ノミネートリストから、時代の変化を追えるブランド・ジャパン
‟世相の鏡”、「ブランド・ジャパン」の新ノミネートブランドから、23年の歴史を紐解く
表1 ■ブランド・ジャパンのそれぞれの年の新規ノミネートブランド(一部抜粋)
年 | ブランド名 |
---|---|
2003 | USJ ユー・エス・ジェイ |
2003 | Japan Net Bank ジャパンネット銀行 |
2003 | eBANK イーバンク銀行 |
2003 | Sony Bank ソニー銀行 |
2003 | vodafone ボーダフォン |
2004 | ゲームキューブ |
2005 | FOMA |
2006 | Google グーグル |
2007 | Skype スカイプ |
2008 | Wii ウィー |
2008 | mixi ミクシィ |
2009 | YouTube ユーチューブ |
2009 | iPhone |
2010 | Oisix おいしっくす |
2010 | |
2011 | |
2011 | 楽天銀行 |
2012 | Android |
2012 | Xperia |
2012 | Galaxy |
2013 | Peach ピーチ・アビエーション |
2013 | Jetstar ジェットスター |
2013 | LINE |
2014 | Eテレ |
2014 | THE NORTH FACE ザ・ノース・フェイス |
2015 | SEVEN&i PREMIUM セブンプレミアム |
2015 | KALDI COFFEE FARM カルディコーヒーファーム |
2015 | Expedia.co.jp エクスペディア |
2016 | CanDo キャンドゥ |
2016 | RIZAP ライザップ |
2016 | |
2017 | ポケモンGO |
2017 | TESLA テスラ |
2017 | 食べログ |
2018 | SmartNews |
2018 | アイサイト |
2018 | mercari メルカリ |
2019 | AbemaTV |
2019 | Hulu フールー |
2019 | DAZN ダゾーン |
2019 | Netflix |
2020 | PayPay |
2020 | TVer ティーバー |
2020 | Amazonプライム |
2021 | ZOOM |
2021 | U-NEXT |
2021 | Uber Eats ウーバーイーツ |
2022 | モデルナ |
2022 | Microsoft Teams |
2022 | PayPay銀行 |
2023 | Google Pixel |
2023 | TikTok |
2023 | Disney+ |
2000年代前半:ネット銀行の参入
日本でも利用者が増えているインターネットバンキング。ブランド・ジャパンで、ネット銀行が最初にノミネートされたのは、2003年だった(表2)。この年、ジャパンネット銀行(現在のPayPay銀行)、イーバンク銀行(現在の楽天銀行)、ソニー銀行などが加わり、現在も多くのネット銀行がノミネートされている。
2000年10月に初のネット銀行として、ジャパンネット銀行が営業を開始。2001年にアイワイバンク銀行(現セブン銀行)が設立され、参入が本格化した。その後、ネット銀行の市場は、10年前から約6倍に拡大しているが、ブランド・ジャパンにまだノミネートのないネット銀行もあり、今後、想起調査であがってくるかどうかが見どころである。
表2 ■ネット銀行の新規ノミネートブランド
年 | ブランド名 |
---|---|
2003 | Japan Net Bank ジャパンネット銀行 |
2003 | eBANK イーバンク銀行 |
2003 | SonyBank ソニー銀行 |
2011 | 楽天銀行 |
2022 | PayPay銀行 |
2010年前後:ガラケーからスマホへの移行
急速にスマートフォン(以下スマホ)の普及が進む中、ブランド・ジャパンでは、2009年にiPhone、2012年にはAndroid、Xperia、Galaxyなどがノミネートされた(表3)。一方で、NTTドコモの3G通信サービス「FOMA」は、2005年に初ノミネート以来、8年連続で想起にあがっていたが、2012年が最後となった。一般生活者の中で、従来のガラケーからスマホに意識が強く向き始めたあらわれだろう。後述する「動画配信」の急成長もスマホ普及の影響を受けている。
スマホが主流になるきっかけの一つは、アップルのiPhoneだが、日本では、2008年にソフトバンクモバイル(当時)が発売。その後、2009年にGoogleのAndroidが搭載されたスマホが発売された。2013年には3大キャリアでiPhoneの販売に対応するようになった。3G通信サービスについては、KDDIが2022年3月末で終了し、ソフトバンクが2024年1月、またNTTドコモも2026年3月末に終了する予定だ。各社スマホへの移行を促している。スマホの登場で人々のライフスタイルは変化を続けている。今後はスマホのアプリなどのノミネートにも注目していきたい。
