ダイバーシティ ソリューション セミナーレポートVol.1
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企業のダイバーシティ(多様性)推進に、いま注目が集まっている。女性、高齢者、障がい者、外国人、家族の介護・看護を行う社員など、幅広い人材の“違い”から生まれる個性を尊重し、その個性=多様性をビジネスに活かしていこうという考え方がダイバーシティだ。2015年9月7日、東京・表参道のアイビーホールで、企業の人事・経営部門を対象とした「ダイバーシティ ソリューション セミナー」(日経BPコンサルティング主催)が開催された。セミナーでは、ダイバーシティに積極的に取り組んできた識者の講演や、ダイバーシティを先進的に推進する企業の事例紹介などが行われた。
特別講演
ダイバーシティ推進企業に贈る5つの言葉
佐々木 常夫 氏
(株)佐々木常夫マネージメント・リサーチ代表取締役(元東レ経営研究所社長)
佐々木 常夫 氏
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最初に登壇したのは、東レ㈱で3人の社長に仕え、数々の破綻会社再建や事業改革を成功させた佐々木常夫氏。自らの体験とそこから得た仕事術などを、ユーモアを交えながら語った。
佐々木氏は、自閉症の長男と入退院を繰り返す妻を支えながら、長年にわたって家事と多忙な仕事を両立させる日々を続けた。その過酷な日々の様子は、数々の著書でもたどることができる。
1972年に誕生した長男は幼稚園、小学校でトラブルを起こすことが多く、中学校に入ってからはいじめで不登校になった。その長男が24歳の頃、佐々木氏は単身赴任で大阪に転勤となったが、毎週金曜には家族のいる東京へ戻り、日曜は長男のアパートに泊まって、月曜朝一番の新幹線で大阪へ帰るという生活を送ったという。
一方の妻は肝臓病を患い、それにうつ病も加わって入退院を繰り返していた。
「仕事があるので家族の看病を24時間することはできない。絶望感を覚えていた」と佐々木氏は当時を振り返る。家族の看病と家事、仕事を両立させ、この苦境を乗り切るには、効率的に時間を生み出さなければならない。そう考えた佐々木氏は、仕事も家事もすべて計画的かつ戦略的に行うことにした。毎朝5時半に起床して家族の食事と弁当を作って出社。18時には退社する。土曜日は病院に詰め、日曜日は1週間分の家事をこなした。
会社では仕事の効率性を徹底するため、会議時間の半減や資料の簡素化を実行し、何ごとも常に先を読む仕事のやり方を導入。いきなり走りだすのではなく、常に最短コースを選ぶことを考えて動いた。「ビジネスは予測のゲーム」だと佐々木氏は語る。計画的・戦略的行動を徹底し、仕事と家事以外は、どうしても必要なものを除いて極力行わないようにした。
「いつかきっと良くなる日がくる」と信じながら、7年にわたってこの生活を続けた。「誰もが仕事と生活の充実を求めているのですが、最大の障害が長時間労働と非効率労働です。仕事の成果は、長い時間働いたことと必ずしも関係しないのです」と佐々木氏は語る。
人の数だけ、さまざまな働き方がある
「障がい者、要介護父母を持つ人など、重荷を背負った人は多い。ちょっと手を差し伸べることで、大きな救いになります」と佐々木氏。さまざまな事情を抱える人がいて、その数だけ、さまざまな働き方があるはず。ダイバーシティを考えるうえで、重要になるのが働き方の多様性だ。そのためにも、仕事のやり方の改革が大切だと佐々木氏は言う。「タイムマネジメントはビジネスパーソンの基本」であると指摘し、仕事の進め方として、計画・重点主義、結果主義、効率性、シンプルさ、整理整頓などの徹底を挙げた。
より良いタイムマネジメントのためには、社員側の働き方に対する決意と覚悟が必要なことはもちろん、「トップの意識と行動が会社を変える。トップがその気にならないとダメ」とも指摘。そのうえで佐々木氏は「ダイバーシティ推進企業に贈る5つの言葉」として、「ダイバーシティとは多様性の受容 社員を活かす」「ダイバーシティとは男女共同参画の思想 全員参加」「女性の活躍推進を」「経営力を高める」「個人として自分のブランドを確立すること」を挙げた。社員一人ひとりの多様性を尊重し、人類の半分である女性の活躍を本気でサポートすることで、企業の力を高めていける。さらに社員の側としても、組織における“自分”というブランドの確立が大切だと述べた。
「多様性を認めることによって、組織を構成するすべての人の力を最大限アウトプットさせ、組織を活性化させる。そのうえで、人権が尊重され尊厳を持って生きることのできる社会、個性と能力を発揮することによる多様性に富んだ活力ある社会が実現できる」と佐々木氏は語った。
特別講演
女性リーダーの育ち方、育て方
太田 彩子 氏
(株)CDG取締役/一般社団法人営業部女子課の会 代表理事
太田 彩子 氏
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続いて登壇したのは、株式会社CDG取締役で、一般社団法人営業部女子課の会の代表理事も務める太田彩子氏。リーダーとして女性を支援している立場から講演を行った。
営業部女子課の会は営業の女性の活躍を応援する団体で、2009年から活動している。「営業の世界はまだまだ男性社会で、女性は2割弱。優秀な成績を収めていても、長時間労働などが原因で、出産を機に辞めてしまう人も多い。その時期を経て働き続けても、リーダーにはなりたがらない女性が多いのが現実です」と太田氏は指摘する。背景にある最大の理由が、仕事と家事・育児の両立が困難であるという実態だ。また周りには依然として男性リーダーが多いため、その環境でリーダーを務めることに違和感を覚える女性も多いという。
では結婚・出産後も働き続け、職場のリーダーとして活躍する女性を増やしていくにはどうしたらいいか。太田氏は、女性の「多様な価値観」と「多様な働き方」を周囲が理解することの重要性を指摘する。女性の場合は結婚・出産をはじめ、生き方が大きく変わるライフイベントが多い。そうしたイベントに応じた価値観と働き方を男性や周囲の人間が理解し、サポートできるかが課題だという。これは女性に限っての問題ではなく、親の介護や家族の看病など、男性にも起こりうる問題だと理解することが重要だと指摘する。
「多様な価値観と働き方を認め合い、理解して女性のリーダーを育てること、また女性をリーダーとして登用したあとにフォローを続けることも重要です」と太田氏。男性中心の社会では「実力もないのに女性だから抜擢された」「女性活躍推進だから、女性がリーダーになった」といった声がささやかれるのも現実だ。逆境に立たされる女性リーダーを組織的にフォローし、かつ上司などの心理的な励ましも必要だと太田氏は言う。
「“働く喜び”と“育てる喜び”を実感することで、社内での新しい挑戦にもつながります。世の中には優秀な女性がたくさんいるので、スモールステップでフォローしていくことが、多様性の実現につながっていきます」と太田氏は結んだ。