『ブランド・ジャパン2023』発行記念セミナー
シャトレーゼ、ストーリーとこだわりを消費者に広げる広報戦略
2023年4月6日開催
「『ブランド・ジャパン2023』発行記念セミナー」
「カリスマ経営哲学と商品力が生み出す『戦略的ロングテール広報』」より
文=斉藤 俊明
写真=木村 輝
構成=金縄 洋右
経営理念、創業ストーリーを発信する重要性
山梨県甲府市に本社を置き、洋菓子、和菓子からアイス、パン、ワインまで約400種類の多彩な商品を製造・販売するシャトレーゼ。店舗は全国750、アジアを中心とする海外にも160店を展開している。柱となるのはやはり菓子事業だ。
同社はこの10年で売上規模を2倍以上に伸ばし、大きく成長している。それを支えるのは創業者・齊藤寛氏による発想と強力なイニシアティブ、そして自然環境豊かな山梨の地で培われた素材と製法にこだわった商品力であると、広報室長の中島史郎氏は語る。
今でこそ全国的ブランドとなったシャトレーゼだが、2010年代初頭はまだそれほど知られていなかった。その2010年代前半は、同県北杜市にある白州工場の工場見学が広報活動の中心。この工場見学はアイスクリーム食べ放題企画が話題となり、多い年は年間33万人の来訪客を記録した人気のプログラムで、夏季にはテレビなどメディアの取材も多かった。ただ、「安くて美味しい店という認知は上がったものの、本当に伝えたいこと、すなわち素材や製法にこだわっていることはなかなか伝えられないジレンマを持っていました」と中島氏は話す。
最初の転機が、2014年にテレビ東京系列の「カンブリア宮殿」で紹介されたことだ。この番組で齊藤氏が経営理念やものづくりへのこだわりについて語ったことで、ビジネス番組であるにもかかわらずファミリー層にも響き、売上が底上げされた。
株式会社シャトレーゼ
広報室 室長
中島 史郎 氏
「この経験を通して創業者のストーリーを伝える重要性に気づいたうえ、素材を扱う菓子ビジネスにおいて以前から素材にこだわっている当社の優位性を確信しました」と中島氏。これ以降メディアの幅を広げ、こうしたこだわりに対する消費者の理解育成を意識した広報活動に力を入れるようになった。
宣伝広告を使用せず、菓子業界における話題創出のトップリーダーに
そして2度目の転機が訪れる。2017年4月17日、シャトレーゼに関する話題がTwitterでたまたま盛り上がり、1日約13万件のツイートが飛び交って、トレンドワードの1位を獲得。翌日から新規来店客が一気に増えた。
同社は宣伝広告を行わないことで知られ、良いものであれば顧客が口伝てで広げてくれるという方針を創業以来守り続けてきた。「この出来事を機にSNSのパワーを改めて知り、遅まきながらSNSへの取り組みを本格的に始めました」と中島氏。この年に開始したTwitterは現在約60万人のフォロワーを獲得しているが、ファンがインフルエンサーとなって良い効果を広げているうえ、同社でTwitterを担当する販売促進部の一人の社員による真面目なツイートやこまめなコメント返し、リツイート、フォローバックなどが高く評価されている。
契約農園での収穫体験もできる「体感ツアー」は人気コンテンツに
(写真提供:株式会社シャトレーゼ)
「SNSを意識した広報を仕掛けたこの時期に、マスメディアでの露出とSNSによる拡散の想定を超えた相乗効果に気づきました。マスメディアへの登場がそれまでにまいておいた細かい情報のタネを引き出すきっかけを作り、大きなPR効果をもたらします。そのため、当社では日頃から大きな話題とニッチな話題を並行して発信していかなければならないと、改めて認識しました。これを私は戦略的ロングテール広報と呼んでいます。」(中島氏)
同社では、広報のそもそもの目標として「シャトレーゼを菓子業界における話題創出のトップリーダーにする」ことを掲げていた。そこでブランドの幅をより広げていくため、経営理念・企業情報の提供と親しみやすいブランドイメージの醸成を両輪で回し、前出の創業者のストーリーと素材へのこだわりを同時に語っていくことを重視した。
認知度、理解度、共感創出につながるコミュニケーションが広報領域
そして迎えたコロナ禍。この時期は巣ごもり需要もあって新規顧客が増え、業績も順調に伸びたが、同社ではコロナ太り解消のための糖質カット商品をはじめとする健康と安全安心を意識した商品を通した広報活動を展開。同時に、テレビのビジネス番組とバラエティ番組でブランドの幅を広げ、また時代に合わせた新たな試みとしてメディア向けオンライン試食会なども実施した。このオンライン試食会は国内だけでなくシンガポールとも結んで実施したところ、海外メディアから高い評価を得たという。
コロナ禍で健康に配慮した商品の販売やオンラインを活用したコミュニケーション施策が売上増加に奏功した(資料提供:株式会社シャトレーゼ)
また、2021年6月にTBS系列で放映されたバラエティ番組「ジョブチューン アノ職業のヒミツぶっちゃけます!」は大きな反響を呼び、Twitterのトレンドワード1位を再び獲得した。「この番組での何よりの収穫は、企画開発など作り手側の表情を伝えられたこと。同番組以降、顧客の共感を得る仕掛けによるブランドエンゲージメント向上をさらに意識しながら、広報に取り組んでいます」(中島氏)
同社では、顧客の認知度や理解度、そして共感の創出につながるコミュニケーションのすべてを広報の領域と捉えている。基幹商品のリブランディングやネーミングへのこだわりもその一つ。加えて書籍による情報発信も重視しており、出版社の編集部とタッグを組む企画出版に取り組んでいる。
こうした様々な施策を経てシャトレーゼブランドは着実に成長し、2022年に「ブランド・ジャパン」の「一般生活者編」で初ノミネート。1500ブランド中81位となった。そして、2023年版では30位と大きくランクアップした。この結果について中島氏は、広報活動としては話題性創出の部分で「イノベーティブ(革新性)」のスコアに貢献できたとしつつ、「アウトスタンディング(卓越性)」のスコアはやはり独自のビジネスモデルと商品力の訴求に負うところが大きいと述べる。そして、「今後は戦略的ロングテール広報をベースに、顧客の共感を呼ぶ企画を実施し、さらに他のスコアも伸ばすことでブランド強化を図っていきたい」と締めくくった。
連載:2023年4月6日開催 「『ブランド・ジャパン2023』発行記念セミナー」
- 「USJの”No Limit”ブランディングについて」
- 「YKK精神「善の巡環」とサステナビリティ
~ 社員一人ひとりによるブランディングを目指して ~ 」 - 「シャトレーゼ、ストーリーとこだわりを消費者に広げる広報戦略」
- 「ブランド評価のトレンド解説」
株式会社シャトレーゼ
広報室 室長
中島 史郎 氏
東京都出身。大学卒業後、大手メーカーに就職し、広報を担当。5年後、外資系広告代理店に転職。国際営業局で海外の通信会社や航空会社のアカウントプランニング、日系企業のグローバルブランディングを通し、戦略的コミュニケーションを学ぶ。2013年、シャトレーゼに入社し、山梨県へ移住。ブランド戦略室、マーケティング本部を経て、現在は広報およびグループ事業のブランディングを統括し、ブランド価値そして売上の向上に貢献する情報発信に走り回る日々。
※肩書きは記事公開時点のものです。
ブランド本部 ブランドコミュニケーション部
金縄 洋右
日本最大規模のブランド評価調査プロジェクト「ブランド・ジャパン」をはじめ、さまざまなブランドコミュニケーション領域の案件を担当。