経営に効く、インターナル広報・エクスターナル広報とは⑤

パーパスと自社の価値を的確に伝えるためのコンテンツ・コミュニケーション

  • 石井 健介

    マーケティング本部 コンサルティング部長 石井 健介

パーパス(存在意義)や理念・カルチャー、サステナビリティへの向き合い方などを社内外に発信する企業が増えている。情報発信の場としてコーポレートサイトをいかに活用し、どのようなコンテンツによって、自社ならではの価値を伝えていけばよいのか。そのプロセスを提示する。

2023年9月6日開催
実践・企業価値向上セミナー
「経営視点で考える、コンテンツ・コミュニケーション
-パーパスメディアと採用サイトのつくり方-」

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文=斉藤俊明
構成=太田未来

差別化のためには、プラスアルファの情報発信を

企業経営、情報発信を取り巻く環境をまずは整理する。

2000年ごろまで、環境は経済活動に付随するものと捉えられ、CSRの文脈で語られていた。それが10年代に入り、環境、社会、経済の3つを相関させることで価値を高め合うCSVの認識が生まれる。さらにコロナ禍前後からはサステナビリティの時代を迎え、環境は経済、社会を支える最重要概念として考えられるようになった。

その中で、企業が情報発信する場として、コーポレートサイトはやはり最も重要なメディアだ。多くの企業がサステナビリティやSDGs、ESG経営といったワードを使って情報発信している。

コーポレートサイトにおける情報発信で伝えるべき内容は大きく分けて7つの要素に整理できると、日経BPコンサルティング デジタル本部 コンサルティング部長の石井健介は指摘する。

その要素とは次の7つだ。

パーパスは本当に浸透しているか?

パーパスを制定し、関連する発信を強化する企業が増えている一方で、「従業員への浸透」に課題を感じている企業も多い。

日本経済新聞社とインターブランドジャパンが共同で実施した「パーパス経営調査」によると、パーパスもしくはそれに相当する企業の哲学が「会社のステークホルダーに伝わっている」と答えた割合は、経営者の88%が「社員に伝わっている」と答えたのに対して、ビジネスパーソンが「社員に伝わっている」と答える割合は65%と、20%以上のギャップがあった。

では、このギャップを埋め、従業員やステークホルダーにパーパスを認知・浸透させていくにはどうすればよいのか。

「コンテンツ・コミュニケーションの力が必要だと考えています」と、石井は話す。

コンテクストを読み、対象に向けたストーリーを描く

日経BPコンサルティングでは、コンテンツ・コミュニケーションを「正しいコンテクストを理解し、読ませるストーリーを構築し、正しい手段で対象者に伝えること」と定義している。

ここでいう“コンテクスト”とは外部環境である政治、経済、社会や技術のことであり、自社の経営理念やパーパス、ステークホルダーのニーズそのものでもある。これらを訴求内容に応じて強弱をつけ、バランスを取って発信することが大事であり、「どれか一つに偏った発信は、受け手の存在を無視したプロダクトアウト型の発信になってしまいかねません」と、石井は補足する。

続いて“読ませるストーリー”とは、ストーリーテリングのことだ。事実のみを伝えるリリース記事や数字だけが並ぶ財務情報からではコンテクストの理解は難しい。あらゆるステークホルダーに向けて情報発信するコーポレートサイトで、パーパスに基づく事業活動やパーパスそのものを伝える際には、「ときに情緒的に、ときに物語性を伴って発信することで、より伝わりやすいコンテンツになります」と、石井は解説する。

広報メディアは、経営理念・中期経営計画を体現する媒体

例として、日経BPコンサルティングが支援する三井住友ファイナンス&リースの取り組みを紹介する。

同社は、理念体系をベースにしたパーパスメディアを、コーポレートサイト内で企画、運営している。「目指す姿(ビジョン)」で定義するビジネスパートナー、SDGs経営、エンパワーメント、デジタルを主要カテゴリーとし、社会課題の解決や実践するSDGs経営の具体的な取り組みについて、従業員やパートナー企業が出演する構成で物語性に富む形で発信している。

制作者には、あらゆる情報のインプットが必要

パーパスメディアを制作し、コンテンツ・コミュニケーションを実践する上でのポイントを、「会社そのものの理念やパーパスを伝えるため、丁寧に時間をかけて作ることが大切です」と、石井はいう。加えて制作担当者やディレクターには、事業・顧客・業界・法令などの知見、経営方針や中期経営計画などの理解、ビジネススキルやコンテンツ制作の専門的スキルも含めた高いスキルセット、常にアンテナを張って情報をインプットし、それをアウトプットしていく積極的な姿勢が求められると指摘し、そうした力を有するパートナーと一緒に臨む意義を語った。

最後に、昨今の人的資本経営のトレンドを踏まえて、「採用サイトのあり方」についても言及する。「従業員のスキル向上への投資が活発になる中、企業が成長する源泉こそが人材であり、採用サイトは求職者に興味を持ってもらい、選んでもらうためのメディアです」と石井。

「コモディティ化する可能性の高い事業やサービスで差別化するのではなく、理念、パーパスといった他社がすぐにはまねできないものや不変の価値観、さらににじみ出るカルチャーなどを、物語性を伴って伝えるのが現在のトレンドです」とヒントを示し、日経BPコンサルティングが企業コミュニケーションに関連して課題を一緒になって深掘りし、ノウハウとスキルを駆使してコンテンツ制作などにも伴走していくと語った。

2023年9月6日開催 実践・企業価値向上セミナー
講演⑥ 経営視点で考える、コンテンツ・コミュニケーション
-パーパスメディアと採用サイトのつくり方-
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連載:「経営に効く、インターナル広報・エクスターナル広報とは」

石井 健介

マーケティング本部 コンサルティング部長
石井 健介(いしい・けんすけ)

シニア通販誌で編集・商品開発を担当後、金融、住宅建築、化粧品など複数業界で編集、マーケティング支援に従事。2016年8月、日経BPコンサルティング入社。