コロナ禍のブランド力向上事例に迫る①
ブランド力を急上昇させた“湖池屋流マーケティング”
2022.05.09
ブランディング
(2022年4月6日実施「ブランド・ジャパン2022」発行記念オンラインセミナーより)
文=斉藤 俊明、構成=金縄 洋右
写真=海老名 進
「ロングセラー」から「付加価値型商品」への転換でニーズ拡大に成功
「ブランド・ジャパン2021」の消費者による総合力を示すランキングで110位だったが、「ブランド・ジャパン2022」では14位と評価を大きく上げた。
この躍進の背景にあるのが、リブランディングを支えた湖池屋流マーケティングだ。
「カラムーチョ」「スコーン」「ポリンキー」といったロングセラーブランドをいくつも生み出し、多くのファンを抱えてきた同社では、業界での市場シェアを伸ばそうと2016年から“新生湖池屋”と銘打ち、リブランディングと新たなブランド展開の施策をスタートした。
マーケティング部長の野間和香奈氏は、新たなブランド展開のポイントとして3つの柱を挙げる。
1つ目は「商品の戦略・独自戦略の強化」。100円前後で販売されている一般的なポテトチップスはコモディティー化が進み、10年ほど前から低価格化が進展しているという。これに伴い売り上げの低下が続き、このままでは市場がシュリンクしていくという危機感を同社は感じていた。
消費者に対して商品を訴求し、売り上げを伸ばすアイデアを得るため多様な調査を実施したところ、湖池屋という名前自体の知名度は95%と極めて高いことがわかった。しかし、同時に消費者の多くは同社を“競合のフォロワー”と見ており、同業他社と似たような製品を出し続けていると捉えられていることも判明したという。
マーケティング部 部長・野間 和香奈氏
「この結果を見て、やはり私たちは、もっと別の角度で商品を提供していくことが必要なのではないかと考え、“新生湖池屋”としてチャレンジャーの位置で臨むことを決断した」と野間氏。
従来のポテトチップスは子どものおやつというイメージがどうしても強かったが、大人や女性のスナック菓子としてターゲットを広げ、加えてコモディティー化し安売り対応が進んでいたロングセラーブランドで勝負するのではなく、付加価値型商品によってブランド力を上げていく方向へと転換した。
そして、子どもから大人へのターゲット変更に加えて、消費者との店頭での接触においてアピールするための商品デザイン開発、そして消費者の気持ちを捉える商品づくりに向けたハード開発の3点を強化した。コロナ禍においてはリモートワーク・在宅勤務が増えた関係で、スナック菓子については直接的におなかを満たすという要素以外に「気分転換・ストレス解消」「リラックス」「自分へのご褒美」といったニーズが大きく伸びた。
野間氏は「2021年はこのような行動の変化を捉えながら、お客様の気持ちを大切にし、期待に応えていくことを、商品を通じて体現している。一方で、当社には多様な需要に応えるロングセラーブランドが以前から多くあったものの、それらの商品が会社名と紐づいていなかったため、商品を出しているのは湖池屋であることを周知し、湖池屋が好きだと思ってもらうようにする施策に注力した」と振り返る。
SNSで「顧客とのつながり」強化、ECサイトでおうち需要の取組み
そこで2つ目のポイント、「デジタルでのコミュニケーション強化」だ。2021年は主にTwitterやFacebookといったSNSのツールを使いながら顧客との接触ポイントを増やし、加えていわゆる“おうち需要”に対応するためECサイトも強化してきたという。
まずSNSではファンとの共感を重視し、SNSに寄せられる約500件に上る顧客の声にリプライを実施してコミュニケーションをとり、そこで出てきた声を商品化に迅速に生かしてきた。その他、商品を基軸にした投稿をリツイートするなど環境保全や地方・被災地の支援につながる共創の取り組みも展開している。
一方のECでは、おうち需要を捉える企画として、例えば「出来たての商品が工場から家に直接届く」「いつもは食べられない特別な品種のジャガイモを使った商品が食べられる」といった鮮度・品種にこだわった企画や、酒のおつまみとしての需要も上がっていることから日本酒とのペアリング企画なども実施した。
直近のスナック市場は、コロナ禍における大人の需要増も影響し、3年前と比べて105%、湖池屋に限っては120%と堅調な伸びを示している。しかもスナック市場全体の伸長のうち41%が湖池屋の伸びであり、これらのマーケティングの取り組みの成果が着々と実を結んでいるようだ。
(資料:(株)湖池屋提供)
そして3つ目は、「地域・お客様との共創によるESG経営の強化」。このポイントでは、やはり商品に根付いた企画として、SDGsのさまざまな目標と紐付けた取り組みを展開している。
まずは、全国の自治体が抱える課題の解決につながる企画だ。例えば金沢市では、林業振興・木の文化都市としての保全や、“アートの街”を発信するため市民参加のデザイン投票などを実施した。福岡県・宗像市では、世界文化遺産で「神宿る島」とも呼ばれる同市の沖ノ島と関連遺産群の緩衝地帯で漂着する海洋プラスチックをはじめとした海洋ゴミの海岸清掃活動に協力。香川県の小豆島ではオリーブの認知拡大や観光客誘致に一役買っている。
(資料:(株)湖池屋提供)
最近では「じゃがいも心地」という商品の売上の一部を北海道の森林保全活動に寄付しており、「KOIKEYA The のり塩/The 麹塩」という商品では、紙包材を採用して約20tのプラスチック削減を目指すなど、食を通じたSDGs活動にも力を入れている同社。今後に向けて野間氏は「湖池屋の商品を通してその街を知ってもらう、そして、応援していただくことで地域貢献につなげたい」と力を込めた。
ブランド・ジャパン活用事例
- 1)客観的なブランド価値を測る指標がほしかった
- 2)ブランド力の可視化に役立つ調査「3年で総合力100位以内目指す」
- 3)データドリブンの議論にブランド・ジャパンの調査は必須
- 4)コーポレート・ブランディングの本格的な開始を機にブランド・ジャパンを活用し始める
- 5)自社の存在意義を問い直しリブランディングを図る
株式会社 湖池屋 マーケティング本部
マーケティング部 部長
野間 和香奈(のま・わかな) 氏
マーケティング本部 マーケティング部 部長として、新しい湖池屋の象徴である「THEのり塩」「湖池屋プライドポテト」をはじめ、「じゃがいも心地」、「湖池屋STRONG」など、湖池屋の商品全ブランドの管理を担っている。また、商品企画、TVCM等などのプロモーションだけでなく、「JAPANプライドポテト」で推進するSDGsでつながる地域との取り組みや、SDGsについて学べるアニメーション湖池屋SDGs劇場「サスとテナ」についても中心として活動している。
※肩書きは記事公開時点のものです。