経営に効く、インターナル広報・エクスターナル広報とは③

ユーグレナが広報に力点を置いてSDGs達成の端緒となる活動を推進

  • 太田未来

    マーケティング本部 ビジネスアーキテクト部 太田 未来

人と地球のサステナビリティ実現を視野に多彩な事業を展開する株式会社ユーグレナ。栄養豊富な藻類・ユーグレナに着目しつつ、社会のサステナビリティへの取り組みでジャパンSDGsアワードを受賞するなど高く評価される同社は、企業理念に「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」を掲げ、事業展開を加速させている。企業が牽引するSDGs達成に向けた活動において広報が果たす役割の大切さを、同社広報宣伝部長の北見裕介氏が語った。

2023年9月6日開催 実践・企業価値向上セミナー
「企業のSDGs推進において必要な、広報担当のアクション」

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文=斉藤俊明
構成=太田未来

創業の理念に根差して「Sustainability First」を宣言

SDGsの17のゴールを改めて見直し、「この17の目標は同時に達成していかなければならないものですが、もちろんそれはとても難しいこと。どれもが地球規模の課題であり、“誰一人取り残さない”状況を実現するには、誰一人としてサボらないことも同時に必要なのではないか。言い換えるなら、全ての人々が当事者意識をもって大きな変化、イノベーションを社会に実装することに取り組まねばなりません」と語る北見氏。ユーグレナ社に入社してからの4年で、広報担当者はこのイノベーションにしっかり関わり牽引していけることを実感しているという。

ユーグレナ社創業のきっかけは、出雲充社長がバングラデシュで栄養バランスの偏りに起因する健康問題を目の当たりにし、解決を目指す過程で微細藻類・ユーグレナ(和名:ミドリムシ)と出会ったことだ。2005年、ベンチャー企業としてユーグレナ社を設立し、その後に世界で初めてユーグレナの食用屋外大量培養に成功した。

ユーグレナは59種類の豊富な栄養素を持っていることに加え、燃料や肥料・飼料としての活用の可能性など様々な領域での活躍が期待されている。このユーグレナをはじめとした多様なテクノロジーを応用して、同社は健康寿命の延伸を目指すヘルスケア、化石燃料に頼らず気候変動問題の解決に貢献するバイオ燃料、さらには農業分野のイノベーション実装など、サステナビリティを軸に据えた積極的なチャレンジを展開する。創業のきっかけをもたらしたバングラデシュに対しても、売り上げの一部を使い、ユーグレナクッキーとして小学校の給食向けに配布している。

ユーグレナ社は創業15年の2020年、持続可能な社会を実現するため企業理念を「Sustainability First」に変更した。健康食品に化粧品を加えたヘルスケア事業が形になり、さらにはバイオ燃料の供給を開始できるタイミングも迎えたことで、「今こそ、創業時の理念を対外的により強く言える機会がきた」との思いからこの言葉を選んだと北見氏は説明する。

この「Sustainability First」をユーグレナ・フィロソフィー(ありたい姿)とし、企業としての事業成長と社会問題の縮小を両立することを目指している。ロヒンギャ難民への食糧支援や貧困農家の収入増支援といった同社のバングラデシュにおけるソーシャルビジネスの取り組みは高い評価を得て、2021年の第5回ジャパンSDGsアワードでSDGs推進本部長賞(内閣総理大臣賞)も受賞した。

地球を変える企業の可能性を広報のアクションが広げる

多彩な事業を展開する同社だが、北見氏はその中でもバイオマス資源から作られるバイオ燃料を取り上げ、その広報活動について解説する。

今、カーボンニュートラルの実現に貢献するバイオ燃料のプレーヤーとしてユーグレナ社への期待が高まっている。ユーグレナと使用済み食用油をミックスしてバイオマス原料を調達し、バイオ燃料を製造する実証事業を横浜市にある、国際規格ASTM認証を受けた国内唯一のバイオジェット燃料/バイオディーゼル燃料生産プラントを中心に行っている。

バイオジェット燃料は次世代航空機燃料として注目のSAF(Sustainable Aviation Fuel)、そして次世代バイオディーゼル燃料は軽油の代替品として期待されている。同社ではこのバイオ燃料に、サステナビリティへの思いを込めて「サステオ」というブランドネームを付けた。

サステオの導入は川崎鶴見臨港バスや西武バス、都営バス、JR四国バスなどで始まっており、バス事業者以外に工場の消防車や船舶でも採用されるなど、事例は着実に増加している。注目度の高い航空機に関しても導入が進み、日本政府専用機にもSAFとして初めて採用された。

このように同社のバイオ燃料の導入件数は増えてきているが、北見氏はバイオ燃料を技術革新や新しいビジネスとして以上に、サステナブルなエネルギーとしての観点からアピールしたいと考え、広報活動を進めていると話す。

「当社が供給するバイオ燃料を使ってもらえれば全ての問題が解決する、というわけではありません。移動体等への導入実績は累計で84件ありますが、当社の供給量が少なく、まだそのレベルの数しか導入されていないのが現実です。これでは社会は変わりません。100点とはいえないこのタイミングで対外発表していくこと自体には批判もあるでしょう。その中で、広報担当者としてどのような選択肢を取ることがSDGs推進につながっていくのか」

ここで北見氏は冒頭の話に戻る。SDGsの17の目標を全て同時に達成するのは困難な課題だが、何もアクションをしない状態では全く何も変わらないと強調する。

「まだ途上であっても、今はここまでできていると発信することが、次の誰かの勇気に変わるかもしれない。そこからパートナーシップが生まれ、オープンイノベーションの源泉になっていくと考えています。そして、広報担当者はそうした企業の取り組みを発表する役割を担うことで、イノベーションに主体的に関わっていける。100点の発表ができず批判を浴びる可能性もありますが、その批判を受けるときの応答の準備に加え、決意や心意気を広報が持っていることがSDGsの推進には必要ですし、企業が持つ可能性を拡張するのも広報の力です」

バイオ燃料について、現行の車体に給油して走行しても車体の安全性に全く問題がないことは研究的にわかっていて、その燃料を実際に給油する機会でその有用性を感じる人が増えていくと社会も変わっていくとし、その意義をアピールする広報の役割の重要性を改めて強調した。

2023年9月6日開催 実践・企業価値向上セミナー
講演⑦ 企業のSDGs推進において必要な、
広報担当のアクション
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連載:「経営に効く、インターナル広報・エクスターナル広報とは」

北見 裕介氏

株式会社ユーグレナ
広報宣伝部長 兼
キューサイ株式会社
ウェルエイジング戦略企画部 アドバイザー
北見 裕介氏

下着メーカー、化粧品メーカー、IT企業を経て、2019年に株式会社ユーグレナに入社。これまでに情報システム、Web担当、宣伝、EC、広報を経験。ユーグレナ社では、広報宣伝部の部長として、広報全体の企画・実施やオウンドメディア施策の企画策定、商品・素材のPRなどを管轄している。

※肩書きは記事公開時点のものです。

マーケティング本部 ビジネスアーキテクト部
太田 未来

※肩書きは記事公開時点のものです。