消費者のニーズと行動変化をつかむ

日本マクドナルド 危機の時代を突破するSDGsブランディング

  • サステナビリティ本部 本部長 古塚 浩一

2020年は、新型コロナウイルスの影響により誰もが予想できなかった1年となった。そのなかで社会においては若い世代を中心に、SDGsを起点として環境や社会に配慮した商品・サービスを求める「エシカル消費」も浸透してきた。この時代に日本マクドナルドはSDGsにどう取り組み、発信しているのか。日本マクドナルドホールディングス 取締役執行役員の宮下建治氏に話を伺った。

コロナ禍における消費者のニーズをいかに捉えたか

改めて2020年を振り返り、消費者の意識がどのように変わってきたと感じていますか。また、その変化にどう対応していますか。

宮下  当社ではコロナ禍において、さまざまな社会的変化から消費者のインサイトを分析し、5つのニーズとその対処方法を考えています。

まず1つ目が「安全性」です。感染拡大でお客様の安心・安全に対する心理が強く働いており、当社では店内の感染防止対策に力を入れています。

2つ目が「バリュー」。コロナ禍による経済低迷で家計への不安が生まれ、支出に対するバリュー感が求められています。当社は単に価格が安いだけでなく、お客様に親しみを感じていただけるバリューの提供を心掛けています。

3つ目が「繋がり」です。テレワークの浸透や外出自粛により、家族との繋がりを重視する傾向が出ています。そうしたなか、テレビCMなどで家族の新しいコミュニケーションの形をお伝えしています。

4つ目が「利便性」。デリバリーやモバイル注文、駐車場で商品を受け取れる新サービス「パーク&ゴー」などのサービスを活用し、フランチャイズと協働しながら利便性向上に努めています。

宮下建治氏

日本マクドナルドホールディングス
取締役執行役員
宮下建治氏

最後が「楽しさ」。社会的不安やストレスから、日常のなかで楽しさを満喫したいというニーズが確実に増えています。当社では「マックでどこでもハワイ!!」をはじめ、ユニークなプロモーションを開発しています。

コロナがもたらした消費者ニーズの変化

SDGsを通じて、食と地域への責任を果たす

外食産業は食材や流通、店舗で働くクルーの働きがいなど、SDGsの多くの目標につながっています。SDGsの取り組みをどのような方針で推進していますか。

古塚 浩一

SDGsデザインセンター長
古塚 浩一

宮下  マクドナルドの社会的責任として、「Food」「Communities」「Planet」「People」の4つの柱で取り組みを展開しています。これらは当社のサプライチェーンが世の中に与えるインパクトと、ステークホルダーである従業員やお客様が社会・環境課題について当社に求めるところを精査して決めたものです。この4つをSDGsの目標に照らし合わせ、2番「飢餓をゼロに」、8番「働きがいも 経済成長も」、12番「つくる責任 つかう責任」、13番「気候変動に具体的な対策を」、15番「陸の豊かさも守ろう」、17番「パートナーシップで目標を達成しよう」の6つのマテリアリティを特定しました。

当社のサプライチェーンでは、生産・調達・販売という「経済的価値」を提供するとともに、農業生産者・従業員・お客様の笑顔という「社会的価値」、そして森や海の生態系・生物多様性の保全という「環境的価値」を一緒に運ぶことを目指しています。

社会的責任の柱の1つに「Food」があります。食材や容器調達の具体的な取り組みを教えてください。

宮下  紙製品の容器・包装材に関しては豊かな森の維持を維持するFSC認証、フィレオフィッシュは海洋環境を保護するMSC認証、コーヒー豆は森の生態系や原住民の権利を守りフェアトレードを担保するレインフォレスト・アライアンス認証、油を使う商品については生物多様性や人々の生活に配慮するRSPO認証といったように、さまざまな国際認証を取得し、サステナブルラベルをお客様の目に届くように可能な限りパッケージに付けて販売しています。お客様がそれらの商品を召し上がることで、社会貢献につながる環境づくりを目指していきたいと考えています。

顧客であり重要なステークホルダーである地域への責任を果たすために、SDGsが採択された2015年以前から、病気のお子さんの治療に付き添うために家族が滞在できる施設「ドナルド・マクドナルド・ハウス」を支援するなど、社会課題の解決に積極的に取り組んできた印象があります。SDGsはもともとの企業風土と親和性が高いとお考えでしょうか。

宮下  マクドナルド創業者レイ・クロックは「コミュニティの一員であること」「コミュニティの活動に関心を示すこと」「コミュニティに還元すること」を繰り返し語っていました。コミュニティへの貢献は創業以来大切にしており、SDGsの考え方も企業理念などに脈々と受け継がれています。

「ドナルド・マクドナルド・ハウス」の支援は、1974年に米フィラデルフィアでフランチャイジーが中心となり始まった地域貢献活動です。日本ではその思いを共有しながら、20年前から支援を続けています。コロナ禍の今年も「みんなのスマイルのために」というスローガンの下、医療従事者支援を実施しており、コミュニティに資する活動の幅を広げています。

コロナ禍で宅配やモバイル注文が増えるなか、物流にまつわる問題もクローズアップされています。9月、業種の枠を超えて「脱炭素社会を目指した電動バイクのバッテリーシェアリング推進協議会」を設立されましたが、この取り組みについて教えてください。

