経営に効く、インターナル広報・エクスターナル広報とは④

新たなパーパスを打ち出し、ステークホルダー コミュニケーションを強化する味の素の戦略

  • 金縄

    マーケティング本部 ビジネスアーキテクト部 金縄 洋右

味の素グループはシェアードバリューの創出を目指したASV経営を推進し、このほどパーパスも人・社会・地球のウェルビーイング実現への貢献という形に進化させた。その上で、従業員、生活者・顧客、株主・投資家という3つのステークホルダーへの積極的なコミュニケーションを推進する。グループとしてより大きな価値を生み出すための多彩な施策について、味の素 株式会社執行役常務 サステナビリティ・コミュニケーション担当の森島千佳氏に聞いた。

2023年9月6日開催 実践・企業価値向上セミナー
「味の素グループのASV経営と、パーパス実現に向けた社内外コミュニケーション」

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文=斉藤俊明
構成=金縄洋右

社会価値と経済価値の共創に向けた経営を推進

味の素グループは1909年に「味の素」を発売したところから始まる。その前年に池田菊苗博士がおいしさを追及する中でうま味成分であるグルタミン酸を発見したのが発端だが、うま味を通じて日本人の栄養を改善し、健康に貢献したいとの思いが背後にあった。

この創業の志は「おいしく食べて健康づくり」というメッセージとして脈々と引き継がれ、現在のコーポレートスローガン「Eat Well, Live Well.」にもつながっている。

その味の素グループは、2014年に「Ajinomoto Group Creating Shared Value」、略してASVという価値を打ち出した。「事業を通じて社会課題を解決し、社会価値を創出していく。加えて、事業であるからにはそこでしっかりと儲け、経済価値を出していく。ASVとはこの創業以来一貫した、2つの価値を共創していくという考え方です」と森島氏は語る。

味の素グループはASVを打ち出して以降、「ASV経営」を進めている。2023年にはグループの企業理念を整理。パーパス(志)として従来はアミノ酸の働きで食と健康の課題を解決すると定義していたところ、「アミノサイエンスで人・社会・地球のWell-beingに貢献する」という形に進化させた。そしてこの新たなパーパスをコーポレートスローガンのもとで最上位に置き、その下にパーパスを実現する取り組みであるASV、さらにその下にASVを支えるAGW(Ajinomoto Group Way)という共通の価値観を定めている。

新パーパス実現に向けた具体的なアウトカムとして「環境負荷の50%削減」「10億人の健康寿命を延伸」という2つの数値も掲げる。この2つをつなぐのが「フードシステム」の概念だと森島氏は説明する。

「味の素グループのコアとなる活動はアミノ酸の生産です。アミノ酸はサトウキビやキャッサバといった農作物を原料に発酵法で作っています。加えて健康寿命延伸には栄養改善の取り組みがあり、これは生活者が野菜や肉や魚を手に入れて料理をすることで成立します。つまり、私たちの事業は豊かな地球環境の上に成り立っているわけで、その地球環境を維持あるいは再生していくための環境負荷削減と、そして健康栄養の取り組みはフードシステムでつながっており、切っても切り離せないものなので、2つをセットで考えて推進しています」

全ステークホルダーの視点でコミュニケーションを展開

同社が目指すASV経営のベースには、サステナビリティの取り組みが組み込まれている。ASV経営における社会価値は社会課題の解決により生み出されるもので、今企業が直面している最大の課題といえばやはりサステナビリティだ。そこで同社は2021年度からサステナビリティの体制を整備し、推進を強化している。

グループの企業価値を向上させていくには、まず従業員一人ひとりがパーパスや経営方針を理解・共感するところから始まり、ASVを自分ごと化した上で個々の業務に当たることで、生活者と顧客に対しての価値共創が可能になる。それが株主・投資家に時価総額や経済価値をもたらすことにもつながる。そしてグループの企業価値が上がれば、従業員のさらなるASVの自分ごと化やモチベーションにつながる。この「従業員」「生活者・顧客」「株主・投資家」という3つのステークホルダーの視点で価値向上を同期し、サイクルを回していくと森島氏は話す。

コミュニケーションもこの3つのステークホルダーの視点から推進していると森島氏。まずインターナルコミュニケーションについては社内SNSを活用し、CEOのメッセージや活動の共有、国内の活動の共有、グローバルグループの活動の共有という3つの公式グループで投稿・発信などの社内コミュニケーションがスムーズに行われているという。加えて海外法人や国内グループ会社が社内SNS上でグループを持ち、それぞれ社内広報活動を実践しているとのことだ。

また、「従業員がASVを自分ごと化するため、『理解・納得』、『共感・共鳴』、『実行』、『モニタリング・改善』という4つのステップをASVマネジメントサイクルとして回しています」と森島氏。理解・納得のステップでは経営層との対話、共感・共鳴では組織ごとの個人目標発表会や社内SNSでの事例共有、実行の部分では社会価値創出のプロセスも評価するASVアワード、そして最後のステップではエンゲージメントサーベイを毎年実施していると語る。

一方のエクスターナルコミュニケーションでは、企業軸のコミュニケーションと商品軸のコミュニケーションを連携させながら進めている。商品のブランド価値が企業のブランド価値に貢献し、かつ企業の価値が商品の価値をしっかり支えるという戦略をモデル化し、一体感を持って取り組む。

企業軸のコミュニケーションは全ステークホルダーを視点に入れて活動を展開。まず生活者向けには目指す企業パーセプションと実態とのギャップを埋めるため、新パーパスに沿って人・社会・地球のウェルビーイングに貢献している会社だとのメッセージを積極的に発信している。また、サステナブルな成長に向けて若い世代をターゲットとしたコミュニケーションの展開も推進中である。

「コンテンツを考える際は、具体的アクションやファクトをストーリーとして伝え、共感を得ていくことを重視しています」と森島氏。グローバルの生活者向けコンテンツでは原料のキャッサバ芋を生産する農家の支援や環境の取り組み、学校給食による栄養改善の取り組みを中心に発信している。また、サステナビリティに関する活動もファクトに基づきストーリー仕立てで発信。若手社員が、社長に質問する「Knock Knock社長室」といった親しみを生むコンテンツも自社サイトで公開している。

そのほか、行政・アカデミア向けのサイエンスベースのコミュニケーションや、株主・投資家あるいは評価機関向けのエンゲージメントを意識したコミュニケーションも実施。こうした様々な施策により、グループの活動がより大きなインパクトにつながることを目指している。

2023年9月6日開催 実践・企業価値向上セミナー
講演⑤ 「味の素グループのASV経営と、
パーパス実現に向けた社内外コミュニケーション」
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連載:「経営に効く、インターナル広報・エクスターナル広報とは」

 

森島 千佳氏

味の素株式会社
執行役常務
サステナビリティ・コミュニケーション担当
森島 千佳氏

1986年味の素入社。 調味料や加工食品(スープなど)の商品開発を担当。 その後、ダイレクトマーケティング部長を経て、2015年より執行役員。2021年に執行役(サステナビリティ・コミュニケーション担当)に就任し、2023年4月より現職。

※肩書きは記事公開時点のものです。

金縄 洋右

マーケティング本部 ビジネスアーキテクト部
金縄 洋右

企業コミュニケーション領域(ブランドコミュニケーション、デジタルコミュニケーション、コンテンツコミュニケーション、サスティナビリティ)の営業、デジタルマーケティング、販促施策などを担当。福岡県福岡市出身。

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