BRANDJAPAN 25thANNIVERSARY

『ブランドの演算 – ブランド力の相互作用』

  • 桑原 武夫 氏

    ブランド・ジャパン企画委員
    慶應義塾大学 総合政策学部 教授桑原 武夫 氏

ブランド・イメージの量と質

ブランド・ジャパン一般生活者編では、調査の際回答者に、ブランド・イメージ項目のセットを提示し、対象ブランドが当てはまるかどうかを判断してもらっている。集計した選択率をスコアとし、4つの因子スコアもここから算出する。スコアの値は、当該ブランドが抱かれている各イメージ量の多寡を示す。このように、ブランド・ジャパンのデータは、基本的には量的側面を表すものである。

これに対し、ここではイメージ項目を絵の具に例えて、違う側面を考えたい。絵の具といっても、通常の赤色や青色ではなく、イメージ項目を表現するコトバの意味の“色”として考え、各スコアはその色の絵の具が、ブランドのパレット上にどれだけ出されているかを示しているとする。そしてすべてを混ぜる。何かの色が出来上がるが、その色味は、多くの量を出していたイメージ項目(群)の色(系統)により近くなるであろう。ここでは、その色をブランド・イメージの「質」と考える。こうすると、あるブランドの全項目のスコアが、全て半分の値の別ブランドがあるとすると、混ぜて出来上がる絵の具の量も半分となるが、色=質は同じとなる。つまり、量とは別の側面を表すのだ。

ブランド・イメージの質の変化をとらえる

そのようなイメージの質的側面を表すのが、図1に示したようなイメージ空間である。これは、「YAHOO!」を対象とした23回分のデータを対象とし、コレスポンデンス分析(=双対尺度法)を用いて作成した。データから計算したイメージ項目どうしの対応の深さ(色の似具合)を、空間上の距離に置き換えてある。つまり位置の近い項目ほど、同系色=意味が似ている、と読める。図1からは、中央・上方にはイノベーティブ因子、右・下方にはアウトスタンディング因子、やや左下・原点付近にはフレンドリー因子、そして、それを取り囲むようにコンビニエント因子を構成するような項目群が配置されていることがわかる。空間の各部分が、それぞれの色=意味に染まっていると見てよい。空間の構成は、ブランド・ジャパン2007年調査(以下、BJ2013)データから算出したウェイトによって決定した。ここに各ブランド・各調査年のスコア・プロフィールからみて最も相応しい位置を見出し、ブランド・イメージの質を可視化する。図1内02〜24のプロット記号の位置は、それぞれBJ2002〜BJ2024におけるYAHOO!のイメージの質とその変化を表している。

YAHOO!ブランドの質の経年変化の大きな流れが右上から左下となっている(図1)のは、多くの新しいブランドに共通して見られる現象である。市場に出たばかりだと、人々は“新奇な”という印象しかもち得ないものの、だんだんと普及・浸透するにつれ他のイメージも獲得していくためだ。しかし、図1で目を引くのは、その流れがBJ2006とBJ2007の間で大きくジャンプしている点である。これはYAHOO!のイメージが、ここでイノベーティブからコンビニエント中心に大きく変質したことを意味している。

図1 YAHOO! イメージの質的変化

競合ブランド出現のインパクト

インターネットの普及を加速したのは、初めてOSの基本機能としてアクセスを可能としたWindows95(マイクロソフト社)であった。その後しばらくは「インターネットを使う」ことが、「ブラウザを使ってネット・サーフィンとする」ことと考えられていた時期が比較的長かった。加えて、1990年代後半以降に発売された多くのPCのブラウザで、起動時にYAHOO!のトップページが現れるように設定されていた。こうした事情により、インターネット検索エンジンの利用は、諸外国の主流がGoogleに移ってからも、日本ではYAHOO!が使い続けられていた。しかし、その傾向が変わったのが、まさにBJ2006からBJ2007のタイミングであった。このことは、YAHOO!とGoogleのイノベーティブ因子スコアの推移を示した図2からもわかる。急伸したGoogleの順位がYAHOO!と入れ替わった時なのである。

圧倒的な優位性を保っていた革新的プロダクトのブランドに、強力なライバルの出現により、イメージの質に大きな変化がもたらされることがあるが、上記はその典型例といえる。Only oneからOne of themへの変化であり、消費者の認知の中に、“ブラウザ”というカテゴリーが形成され、両ブランドが比較されるようになったということだろう。先行ブランドは、革新的イメージを失い、他の色彩を帯びるようになる。図には示さなかったが、携帯電話市場で「au」が市場浸透度を高めた時の「NTT docomo」、「ソフトバンクモバイル」が「vodafone」を獲得し攻勢を強めた時の「au」にも同様の変化が観察されている。

留意すべきは、Only oneブランドでなくなることが、必ずしもブランド力を失うことを意味するものではないという点だ。カテゴリーの中のブランドという位置づけを得て、安定感を増す効果もあるためである。個別ケースでの検討を要するが、いずれにしても新たな競争が生まれるため、ブランド政策の転換点となるといってよいだろう。本稿では、競合ブランドとの相互作用がもたらすブランド・イメージの質力の変化に着目した。この他にも、同業種やグループ内のブランドの影響など、ブランド間の相互作用には、いくつものパターンがあることが見出されている。それについても今後、詳細に検討していきたい。

図2 YAHOO! とGoogle イノベーティブ因子スコア変化