成城学園の高校生と慶應義塾大学の大学生によるSDGsネイティブ座談会

「私たちはなぜSDGsに興味を持ち、SDGsにどう向き合っているのか」

  • ブランドコミュニケーション部 コンサルタント 松﨑 祥悟

身の回りだけでなく、遠く離れた途上国の社会課題にも関心を抱く、SDGsネイティブと呼ばれる若い世代が増えている。SNSなどに慣れ親しんだこの世代は、その問題意識を具体的な行動に移し、さらに社会に向けて発信することにも積極的だ。成城学園高等学校3年の日野晴香さんと森谷瑠花さんはまさにこれを実践し、アドビが開催した「Hello! SDGsクリエイティブアイデアコンテスト」に水問題に関する動画作品を応募して、見事に優秀賞を受賞した。この二人と、同校出身で現在は慶應義塾大学3年生としてSDGsを学びながら、日経BPコンサルティングのSDGsデザインセンターでインターンを経験した阿久津真理名さんがSDGsネイティブ世代として、なぜSDGsに興味を持ち、いまSDGsにどう向き合っているのかについて語り合った。 構成=松﨑祥悟/文=斉藤俊明

たまたま見つけたコンテストに応募する行動力

阿久津  「持続可能な水作り」という動画作品での受賞、おめでとうございます。世界の水問題に焦点を当て、渋谷の街で泥水を掲げ「皆さん、これを飲めますか?」とインタビューして回る動画、私も興味深く拝見しました。100人に質問して100人が「飲めない」と答えた水、正直私も飲めないなと思いました。インタビューの結果に対して衝撃を受けて終わるのではなく、そこから発展途上国でも手に入りやすい素材でろ過器を作るという解決策を提案していることに素晴らしさを感じました。

そもそもアドビが開催した「Hello! SDGsクリエイティブアイデアコンテスト」に応募しようと思われたきっかけは何だったのですか。

森谷  たまたまコンテストについての情報を見て、同じクラスの日野さんと一緒に応募しようという話になりました。応募するにあたりテーマを決めなければいけなかったのですが、二人が共通で興味を持っている問題が「水」でした。

高校生という立場でも役に立てることは何だろうと考え、ろ過器作りを思いつき、水問題をテーマに動画を作ろうと決めました。

阿久津  たまたま見つけたのにすぐ発信につなげる行動力、すごいですね。渋谷の街での突撃取材も勇気が必要だったのではないですか。

日野晴香さん

成城学園高等学校3年
日野晴香さん

日野  打ち合わせをしていたお店で、二人で「どうしようか」と話をしていて、それなら街でみんなに聞いてみようと思い、そのあとすぐインタビューしました。動画には入っていませんが、「飲めますか?」と尋ねたあと「SDGs、知っていますか?」という質問もしていたのです。でも思っていたよりも、まだまだSDGsについてみなさん知らなかったですね。今回のことをきっかけに、少しでも多くの人に知ってもらいたいという思いも生まれ、100人への質問につながりました。

SDGsの輪が広がるのを実感

阿久津  優秀賞を取って、友達や家族の反応はどうでしたか。

日野  担任の先生がクラスのサイトに動画を配信し、同級生に紹介してくれました。みんなちゃんと最後まで見てくれました。発信は初めての経験でしたし、「すごかったよ」という反応をたくさんもらえたのがうれしかったです。

森谷  家族には動画の制作中から見せていたのですが、「ここは分かりづらいんじゃない」とアドバイスをくれました。普段は途中経過に対してはあまり意見を言わないので、びっくりしたのを覚えています。みんな少しずつSDGsに興味を持っているのを感じました。

阿久津真理名

日経BPコンサルティング
SDGsデザインセンター
阿久津真理名

阿久津  シナリオを作る前や途中で先生に相談はしたのですか。

日野  シナリオに関しては相談していません。ただ、ろ過器を作りたいということは初めから伝えていたので、理科の先生にろ過の仕組みを教えてもらったり、先生方にはいろいろと協力いただきました。

サステナビリティへのきっかけは生活の中にある

阿久津  私の時代、といっても3年しか違わないのですが、同級生で二人のような活動をしている人はほとんどいなかったと思います。SDGsが出てきたのが2015年で、高校時代はその直後ですから、まだまだ情報もありませんでしたし。

私の場合は高校のときにあるプログラムで、慶應義塾大学でSDGsを研究している蟹江憲史教授を知り、そこからSDGsに関心を持つようになったのですが、二人はどういうきっかけでサステナビリティに出合ったのですか。

森谷瑠花さん

成城学園高等学校3年
森谷瑠花さん

森谷  学校で先輩が作ったSDGsの記事を見て、SDGsのことや、世界には様々な問題があることを知りました。そのあと自分なりに何かできないかと考え、高校2年の夏にボランティアでカンボジアへ行ったとき、現地の人が歯を磨くのにも水道水を使えない状況を見ました。それが世界が抱える社会課題の中でもとくに水問題に関心を持ったきっかけです。

