『ブランド・ジャパン2023』発行記念セミナー

YKKが社員への経営理念浸透を起点にサステナビリティとブランディング強化を目指す

  • 金縄

    マーケティング本部 ビジネスアーキテクト部 金縄 洋右

YKK株式会社は、創業者が掲げたサステナビリティに通じる理念を社員一人ひとりに浸透させ、かつ社員自ら理念について研究活動を行うことで、ブランド力の強化を目指している。「ブランド・ジャパン2023」では、国内のビジネスパーソンが評価する「ビジネスパーソン編」でノミネート500ブランド中47位と、前年の150位から大きく順位を上げた。YKKがグループ内で実施するブランディングに向けた様々な取り組み、そしてグループ外の社会全体に対して展開する情報発信・コミュニケーションについて、同社広報担当者の言葉から掘り下げた。
2022年4月6日開催
「『ブランド・ジャパン2023』発行記念セミナー」
YKK精神「善の巡環」とサステナビリティ
~ 社員一人ひとりによるブランディングを目指して ~
」より

文=斉藤 俊明
写真=海老名 進
構成=金縄 洋右

YKK精神「善の巡環」と「YKKサステナビリティビジョン2050」

YKKはグループ会社が世界72カ国・地域の106社に広がり、そのうち海外が88社。従業員数も計4万4410人中、海外が2万6710人と、事業の主舞台はグローバルだ。同社の主力事業であるファスナーも、現在は海外生産が8割以上を占めている。

このようにグローバル展開の色が濃いYKKだが、グループ全事業を貫く精神的支柱となっているのは創業者・吉田忠雄氏の思いを表したYKK精神「善の巡環」だ。これは、他人の利益を図らずして自らの繁栄はないという考え方である。加えて、2代目社長の吉田忠裕氏(現・相談役)が創案した経営理念「更なるCORPORATE VALUEを求めて」では「お客様に喜ばれ、社会に評価され、社員が誇りと喜びを持って働ける会社」であることを目指している。

この「善の巡環」及び経営理念を共有し、より実践につなげるために定めたコアバリューがある。「失敗しても成功せよ/信じて任せる」「品質にこだわり続ける」「一点の曇りなき信用」の3つがそうだ。「コアバリューは社員1万5500人のアンケートをもとに、創業者の言葉の中でとくに大切にしたいもの、将来に残していきたいものを選びました」と、経営企画室広報グループの井深緑氏が説明する。そして同社は「善の巡環」「経営理念」「コアバリュー」の3つを社員に浸透させる活動に取り組んでいる。

YKKでは2020年に「YKKサステナビリティビジョン2050」を策定し、SDGsとの紐づけも行った。このサステナビリティビジョンと「善の巡環」に示された創業者の理念がつながると井深氏。「創業者が残した語録を改めて紐解くと、50年以上前から現在のサステナビリティと非常に親和性の高い言葉がたくさんあります」と話し、いくつか挙げた。

同社の根幹である「善の巡環」とともに経営理念とコアバリューを社員に浸透させている。(提供:YKK株式会社)

例えば、「事業とは橋を架けるようなもの」。これは1965年の言葉で、企業は世の中に貢献していかない限り繁栄しないという考えを表したものだ。また1984年の言葉「清らかな湧き水のごときものづくり」はサステナビリティビジョンの気候・資源・水・化学物質、1970年の「大樹より森林の強さを」は人権尊重と公正で安全な労働環境維持の取り組みにそれぞれつながる。それゆえに井深氏は「YKKの理念を社員にしっかりと浸透させることが、サステナビリティの実践につながります」と強調する。

写真:井深 緑 氏

YKK株式会社
経営企画室 広報グループ長
井深 緑 氏

2008年からは理念の浸透に向けた活動を強化。4万人の社員が参加した「4万人社員フォーラム」、少人数で会長・社長を交えて語り合う「車座集会」をはじめ、グループで様々な経営理念浸透活動を継続してきた。さらには同年から経営理念研究会もスタート。グループにおけるYKKの理念の本質を若手社員が研究している。

