BRANDJAPAN 25thANNIVERSARY

ブランドジャパンの数理的基礎研究について
-25周年によせて-

  • 豊田秀樹氏

    早稲田大学 文学学術院 教授
    ブランド・ジャパン企画委員豊田 秀樹 氏

ブランドジャパン25年の歴史が誇れる3つのこと。1つ目は、2001年10月の会議で片平秀貴先生・阿久津聡先生・桑原武夫先生、筆者で決めた調査手続きに一切の変更を加えていない継続性である。変更の様々な誘惑を排し、比較可能であることを頑なに守っている。2つ目は、モデルの変更をする必要がなかった先見性である。上述の会議では、調査方法ばかりでなく共分散構造モデルを用い、ブランド価値構造の可視化をパス図によって策定した。毎年計算される適合度GFIは、コロナ禍を含めた24年間、パス図を全く変えずに一度も0.9を下回っていない。共分散構造モデルの応用的研究おける理想を体現している。3つ目は、基礎研究を継続し、査読論文に公刊し続けている社会性・公共性である。統計学は現実からの要請に応えることで進歩する。ブランドジャパンは、四半世紀の運用の中で生じたニーズや疑問を解決し、査読論文として公刊してきた。公開を許してくれた関係諸氏に、この場を借りて感謝申し上げる。本稿では基礎研究の概略を以下に述べる。

「ブランド価値の測定はどれほどの信頼できるのか」「ブランドAとブランドBの指標の差は1.3であるが、これは意味のある差といえるか?」「昨年から指標が1.7上昇したが,単なる偶然変動以上の変化といえるか?」このような質問を顧客の方から受け、ブランド指標の信頼性と信頼区間の計算方法を[1]で示した。ブランド指標は総合指標と「フレンドリー」のような下位指標から構成されている。下位指標は、少なからず総合指標の影響を受け相関が高い。これは総合指標で測定した資本差・体力差を重ねて測定していることを意味している。せめて下位指標は、低認知高評価の評価ができないかと工夫したランキング計算方法が[2]である。アンケート調査は、無作為抽出によって実施することが望ましい。しかしプライバシー尊重の社会意識の影響で、無作為抽出調査は実施が困難になってきている。この問題を解決するために、有意抽出調査からの知見を無作為注抽出からの知見に近づける方法として傾向スコアがある。[3]はブランド指標の計算に傾向スコア重みづけ法を導入する経緯をまとめている。

2000年代最初の10年は、我が国に共分散構造分析が根付いた時期である。論文や報告書にパス図が頻繁に掲載されるようになった。しかし、当時は、パス図を使って共分散の構造だけを分析することが多く、平均構造を分析した応用研究は極めて稀であった。[4]は、平均共分散構造の応用可能性を示し、構成概念であるブランド価値の平均値や標準偏差の経年変化を補足することの重要性を示した。価値が測定されるブランドは、毎年実施される事前の定性的な想起調査で選考される。全てのブランドにエントリーの可能性を開くためである。しかし想起調査は本当に主要なブランドを見出しているのだろうか。[5]は、そのような疑問に応えるために、資源調査でもちいられる捕獲率のアイデアを利用した自由記述調査の飽和率を提案した。大きなブランドは少数なのに対して、小さなブランドは無数にある。このためブランドの分布は左右対称ではなく一般的に正に歪む。これを表現するためには非対称正規分布が適当である。[6]は、従来不可能であった非対称正規分布の平均・分散・歪度を直接パラメタライズすることに成功している。ブランドプロジェクトはアジアに及んだ。中国・インド・インドネシア・日本・マレーシア・ミャンマー・シンガポール・韓国・台湾・タイ・トルコ・ベトナムの12か国で、バックトランスレーションを経たブランドジャパンの調査が実施された。[7]は、国民性やブランド自体が異なる多数の国際調査におけるブランド価値の普遍性・多様性・比較可能性を考察している。pdf形式の論文が、ネットに全て公開されている。興味をもたれた読者の方は原論文を参照していただきたい。

参考文献