新スローガン「夢中になれる明日」の発信が 企業理解を深め、ファンを増やした

  • 大平2023

    ブランドコミュニケーション部 大平 望実

2007年にカネボウからクラシエに変わり、翌2008年に「たいせつなこと。Kracie」をコーポレートスローガンに策定した同社は、順調にトイレタリー・コスメティック、薬品、食品3事業が成長。新たな成長戦略として2017年にはビジョンを「CRAZY KRACIE」とし、2020年には「夢中になれる明日」という新スローガンを打ち出した。テレビCMをはじめとした広告媒体や名刺などで統一したスローガンの発信を始めたことから認知率が上昇し始めた。その経緯と狙いを企画部の北原裕子氏に聞いた。   

2019年に比べてファンが2倍になった

クラシエは2020年1月に「夢中になれる明日」という新スローガンを策定、すべてのテレビCMやYouTubeによる動画広告などの冒頭3秒にジングル(音声・曲)を付けて発信するようになった。

その結果、「企業メッセージ調査」でも「企業名想起率」が2020年の3%から2022年は16.5%に急上昇、「メッセージ認知率」も11.8%から25.2%に上がっている。「五感刺激」でも「ジングル」が平均1.9%の中で9%と明確に効果を物語っている。

同社企画部の北原裕子氏はこう語る。

「当社のトイレタリー・コスメティック商品は20~40代の女性がメインターゲットですが、これまで男性を含めた若い世代では認知率が高まらないという課題がありました。それがジングル付きスローガンをCMなどの冒頭に流すことで認知率が上がってきたように思います。テレビCM量を増やしたのかとよく聞かれるのですが、実際には変わっておらず、強く印象に残る効果があったのではないでしょうか」

同社は現在、トイレタリー・コスメティック、薬品、食品の3事業が柱だ。17ブランドが20年以上のロングセラーで、トイレタリーでは、ヘアケアの「いち髪」や基礎化粧品の「肌美精」、薬品では漢方薬の「葛根湯」「八味地黄丸」、食品ではお菓子の「ねるねるねるね」や「甘栗むいちゃいました」などを展開している。「これまで各商品からクラシエのファンになっていただいても、カテゴリーが違うとクラシエという社名につながらないことが実情でした。しかし、新スローガン導入後は少しずつつながり始めています。自社調査でクラシエのファンだと答えてくれた消費者が2019年に比べて現在は2倍に増えました。好意度の高い人がファンに移行する率も高まっています」と北原氏は語る。

全社員を巻き込んで新スローガンを模索

同社は2007年にカネボウからクラシエに社名変更し、2008年に「たいせつなこと。Kracie」というコーポレートスローガンを策定した。

「スローガンが社員みんなのものになっていてほしいという経営陣の想いがあり、現在のスローガンの継続ということも含めて、経営陣の中で2014年以降、検討を続けてきました。2017年には『CRAZY KRACIE』という新ビジョンを発表し、会社の土台が固まった今、成長に向けて新たに踏み出そうという機運が高まりました」と北原氏は経緯を語る。

2018年から新スローガンに向けて検討プロジェクトが10人で発足。岩倉昌弘社長も1メンバーとして議論に参加した。プロジェクトメンバーで4案に絞り、これらに対してどう思うか、社員へのアンケートを行い、自分たちの未来にふさわしいスローガンはどれか、フリーアンサーなどを参考にしながら経営陣が「夢中になれる明日」に決定した。

岩倉社長はその理由を自社WEBの中で「クラシエの商品が、『夢中になれる明日』へのきっかけとなり、『夢中になれる明日』を生きる人々に役立つ企業でありたいという想いの表明です」と述べている。

2019年3月、まずは、部長以上の会議にて発表した。今回のスローガン変更の主旨をしっかり部下に伝えられるように、理解してもらうことが狙いだった。上長の理解を得た上で、変更の経緯や思いを全社員に通知した。ロゴデザインを決めるときも社員にアンケートを取るなど全社で思いを共有することに腐心した。

名刺や封筒、商品用の紙袋にもロゴを入れ、プレゼンテーション資料のエンドカットにも掲示するなど徹底した。取引先からもスローガン入り黄色の名刺は話題になったと言う。

マスメディアとSNSの併用がカギ

対外的に新スローガンを発表した2020年1月は折悪しくコロナ禍の幕開けであった。議論もあったが、計画通りに進めることになった。ところが商品のテレビCMの冒頭に3秒間ジングル付きでスローガンを流すというアイデアに異を唱えたのは宣伝・マーケティング部隊だった。15秒のCM時間のうち、貴重な3秒を削られてしまうという心配だ。しかし、経営陣はゴーサインを出した。結果的には前述したようにブランド横断で企業に対する理解が高まり、ファンが増えることになった。

2021年からはラジオ広告も開始、番組の中で「夢中」をテーマにタイアップ企画を実施。

マスメディアに併せてSNSも活用し、YouTubeによる動画広告を作成、投稿した。「夢中百歌」というタイトルで、いろいろな人たちの夢中が満載されている。例えば、「スポーツに夢中」「けん玉に夢中」「ギターに夢中」など歌と共に流れる。2020年は一部の出演者を社員から募集、その後2021年は一般生活者、2022年は学生と公募の輪を広げてきた。

「動画を流し始めるとTwitter(現X)にポジティブな意見が投稿され始めました。いきいきした暮らしや未来への希望を感じるといった反響が届いたのです」(北原氏)という。

さらに、さまざまなコンテンツを発表できるプラットフォームであるnoteを使った発信も始めた。暮らしの中の「夢中」をいろいろな角度から切り取った記事である。「どうすればもっと夢中を増やせるか」と著名人への夢中インタビュー、社内のクラブ紹介などがある。「くらしの夢中観測所」を立ち上げ、その観測レポートも掲載している。コンテンツは観測所のメンバーや社内公募のスタッフが作成している。

「noteは地味ですが、以前の記事もずっと読まれていてフォロー者数を増やすことにつながっています」(北原氏)という。

新スローガンとその発信は確実にクラシエのファンを増やしており、「クラシエの商品の好きな理由がスローガンによって分かりやすくなったという声があり、逆に驚かされました」と北原氏が語るように、「夢中になれる明日」というメッセージがクラシエの本質を突き、消費者の腹落ちにつながったようだ。

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企業メッセージ調査2023
 調査結果の一部を掲載したダイジェスト版公開中
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北原 裕子氏

クラシエホールディングス株式会社
経営企画室企画部課長 兼 CRAZY創造部課長
北原 裕子(きたはら・ゆうこ) 氏

クラシエグループのコーポレートブランディング、企業理念体系及び推進策等の企画管理業務を担当。企業理念、スローガンを反映したブランディングをインナーも含め行っている。社会での企業価値の発現を目指し、新規事業プログラム事務局、クラシエオリジナルの生活者研究チーム運営、クラシエ企業ファン理解のための調査及び企業ファンとの共想活動の設計など生活者の“個”から始まるプロジェクトも推進。

※肩書きは記事公開時点のものです。

大平 望実

ブランド本部 ブランドコミュニケーション部
大平 望実

慶應義塾大学院で心理統計を学び、日経BPコンサルティングに入社。各種ブランド調査を担当し、2020年から「企業メッセージ調査」のプロジェクト・マネージャー。2023年から「ブランド・ジャパン」の調査にも携わる。

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