まず経営理念浸透活動は、現場主導で行うことを重視。国内外の各職場に経営理念浸透チームを結成し、それぞれで活動計画を立て、実行している。一方の経営理念研究会では、時代を超えて受け継ぐ理念、また時代に合わせて進化させる必要のある理念の研究を行っている。そして、経営理念研究会での研究成果を経営理念浸透活動に引き継いでいくというのが、各々の取り組みの位置づけだ。

YKKブランド形成へ、グローバル含めた経営理念の浸透を強化

現時点の成果としては、理念を浸透させるポスターや漫画のショートストーリー、動画コンテンツ、創業者の語録集などを作成し、国内外に配布。それらのツールを各現場で活用しながら、国・地域の文化に合わせた形で浸透活動に取り組んでいる。

経営理念の浸透に力を入れる背景には、グローバル化の進展や事業規模拡大、社員構成の多様化といった状況の変化を受け、理念の浸透が難しくなっている現状があると井深氏。「グローバルに事業展開する中、それぞれの国・地域の様々な文化が共存するからこそ、YKKの考えを社員全員で共有し、社員一人ひとりが継承・実践していく。それがひいてはYKKの企業文化となり、サステナビリティの実践、さらにはYKKのブランド形成につながると考えています」と話す。

一方、サステナビリティの取り組みについては、社外に向けて中身をしっかり伝えていく情報発信、コミュニケーションにも力を入れている。非上場企業ではあるものの他社の統合報告書を参考に統合報告書「This is YKK」を作成・発行。サステナビリティに関するニュースリリースのグローバル配信にも注力する。

新コーポレートロゴとともにリブランディングへ

また同社は2023年3月に開催した経営方針説明会で新しいコーポレートロゴを発表した。従来にも増して、理念に基づく“ONE YKK”を強く打ち出すものだ。ロゴ策定にあたり、社員1万人がYKKの強み・弱みを答えるアンケートを実施。その回答をもとに「もっとサステナブルに、より速く、より高い品質へ。」というメッセージが抽出され、その思いを新たなロゴに込めたという。

「新しいコーポレートロゴのもと、グローバルで一丸となり、YKKのブランディング、リブランディングに取り組んでいきたい」(井深氏)

新しいコーポレートロゴ:3月2日発表

2023年3月2日に発表した新しいコーポレートロゴ(提供:YKK株式会社)

さらにもう一つ、対外的なブランディングの新たな取り組みとして、2023年3月からYKKとしては30年ぶりのテレビCMを開始した。これまで同社はBtoB企業であること、市場の8割が海外であること、さらに非上場であることから、長い間テレビCMを行っていなかった。しかし若い世代の中でYKKの認知度が低下していることが調査から判明したため、今回、Z世代をターゲットにしたCMを制作。「このCMを通じ、社会の皆様にYKKの取り組みをお伝えしたいのはもちろん、社員にも見てもらい、モチベーションにつながればと考えています」と、井深氏は力を込めて語った。

「ブランド・ジャパン2023」
発行記念セミナー

6.特別講演 1 :
「YKK精神「善の巡環」とサステナビリティ
~ 社員一人ひとりによるブランディングを目指して ~ 」
アーカイブ動画公開中

動画はこちらから

連載:2023年4月6日開催 「『ブランド・ジャパン2023』発行記念セミナー」

井深 緑 氏

YKK株式会社
経営企画室・広報グループ長
井深 緑 氏

大学卒業後、都市銀行入行。秘書室に配属、副頭取秘書となる。
2004年YKKに取締役副社長の秘書として入社。05年~07年大学院で経営学を学ぶ(MBA取得)。08年経営企画室広報グループ。09年から現職。

※肩書きは記事公開時点のものです。

金縄 洋右

マーケティング本部 ビジネスアーキテクト部
金縄 洋右

企業コミュニケーション領域(ブランドコミュニケーション、デジタルコミュニケーション、コンテンツコミュニケーション、サスティナビリティ)の営業、デジタルマーケティング、販促施策などを担当。福岡県福岡市出身。

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