日野  私の場合は小学校の頃に太陽光発電に興味を持ったことが、サステナビリティとの最初の接点です。その興味から海外の電力普及率を見たいと思い、高校1年の夏にマレーシアとシンガポールを訪問するプログラムに参加しました。そのときマレーシアで、いつもは健康なのに胃腸炎になったんです。原因はたぶん水だろうと言われて、水問題や飢餓について深く調べ始めました。

阿久津  私の頃はまだ授業でSDGsや環境問題を学ぶ機会はありませんでした。いまはあるんでしょうか。

日野  SDGsそのものの授業があるわけではありません。ただ、英語の授業のディスカッションで飢餓がテーマになったり、担任の先生が詳しいので放課後に同級生と集まって環境やジェンダーの話をしたり、そういう機会があります。

好感度が高まる企業の取り組み

阿久津  私は大学に入ってから、周囲の人たちが環境問題に興味を持って活動を始めるのを見るようになりました。いま大学の研究会では企業が行っているサステナビリティ活動を分析したり、その活動を改善するにはどうしたらいいかをディスカッションしたりしているのですが、二人はサステナビリティの観点で気になる企業活動はありますか。

日野  企業のことはまだよく分からないところがありますが、お店が紙ストローを使い始めたのを見ると、企業も消費者も環境のことを考えているんだなと思います。あと、両親が働く会社がSDGsに取り組み始めると言い出したと聞いて、企業にとってSDGsに取り組むことが重要なテーマであることを知りました。

阿久津  ネスレ日本が「キットカット」に紙包装を採用したこともニュースになりましたね。

森谷  はい。私は「キットカット」が大好きでよく食べていたのですが、その印象がもっと良くなりました(笑)。

日野  そういえば、高校生がお菓子のプラスチックの過剰包装をやめてほしいという署名を集め、メーカーに届けたニュースを見て、高校生でも意見を伝えることができるんだと気づきました。

森谷  スーパーやコンビニでレジ袋が有料になったことでも、やっぱりどんどん変わっているんだなと実感しました。私もエコバッグを使うようになりました。

阿久津  確かに、出かけるときにエコバッグやマイボトルを忘れると、罪悪感が湧きますよね。

森谷  以前、フードロスについて調べたことがあって、廃棄される食品の約半分が家庭から出るそうです。賞味期限が切れたものを教えてくれる冷蔵庫ができたらいいですね。

日野  フードロスでいえば、飲食店でも食べ物を残す人が多いと聞いて、自分が食べたい量を選べるようになったら少しは変わるのかなと思いました。

地球の課題を自分ごととして考えていく

阿久津  サステナビリティ活動への取り組みは、地球や社会のためになることはもちろん、結局は自分のためにもなると思います。食べ物の期限をしっかり管理できればムダなものを買う必要がなくなり、その分食費が浮きますし。そもそも食べ物を捨てるのは良心が痛みますから、気持ちの面でも自分のためになりますよね。

企業のサステナビリティ活動も、地球の課題を解決するだけではなく、最後は一人ひとりに戻ってくるのだと思います。ところで二人はこれから大学でどんなことを学びたいと考えていますか?

日野  飢餓についてもっと知りたいですし、デザインやグラフィックにも興味があるので、発信するための方法としてグラフィックも学びたい。そして、どうやったらSDGsのような考え方が広まるのだろう、どうやったらみんなが問題意識を持つんだろうということを研究してみたいです。

森谷  私は医療の知識を学び、医療の面から世界の飢餓や水問題を解決していけたらと思います。いまは一般の人でも簡単に発信できるツールが増えてきたので、これからもどんどん発信していきたいですね。

<取材を終えて>

水の問題を自分ごととして捉え、この問題を解決したいという一心で、これだけの作品を創造できた二人の行動力に驚かされました。たったの3年間でサステナビリティに関する活動に積極的な生徒がこれだけ増えていることを考えると、若者間における社会の持続性に対する危機意識は私が想像していた以上に強まっているのかもしれません。

また、3年前の自分を考えると、二人のように発信することはできなかったと思います。それでも、現在は持続可能な社会の実現に貢献できる人材になりたいと思い、活動している自分がいます。これはこの3年の自分自身の成長であると思っています。そして今日は後輩の二人の話を聞いて、その行動力に大きな刺激をもらいました。これからも様々な課題を自分ごととして捉え、SDGsに向き合っていきたいと思います。

※肩書は取材時点のものです。

SDGsデザインセンター
阿久津 真理名(あくつ・まりな)

 

※肩書は記事公開時点のものです。

SDGsデザインセンター コンサルタント
松﨑 祥悟(まつさき・しょうご)

これまでCSRレポートや統合報告書だけでなく、採用ツール、会社案内などの企業が発信すべき情報をステークホルダーに対応した形でお届けするカスタムメディアの制作に従事。紙、映像、Web、リアルイベントなど媒体ごとの特性も生かし、コミュニケーションを通じた企業の価値向上を支援。SDGsデザインセンター、周年事業センターのコンサルタントを歴任。

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