経営トップがコミットするSDGs
「2050年」を見据えた、YOKOGAWAのSDGsを軸とするサステナビリティ戦略
はじめに、YOKOGAWAのサステナビリティ戦略について教えてください。
古川 2050年に向けて実現を目指す三つのサステナビリティ目標「Three goals(三つのゴール)」を策定し、トップのコミットメントとして「サステナビリティ貢献宣言」を発表しています。具体的には「環境(気候変動への対応=Net-zero Emissions)」「社会(すべての人の豊かな生活=Well-being)」「経済(資源循環と効率化=Circular Economy)」です。
当社はBtoB企業なので、消費者との直接的な接点はありません。では世の中にどう貢献していくのかといえば、お客様企業のビジネスを通じた貢献になります。お客様の業種は、石油、ガス、化学、電力、鉄鋼、紙パルプ、薬品、食品、さらには社会インフラまで、ありとあらゆる産業分野に広がっているのが特徴です。その中で当社は、ものづくり現場の生産管理や制御に強みを持つ製品・サービスによってお客様企業の経営効率を上げ、省エネや省資源、CO₂削減、安全向上などを通じて社会に貢献していくというのが基本的な考え方です。
図1 YOKOGAWAサステナビリティ目標 Three goals
Three goalsの目標を、SDGsの目標年次である2030年を飛び越えた2050年に設定したのはなぜでしょうか。
古川 大きく二つあります。一つは、企業理念にある「より豊かな人間社会の実現に貢献する」ことが経営の中で強く意識されており、経営者が未来の世代に責任を持つ企業を目指していたためです。2015年はSDGsとパリ協定が採択され、当社がサステナビリティに本格的に取り組み始めた年でもあります。その時点から見て2030年はわずか15年先の話でした。未来の世代を考えるなら、やはり「2050年」が妥当だと結論を下しました。
もう一つは、パリ協定をきっかけに、石油・化学関連などのお客様が長期目線で経営戦略を見直し始めたことです。関連する現場に納品した当社の主力製品は、30年、40年と長期間稼働します。お客様の戦略が2050年の長期的目標を見据えたものに変化するならば、当社の戦略も対応しなければなりません。それは当社の事業の特徴でもあり、当社はもともと長期的に考える文化が浸透している会社だったとも言えます。
図2 Three goals策定とサステナビリティ中期目標設定のプロセス
自社の社会貢献の根拠としてSDGsを採用
そもそもSDGsに注力したきっかけは何ですか。
古川 社員はサステナビリティをまったく新しいものとは受け止めておらず、むしろ、昔から長期間続けてきた取り組みや、本業そのものがSDGsだ、と捉えています。
私自身がSDGsを知ったのは、2015年9月に国連で採択される2週間ほど前のことでした。グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)の「明日の経営を考える会」という勉強会で、代表理事の有馬利男さんからSDGsが世の中に出てくるという話を聞き、社長に早速その話をしました。そのとき社長はとても真剣な表情で聞いていたのが印象的でした。
なぜ経営層がそこまでSDGsに引き込まれたのでしょう。
古川 やはりSDGsの各ゴールの文章を読み、まさにYOKOGAWAがやっていることそのものだと感じたからでしょう。「7.3」「9.4」「12.2」などSDGsのゴールの下の具体的なターゲットは、YOKOGAWAが本業で目指していることそのもので、SDGsへの貢献が直接、事業の成長と結びついています。パリ協定についても同様で、エネルギーや資源の効率向上はYOKOGAWAの得意分野です。
社会へのインパクトを示す大胆な目標設定が鍵
経営レベルで方針を決めたあと、社員の説得やマテリアリティ(重点課題)決定などに際して多くの企業が苦労しているようです。SDGsの推進にあたって苦労した点や、社内で見えた変化があれば教えてください。
古川 長期目標であるThree goalsの達成に向け、ビジネス面で注力すべき分野を「環境」「社会」「経済」のそれぞれで整理し、2030年に向けた中期目標としてKPIを定めました。この活動は、組織横断のプロジェクトで取り組みました。当社の取り組みがお客様のビジネスを通じて社会に大きく広がっていくという一連のプロセスを「価値創造ストーリー」として整理したのですが、当社側のOutputの数字、例えば売上や出荷台数などをKPIにすると、社会への貢献が見えづらいので、お客様が得られる経済価値であるOutcomeと、社会環境への貢献を表すImpactにKPIを設定しようと決まりました。
