『ブランド・ジャパン2023』発行記念セミナー

「総合力」トップのUSJ、社会的価値を見つめ直した企業ブランディングに成果

  • 金縄

    マーケティング本部 ビジネスアーキテクト部 金縄 洋右

「ブランド・ジャパン2023」において、消費者が選ぶ“強いブランド”として一般生活者編の「総合力」ランキング1位となったユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)。ブランド力を構成する4つの要素の中で、とりわけ「イノベーティブ(革新性)」のスコアが突出し、「アウトスタンディング(卓越性)」でも高い評価を受けたことで、前回の19位から大きくジャンプし初の首位に輝いた。このブランド評価をもたらしたマーケティングとコミュニケーションの取り組みに注目した。

2023年4月6日開催
「『ブランド・ジャパン2023』発行記念セミナー」
USJの”No Limit”ブランディングについて」より
文=斉藤 俊明
写真=海老名 進
構成=金縄 洋右

「超元気」の追求でUSJならではの特別な価値を提供

USJは、企業ブランディングを極めて重要なものと位置づけている。同社にとっての企業ブランディングとは「消費者を中心とするステークホルダーに対して、USJの意義、価値、必要性などを心の深いレベルで自分事化させること。“社会的な価値”に共感させること」だと、USJを運営する合同会社ユー・エス・ジェイのマーケティング・コミュニケーション部長、山本歩氏は話す。

USJブランドを作っていくプロセスとしては、まず企業の社会的価値を明確にすることを重視。その上で、コミュニケーションはもちろん、パーク内での体験や、プロダクトにおいても社会的価値を徹底的に実現することで、消費者・ステークホルダーに共感してもらうことを目指しているという。社会的価値の明確化とは、USJがもともと持っている価値を磨き上げることだと山本氏は説明する。

そこで、USJは2019年まで「ブランド・タグライン」として「世界最高をお届けしたい」という言葉を使っていたが、それを2020年から「NO LIMIT!」に変更した。

「2019年までは、どちらかといえば関西にある地方のテーマパークという意識だったため、差別化要素を前面に出さず、まずはクオリティーの高さを伝えることを目指していました。その後、関東でもUSJの存在価値が上がってきたので、USJの本質を打ち出して差別化を明確にすることになり、行き着いたのが『NO LIMIT!』という言葉です」(山本氏)

山本 歩 氏

合同会社ユー・エス・ジェイ マーケティングコミュニケーション部長
山本 歩 氏

それまで使っていた「世界最高をお届けしたい」はUSJがV字回復した頃に決めた言葉で、愛着を持つ社員が多く、経営層やマーケティング以外の部門では変更すること自体が不安視されていた。そこでマーケティング部門としては、対話しながら新しいタグラインを一緒に作っていこうと考え、消費者8000人以上と従業員3500人以上を対象に大規模調査を実施。その結果、USJならではの特別な価値が明確になってきたという。

そのうえで、経営層を巻き込むため、社長・役員にもUSJの価値や将来目指すことを丁寧に説明し、さらに人事や財務も含めた全部署の代表を集めて2日間のワークショップを開催。USJの価値を洗い直し、言語化した。

その結果としてまとめられたのが、「想像を超える超感動・超興奮体験を、クルーと共に能動的に楽しむことで、ココロとカラダが解き放たれ、パークを出た後も続く“日々の前向きなパワーの源”を得られる場所」といった大意を持つ「ブランド・エッセンス」だ。「うつむきがちな日本を元気にしたいという思いで、日々の前向きなパワーを与えることをUSJの社会的価値と規定しました」と山本氏は語る。

さらに、このブランド・エッセンスを一言に集約する作業に着手。従来の「世界最高をお届けしたい」にいくつかの候補を加えて2回の消費者調査を行ったところ、いわゆるコアファンほど「NO LIMIT!」という言葉がUSJの価値を表しているという共感を示したため、最終的に「NO LIMIT!」がブランド・タグラインとして選ばれた。

そしてこの新しいタグラインのもと、競合のTDR(東京ディズニーリゾート)が持つ「スマート」「統一感」「調和」「耽溺」「幸福感」による“夢見心地”ではなく、「ワイルド」「カオス感」「想定外」「発散」「ハチャメチャ感」で“刺激を受けて活性化する”ことこそがUSJの提供価値であると明確化。圧倒的な刺激でリミットのない“超元気”を提供するというメッセージを様々な施策に組み込んでいった。

まずコミュニケーションの面では、新タグライン始動時に俳優の山田孝之さんに依頼し、“自分の殻を破り、解き放つ”という「NO LIMIT!」のイメージを前面に出したCMを制作。折しもコロナ禍が始まったタイミングだったが、大きな反響を得る。2022年からは俳優・菅田将暉さんを採用し、菅田さんを“超元気特区”の特区長としたCMを展開している。そのほか、パーク外でのPRイベントも積極的に実施した。

コミュニケーションだけでなく、パークでの体験においてもこのメッセージを徹底的に取り込んでいった。その一つが、最新のAR技術でゲーム世界に入り込める2021年オープンのアトラクション「スーパー・ニンテンドー・ワールド」であり、客がパレードに入り込んで自らを解放できる2023年春スタートの「NO LIMIT! パレード」、あるいは「ハロウィーン・ホラー・ナイト」など数々のプロダクトだと山本氏。また、来園客が高く評価するクルーの対応や物販・飲食も含め、あらゆる点で「NO LIMIT!」な体験の醸成に取り組んできた。

ちなみにコミュニケーション施策は社内でも展開。自分の役割・ポジションを超えて「NO LIMIT!」に取り組んだ従業員を表彰する「NO LIMIT! AWARD」制度も設立している。 「強いブランドを作っていくには、まず企業の本質を突き詰めること。それは木に竹を接ぐようなことではなく、もともと持っているものを磨き上げていくことが大事です。そして突き詰めた後は、その本質をすべてのタッチポイントで実現していくことが必要です」というのが、山本氏からのメッセージだ。

「ブランド・ジャパン2023」
発行記念セミナー

4.基調講演 :
「USJの"No Limit!"ブランディングについて」
アーカイブ動画公開中

動画はこちらから

連載:2023年4月6日開催 「『ブランド・ジャパン2023』発行記念セミナー」

山本 歩 氏

合同会社ユー・エス・ジェイ
マーケティングコミュニケーション部長
山本 歩 氏

2007年よりユー・エス・ジェイにて、集客、コミュニケーションを中心にマーケティングを手掛ける。
それ以前は、日用品メーカー、証券会社、広告代理店などでマーケティング業務を実施。
近年では、「スーパー・ニンテンドー・ワールド」のローンチに携わる。
また、現在のブランドスローガンである"No Limit!"の開発などをリードした。
企業や商品などのポジショニング開発や、テレビCMやキービジュアルなどのクリエイティブ開発などを特に得意としている。
趣味は、読書、深夜ラジオ。最近読んで面白かったのは、森鴎外の「渋江抽斎」。
ラジオは霜降り明星の「オールナイトニッポン」がお気に入り。

※肩書きは記事公開時点のものです。

金縄 洋右

マーケティング本部 ビジネスアーキテクト部
金縄 洋右

企業コミュニケーション領域(ブランドコミュニケーション、デジタルコミュニケーション、コンテンツコミュニケーション、サスティナビリティ)の営業、デジタルマーケティング、販促施策などを担当。福岡県福岡市出身。

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