表3 ■ガラケー、スマホ関連の新規ノミネートブランド
年 | ブランド名 |
---|---|
2005 | FOMA |
2009 | iPhone |
2012 | Android |
2012 | Xperia |
2012 | Galaxy |
2010年代前半:格安航空の台頭
現在、訪日客が戻り始め、インバウンド需要も回復基調にある。台湾の格安航空会社(LCC)のタイガーエア台湾は、台北~旭川、函館間などコロナで運休していた便の運航を再開すると発表した。LCCのブランドがブランド・ジャパンに初めてノミネートされたのは2013年(表4)。そこでノミネートされたPeach、Jetstarは現在まで連続してノミネートされている。空の旅においてLCCのブランドは人々の中で選択肢の1つになっているのだろう。
これらのブランドでは、まずPeachが国内初のLCCとして2012年3月に運航を開始した。Jetstarは同年7月に国内線の運航を開始。その後、路線を拡充してきた。どちらもコロナで経営に打撃を受けたが、ようやく需要が回復している中で、就航から10年が過ぎたLCCの今後の活躍に注目したい。
表4 ■格安航空の新規ノミネートブランド
年 | ブランド名 |
---|---|
2013 | Peach ピーチ・アビエーション |
2013 | Jetstar ジェットスター |
2020年前後:高い注目を集める動画配信
コロナの影響による「巣ごもり需要の拡大」で、動画配信市場は急成長している。ブランド・ジャパンのノミネートには、2019年にAbemaTV、Hulu、DAZN、Netflix、2020年にTVerやAmazonプライム、さらに、2021年にU-NEXTなどが追加された(表5)。ブランド・ジャパン最新版となる2023年にはDisney+が新たに加わる。ノミネートの数をみるだけでも、動画配信が注目されていることがわかるが、ブランド・ジャパンの本調査の結果でも、本領を発揮している。2009年からノミネートされているYouTubeは一般生活者編で2020年から3年連続首位に輝いた。ブランド・ジャパンではこれまで、3年連続で首位となったブランドは存在しなかった。YouTubeがその快挙を成し遂げたことは、YouTubeのブランド戦略の秀逸さとともに、分野としての動画配信が注目され続けていることを物語っているだろう。
動画配信市場の歴史をみると、2005年にYouTubeが、また同時期に日本ではGYAO!の前身がサービスを開始した。スマホの登場前だったため、すぐには市場の広がりがみえなかったが、その後2009年にエイベックス通信放送がBeeTVのサービスを開始。さらに、米大手のHuluやNetflixなどが日本でサービスを開始していった。一方で、GYAO!が今月でサービスを終了したり、U-NEXTとParaviが統合したりと、競争は激化している。ブランド評価でも大きな注目を集めている動画配信の今後の行方を追っていきたい。
表5 ■動画配信の新規ノミネートブランド
年 | ブランド名 |
---|---|
2009 | YouTube ユーチューブ |
2019 | AbemaTV |
2019 | Hulu フールー |
2019 | DAZN ダゾーン |
2019 | Netflix |
2020 | TVer ティーバー |
2020 | Amazonプライム |
2021 | U-NEXT |
2023 | Disney+ |
このように、ブランド・ジャパンでは、一般生活者の記憶を探るような想起調査の結果から、毎年ノミネート候補を決めているため、時代や人々の意識変化を刻々と追うことができる。毎年公開されるブランド・ジャパンのノミネートリストにおいて、どのようなブランドが新たに含まれ、どのようなブランドが消えていくのか、今後も注目していただきたい。
ブランド本部 ブランドコミュニケーション部
大平 望実
慶應義塾大学院で心理統計を学び、日経BPコンサルティングに入社。各種ブランド調査を担当し、2020年から「企業メッセージ調査」のプロジェクト・マネージャー。2023年から「ブランド・ジャパン」の調査にも携わる。
■ブランド・ジャパン
国内の主要な企業やプロダクトなどの1,500のブランドを、6万人以上の一般生活者とビジネス・パーソンが評価する日本最大規模のブランド価値評価プロジェクト。
ブランド・ジャパンでは、公正な立場や客観的な視点から正確な集計・分析を行うために、ブランド理論、マーケティング分析、統計学の世界で活躍している大学教授などを招き、2001年から「ブランド・ジャパン企画委員会」を設置。中立で良質な調査結果を目指し、調査手法や分析について委員会メンバーが協議を重ね、ブランドが持つ価値を見極めるための基準を確立している。
■日経BPコンサルティング
日経BP全額出資の「調査・コンサルティング」「企画・編集」「制作」など、コンサルティング、コンテンツ関連のマーケティング・ソリューション提供企業。(2002年3月1日設立。資本金9,000万円)