宮下 電動バイクは走行時にCO₂を排出せず、アイドリング時も騒音がないことから、環境にも社会にもやさしいモビリティだと考えています。当社ではまず自社のデリバリーで、5月に電動バイクを試験導入しました。

そして9月に関西電力、岩谷産業、読売新聞大阪本社、京都市とのパートナーシップで協議会を設立し、まずはガスの保安業務、新聞配達、京都市の外勤業務、当社のデリバリーで電動バイクを導入しようということで合意しました。2021年春からは、参画企業・団体間でバッテリーのシェアリングを行うことも計画しています。

一方で、12月から昭和電工、川崎市と協働し、プラスチックの資源循環リサイクルシステムの実証実験を開始しました。この取り組みについても教えていただけますか。

宮下 お客様に店舗で食後のゴミを分別していただき、使用済みプラスチックを回収して、昭和電工のケミカルリサイクル技術で低炭素水素に再生。その水素を活用して充電したバイクでお客様に商品をお届けします。これにより、地域でプラスチックの資源リサイクルのループが完成すると考えています。

脱炭素に代表される大きな社会課題では、一企業でできることには限界があり、連携が重要になってきます。こうした連携は今後いっそう推進していく予定でしょうか。

宮下 はい。例えば林野庁が2019年に立ち上げた国産木材を活用する取り組み「ウッド・チェンジ・ネットワーク」に、当社は初期メンバーとして参画し、国産材を店舗に活用しています。国産材を使うことで森が活性化するうえ、木材を産出する地元の経済にも良い影響が期待できます。また当社にとっても、設計から施工までの工期が短縮され、建設コストも下がるため、環境貢献だけでなく経済的メリットも享受できます。

社内外に向けたストーリーづくりもSDGsで

会社のブランド価値を高めていくうえで、SDGsの取り組みに関する情報発信も重要です。日本マクドナルドの原動力の一つである17万人のクルー(アルバイト従業員)や、次代を担う学生への発信はどのように行っていますか。

宮下  クルーについては入社直後、国際認証やサステナブル調達について学んでもらい、環境保全に対する意識とプライドを持って働けるようにしています。一方、昨今の学生はSDGsについて学校で学び、社会・環境課題に接する機会も多いので、同様のコミュニケーションはとても重要だと考えています。最近も学生のみなさんとマクドナルドのSDGsに関する取り組みについて議論し、その成果を店舗に展示しました。

日本マクドナルドは当社の「ブランド・ジャパン2020」で優秀賞を受賞されました。ブランド価値を高めていく上で、消費者に向けたSDGsに関する情報発信はどのように進めていますか。

宮下  お客様には、店舗で使うトレイのマットで国際認証と持続可能な調達についてお伝えしたり、Facebook公式アカウントを通じて取り組みを発信したりしています。こうした対話をすることで、当社の商品と企業姿勢に対するお客様のイメージが大きく変わりつつあると実感しています。

コミュニケーション施策の効果

最後に、今後のSDGsの取り組みについて教えてください。

宮下  最近、当社のSDGsの取り組みに関して高い評価をいただく機会が増えています。もちろん大変ありがたいことですが、同時に、責任がより重大になったと感じています。2900店舗・17万人のクルーを抱える当社が社会に与えるインパクトは非常に大きいので、気を引き締めて経営に取り組まなければなりません。活動をより良くするため、ステークホルダーとの継続的対話も不可欠です。

ポストコロナ時代には、また新たなニーズが生まれてくるでしょう。今後はニーズに応えるのはもちろん、自ら変化をつくっていく立ち位置で、さまざまなパートナーシップを通じてSDGsの取り組みを推進し、ブランド価値の向上にもつなげていきたいと考えています。

今日のお話で、日本マクドナルドのように誰もが知る企業がSDGs達成に向けて取り組み、発信することの大切さを実感しました。また、多様なステークホルダーに向けてマテリアリティを再構築し、ストーリーとして発信することがブランド価値向上につながることも再認識できました。ありがとうございました。

日本マクドナルドホールディングス株式会社
取締役 執行役員
宮下 建治(みやした・けんじ)

1985年慶応義塾大学商学部卒。2007年に日本マクドナルド株式会社に入社し、フィールドオペレーション本部長、コーポレートリレーション本部長を歴任。2015年3月には、日本マクドナルドホールディングス株式会社取締役 執行役員に就任し、現在に至る。一般社団法人 日本ハンバーグ・ハンバーガー協会会長、一般社団法人 日本フードサービス協会理事、公益財団法人 ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパン評議員。

※肩書は記事公開時点のものです。

古塚 浩一

サステナビリティ本部 本部長
古塚 浩一

2018年、日経BPコンサルティング SDGsデザインセンター長に就任。企業がSDGsにどのように取り組むべきかを示した行動指針「SDGコンパス」の5つのステップに沿って、サステナビリティ経営の推進を支援。パーパスの策定やマテリアリティ特定、価値創造ストーリーの策定から、統合報告書やサステナビリティサイト、ブランディング動画等の開示情報をつくるパートまで、一気通貫でアドバイザリーを行うことを強みとしている。2022年1月よりQUICK社とESGアドバイザリー・サービスの共同事業を開始。ESG評価を向上させるサービスにも注力している。

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