング

個々のサイロの目的意識と全体の目的意識は併存できる

企業のサイロ問題阿久津 企業が抱えている問題の1つに「サイロ問題」がありますが、これについての洞察を話してもらえますか。

アーカー 1930年代に始まった素晴らしい経営概念の1つに、分散化があります。分散化の結果として、自律的に運営されるユニットが本国だけでなく、各国につくられました。分散化にはたくさんの利点があるのですが、同時にブランド担当者は、分散化の副作用としての問題を抱えることにもなりました。指揮系統の異なるそれらのユニット間には横の繋がりがないため十分なコミュニケーションが行われず、いわゆる「サイロ化」していたのです。それにも関わらず、ブランドはそれぞれ自律した複数のユニットによって独自に運営されることになり、結果的に、ブランドから一貫性が損なわれてしまったのです。

私は50人のCMOにインタビューをし、『シナジー・マーケティング 部門間の壁を越えた全社最適戦略』という著書で、サイロ問題についての解決法を議論しました。それは多くのサイロを標準化、中央集権化して統合するのではなく、サイロの孤立やサイロ間競争をコミュニケーションや協力によって解決するという方法です。例えばイベントを開いて、様々なサイロの人々を集めたり、サイロ間で繋がりが持てるようなタスクフォースを設けたり、複数のサイロが協力してオリンピックのようなイベントのスポンサーになったりするなど、実行可能な方法はたくさんあります。また、サイロ間にまたがるような同じシステムを使って戦略的な計画を練ることもできるでしょう。

阿久津 それは、先ほどお話しされた高い目的意識とも関係してきますよね。高い目的意識を持てば、サイロ間のコミュニケーションが円滑になり、人々は共有する大きなゴールを目指して繋がって行くのではないでしょうか。

アーカー そう思います。例えば先ほど紹介したユニリーバには、「エネルギー効率の向上」という全社的な高い目的意識があります。同時に、各サイロもそれぞれ高い目的意識を持っています。例えば、ダブという石鹸ブランドは、若さではなく自己評価で「本物の美」を生み出すことに高い目的意識を見出しました。これは、同社が持つ前述のライフボーイという石鹸ブランドとは違う目的意識です。企業は、各々のサイロがそれぞれ違った高い目的意識を持つよう促すこともできるし、同時に、サイロ間をまたがるような共通の目的意識を持つよう促すこともできるのです。

阿久津 それは日本企業についても、同様に重要ですね。例えば、個々のブランドは高い目的意識を持っているものの、企業グループ全体で共通の高い目的意識を共有できていないケースが少なからずあるように思います。

アーカー ユニリーバはすべてのブランドに、そのブランドにふさわしい高い目的意識を持つよう促しました。それは、そのブランドの顧客と繋がることができ、そのブランドの資産やスキルにテコ入れをし、グローバル的にも理解されるような高い目的意識です。結果的にそれは成功し、ダブの石鹸は2億ドル規模のブランドから40億ドル規模のブランドへと成長しました。ライフボーイの石鹸もインドの石鹸市場を牽引する人気ブランドとなりました。

阿久津 ユニリーバが高い目的意識を、社員だけではなく、顧客とも共有したのは素晴らしいことです。個々のブランドは顧客が異なるため、それぞれのターゲット顧客と共有できる高い目的意識を持つことがとても重要ですね。

用語解説

【サイロ】
石やれんが、コンクリート等で円筒形に作った倉庫。その窓がないため周囲が見えない構造から英語圏では、組織の縦割り化が原因で、部門間の活動が見えず、連動を欠いている状態になることを「サイロ化」と呼ぶ。これが原因で、本来協力し合うことで得られるチャンスや利益を失うこともある。

カリフォルニア大学バークレー校名誉教授 プロフェット社副会長 デービッド・アーカー 氏

カリフォルニア大学バークレー校名誉教授
プロフェット社副会長
デービッド・アーカー 氏

カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院名誉教授、ブランドコンサルティング企業プロフェット社副会長。ブランド論の第一人者として知られている。著書に『ブランド・エクイティ戦略』『ブランド・リーダーシップ』、『ブランド・ポートフォリオ戦略』(いずれもダイヤモンド社)、『カテゴリー・イノベーション』(日本経済新聞出版社)ほか多数。近刊は『ブランド論』(ダイヤモンド社。翻訳は阿久津氏)。

※肩書きは記事公開時点のものです。

一橋大学大学院国際企業戦略研究科 教授 阿久津 聡 氏

一橋大学大学院国際企業戦略研究科 教授
阿久津 聡 氏

一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院にてアーカー氏に師事。同校で経営学修士と博士号を取得。専門はブランド論、マーケティング、消費者心理学、文化心理学、知識経営論、行動経済学。『知識経営実践論』(白桃書房)、『ブランド戦略シナリオ』(ダイヤモンド社)、『ソーシャル・エコノミー』(翔泳社)ほか著書・訳書多数。

※肩書きは記事公開時点のものです。

※本コンテンツは日経BP社の許可により「日経ビジネス特別版 2016.12.5」から抜粋したものです。禁無断転載。

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