経営に効く、インターナル広報・エクスターナル広報とは②

日本の大動脈を主力事業とするJR東海が広報において重視するポイント

  • 金縄

    マーケティング本部 ビジネスアーキテクト部 金縄 洋右

東京・名古屋・大阪を結ぶ日本の大動脈・東海道新幹線と、東海地区の在来線等を運営する東海旅客鉄道株式会社(JR東海)。同社は公共交通機関という人々の暮らしに不可欠なインフラを運営する企業として、安全性・安定性を世の中に的確に伝えることで、信頼感の醸成や社会貢献のアピールを大切なテーマとしている。また、コロナ禍からの需要回復も大きな課題である。その重要な役割を果たす同社広報の取り組みと、広報活動において意識するポイントを探った。

2023年9月6日開催 実践・企業価値向上セミナー
「JR東海の広報展開」

動画をご覧になりたい方はこちら 文=斉藤俊明
構成=金縄洋右

生活に必須の社会基盤を支える広報活動

JR東海のマーケットエリアは、面積でいえば日本全体の24%だが、人口は61%、GDPでいうと66%が集中している、まさに日本の経済社会の核となる地域である。同社の連結営業収益の8割は鉄道事業を中心とする運輸業で、かつ単体の旅客運輸収入における東海道新幹線の割合は9割を占めており、東海道新幹線が同社の屋台骨となっている。

同社の経営理念は「日本の大動脈と社会基盤の発展に貢献する」。日本の大動脈という観点では、東海道新幹線に加えて、現在建設中のリニア中央新幹線も今後重要なインフラとなっていく。加えて在来線は東海地域に不可欠の社会基盤であり、まさに経営理念に表された考え方そのものをミッションとして事業に臨んでいる。

このミッションをベースにESG経営を進めるのが同社のビジョンであると、専務執行役員で秘書部・監査部・広報部担当の木村中氏は語る。

「鉄道事業や様々なグループ事業で経済的価値を創造し、一方では安全かつ強靭なインフラ、利用しやすい交通インフラの提供、地域の活性化、地球環境保全といった社会的価値を創造して、その双方で好循環を生み出していくというのがESG経営であり、当社にとってのいわばビジョンです。そして広報戦略も、このビジョンにのっとった形で築かれる全社戦略や事業戦略を具現化していくための1つの機能と位置付けられます」

同社の鉄道事業はコロナ禍で人々の往来が途絶え、新しい働き方も導入されたことで甚大な影響を受け、2020、21年度と続けて大きな赤字を計上した。このため「ESG経営の好循環が一時的に寸断される状況に陥りました」と木村氏。とはいえ現在は回復途上にあり、23年度第1四半期は東海道新幹線の輸送量もコロナ前の18年度比で89%まで戻ってきた。

その中で広報としては、企業イメージの向上はもちろん、引き続き安全への取り組みや列車の運行状況を発信することで信頼感を醸成し、一方ではキャンペーンやイベントを通じてビジネスや観光での利用促進により需要拡大を図ることが課題になっている。

主な広報活動は、東京と名古屋で原則月2回、加えて8月と12月には大阪もと、高い頻度で社長会見を開催。その他運行情報やキャンペーンなどのプレスリリースも小まめに打っている。22年度は1年間で329件と、ほぼ毎日リリースを出している状況だ。更にはキャンペーンCMやSNS発信も積極的に展開する。

大切にする“伝える力”と“想像する力”

同社広報としての目下の重大テーマは「安全・安定輸送の確保」「需要拡大」「リニア中央新幹線計画の推進」「地球環境保全への貢献」の4点だと木村氏。中でも、鉄道の原点であり輸送業務の最大の使命である安全・安定輸送については、取り組みを着実に伝えていくことが重要であり、「経営トップのメッセージや毎年の運営方針等によって、常に経営の最優先事項であることを繰り返し発信しています」と強調する。また、運行情報を速やかに伝えていくことも、お客様からの信頼感の醸成という点で大事な活動だと話す。

2点目の需要拡大については、コロナ禍で減ったビジネスシーンでの利用回復を大きなテーマに掲げ、オンラインのコミュニケーションだけでなく出張で現地へ出かけ、コミュニケーションを図ることの意義を想起させる「会いにいこう」キャンペーンをCM展開した。また、新幹線の各号車を貸し切りにする「貸切車両パッケージ」というサービスもスタート。ビジネス向けとしては「のぞみ」にビジネス用車両を用意したこともよく知られる。一方、観光面でも、京都・奈良の定番キャンペーンに加えて「推し旅アップデート」など新たなコンセプトのサービスも打ち出し、需要拡大に取り組んでいる。

リニア中央新幹線に関しては、特設ページやYouTubeチャンネルで計画の概要や技術紹介、工事の進捗状況などの情報を発信しているほか、報道公開や体験乗車、住民参加型イベントも開催し、PRを進めている。また地球環境保全についても、鉄道は他の輸送機関に比べて地球環境への負荷が少ないという環境優位性を積極的にアピールしているところだ。

木村氏は、広報に取り組む上で大切にしていることとして“伝える力”と“想像する力”の2つを挙げる。

「鉄道には専門的な言葉が多いため、分かりやすい表現に変えてメディアや一般の方々に発信し、理解していただくことがカギになります。そのため広報部員には“伝える力”を磨くように意識させています。また、一方的にリリースや宣伝などをするのではなく、“想像する力”で効果をしっかり想像した上で様々なリリースや宣伝などを企画し、かつ認知度の向上や信頼感の醸成につながったかどうかを検証することも大事だと考えています」

この2つの力を発揮しつつ、同社の事業エリアは東京~大阪間という人口稠密地帯であり、発信する情報が取り上げられる機会も多いため、その優位性を最大限生かしていくことが同社の広報には求められていると木村氏は語った。

2023年9月6日開催 実践・企業価値向上セミナー
講演④ JR東海の広報展開
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連載:「経営に効く、インターナル広報・エクスターナル広報とは」

木村 中氏

東海旅客鉄道株式会社
専務執行役員
秘書部・監査部・広報部担当
木村 中氏

1992年4月、東海旅客鉄道㈱ に入社。2019年6月に総合企画本部経営管理部長就任後、2020年6月に同社執行役員総合企画本部副本部長、2022年6月に常務執行役員広報部長を経て、2023年6月より現職。

※肩書きは記事公開時点のものです。

金縄 洋右

マーケティング本部 ビジネスアーキテクト部
金縄 洋右

企業コミュニケーション領域(ブランドコミュニケーション、デジタルコミュニケーション、コンテンツコミュニケーション、サスティナビリティ)の営業、デジタルマーケティング、販促施策などを担当。福岡県福岡市出身。

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