連載:統合報告書作成
第1回:統合報告書作成のポイント
統合報告書の目的は「主に中長期の投資家に向けて、自社の価値創造ストーリーを伝えること」です。発行企業が増える中、多種多様なステークホルダーに対して自社ならではの価値創造ストーリーを正しく、説得力をもって伝えるため、押さえておきたい2つのポイントを紹介します。
※出典:KPMGサステナブルバリューサービス・ジャパン(2023)「日本の企業報告に関する調査」
文=斉藤俊明
構成=竹下誠
まずは開示の基礎をきちんと押さえる
統合報告書を作成するうえで、押さえておきたい基準の一つが「国際統合報告フレームワーク」です。価値創造の仕組みを説明する際に用いられるオクトパスモデルも、国際統合報告フレームワークで提唱されたものです。
価値創造の仕組みを説明するのに用いられるオクトパスモデル
国際統合報告フレームワークは、統合報告を行ううえでのグローバルな物差しになります。このフレームワークにのっとった開示を行うことで、投資家は自社と同業他社を共通の基準で比較・検討することが可能になるので、自社ならではの価値創造ストーリーを伝えるためにも効果的に活用できます。中でも内容要素として掲げられた「組織概要と外部環境」「ガバナンス」「ビジネスモデル」「リスクと機会」「戦略と資源配分」「実績」「見通し」「作成と表示の基礎」「一般報告ガイダンス」の8項目について、その示すところを理解し、開示に反映させることが必要です。
また、国内では経済産業省の「価値協創ガイダンス」を参照する企業が増えています。価値協創ガイダンスは、経営理念やビジネスモデルをはじめとして企業が投資家に伝えるべき情報が体系的に整理され、効果的な情報開示や投資家との質の高い対話に向けたフレームワークとして活用できます。同業他社にはない自社ならではの価値創造ストーリーとひも付けて説明するうえでも活用することが可能です。
さらには、外部機関が評価を行う際の審査項目を参照するのも有効です。例えば日経統合報告書アワードの審査基準は、国際統合報告フレームワークや価値協創ガイダンスのポイントを踏まえたうえで、実際に統合報告書のコンテンツとして落とし込む際のポイントが分かりやすく示されているので、作成に際して参考になるはずです。
トップの「思い」を起点に開示情報を整理する
統合報告書には、経営のトップをはじめ、財務担当役員や社外取締役といった様々な役員が自らの言葉で語るメッセージが掲載されます。統合報告書を作成するうえでは、こういったメッセージで語られる内容が、他のコンテンツともしっかり連動していることが重要です。
中でもトップメッセージは、統合報告書全体の核となるものです。トップがどのような思いや熱意を持っているのか、その思いや熱意の下で自社をどのような方向に導こうとしているのか、そして、実際にその経営は実現可能なのか。トップメッセージにはこうした内容がきちんと盛り込まれている必要があります。
日経BPコンサルティング サステナビリティレポート2023 トップメッセージ
その上で、トップメッセージで語られている内容が、統合報告書のその他のページでしっかりと説明されているか。ここが統合報告書の説得力を高め、かつトップが考える経営の実現可能性を証明するポイントとなります。例えばトップが「人財が自社にとっての財産」と語っているなら、その後のページで人財に関するコンテンツが用意されていなければ説得力はありません。コンテンツを構成する際はそうした点も意識することが大切です。
加えて、財務担当役員メッセージではトップメッセージで語られた内容を財務面の施策で実現できることを盛り込む、また社外取締役のメッセージではガバナンスや取締役会の実効性を証明する、といった点が求められるポイントです。
このように、統合報告書に掲載される様々な情報がトップメッセージを起点につながることで、自社の価値創造ストーリーはより強い説得力を持って投資家に届くでしょう。
日経BPコンサルティングでは、企業のサステナビリティ情報開示を一気通貫で支援しています。統合報告書作成についても、グローバルな基準にのっとり、投資家の目線を意識した開示から、分かりやすく読みやすいデザインのご提案までしっかりとサポートさせていただきます。まずはお気軽にお問い合わせください。
オンライン講座「統合報告書作成のポイント」、無料公開中!
弊社コンサルタントが説明するオンライン講座(録画)です。
今すぐ視聴できますのでご希望の方は下記からお申し込みください。
連載:統合報告書作成
- 第1回:統合報告書作成のポイント
- 第2回:初めての統合報告書、どう作る?
サステナビリティ本部 コミュニケーション企画部
竹下 誠(たけした・まこと)
ライフスタイル誌の編集等を経て、2019年6月に日経BPコンサルティング入社。企業広報誌や周年誌、記事広告等の編集に従事した後、サステナビリティ本部に異動。現在は統合報告書作成を中心に顧客企業のサステナビリティ情報開示を支援する。