図3 YOKOGAWAの価値創造ストーリー
例えば「環境」ではCO₂排出抑制の目標値を10億トンと打ち出しています。同様に、「社会」では安全・健康価値創出額1兆円、「経済」でも資源効率改善額1兆円という目標を設定しています。
社内調整が難しく大胆な数字を出せない企業も多いと思いますが、それでも出せた理由は何でしょうか。
古川 当初は細かな試算を積み重ね、現実的な数値を目標として提案していました。しかし、あえて現実とはギャップのある高い目標を設定すべき、というのが経営層の意見でした。例えば現実的な目標が8000億円だとしても、1兆円という目標を掲げることが、モチベーション向上につながるということです。
未来のことは、どんなに一生懸命計算してもわかりません。長期目標は自分たちの姿勢を示すものとして、意欲的な数字を出した方がよいと思います。
私自身、企業からKPIの数字について相談を受けることがあるのですが、最後は経営層の思い切りが大事だというお話はとても共感します。
SDGsが横の連携を促進する
採用、グローバルサイトなど様々なところで、SDGsをよりどころにYOKOGAWAが発信するメッセージのワンボイス化を推進しています。古川さんご自身、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)が選ぶ2018年度の「Leading Women Award」を受賞するなど、発信していくことで様々な反応があると思います。情報発信についてはどういった方針で取り組んでいますか。
古川 やはり横串を通すことは重要でしょう。人事、広報、CSRなど各部門の横の連携は当社でも課題ですが、SDGsの出現が、横の連携を強化する一つのきっかけになったと思っています。
特に当社の場合は事業そのものがSDGsですから、スタッフ部門も統一された方針で社内外に発信していく必要があります。そのために、例えばブランディングの観点からコーポレートコミュニケーションの部門とサステナビリティに関する表現をすり合わせる機会を持つなどしています。また、投資家向け統合報告書の作成チームにサステナビリティ推進部のメンバーが入ったり、逆にサステナビリティレポートの作成チームにIRのメンバーが入ったりして、連携を強化する仕掛けも行っています。
採用については、環境や社会への貢献を基準に、企業を選ぶ学生が増えているというデータがあります。Three goalsの取り組みを進めて着実に実績を積み重ね、それを上手に訴求することで、社会に貢献する意欲を持つ人材をひきつける企業になりたいと思います。
今後、SDGsの取り組みやブランディングに絡め、サステナビリティ推進部としてはどういうところに注力していきますか。
古川 現在の中期経営計画は2020年度が最終年度です。サステナビリティの目標は、中期計画と連動しているため、まずは現状の目標達成に注力します。そして将来の事業計画には、さらにサステナビリティを組み込んでいきたいと考えています。そのためには関係する部門が連携し、強いチームを作っていくことが大事です。そこにサステナビリティの部門も貢献して、Three goalsの達成に向けて積極的に働きかけていきます。
横河電機 経営管理本部経営管理センター サステナビリティ推進部長
古川 千佳氏 (ふるかわ・ちか)
横河電機入社後、製品開発、マーケティング、リスク管理、経営監査等を経験し、2015年からグループ全体のサステナビリティ推進を担当。2050年に向けたサステナビリティ目標の策定を主導し、グループの中期経営計画にサステナビリティ中期目標を組み込んだ。持続可能な発展のための経済人会議(WBCSD)が主催する2018年Leading Women Awardを受賞。
※肩書きは記事公開時点のものです。
デジタル本部副本部長 兼 SDGsデザインセンター長
古塚 浩一
カスタムメディアのプロデューサー、ディレクターとして主にBtoB領域の企業コミュニケーションを支援。ナショナルジオグラフィック日本版広告賞(三井物産)、日経電子版広告賞BtoBタイアップ広告部門賞(三菱商事)等受賞。
SDGsデザインセンター コンサルタント
松﨑 祥悟(まつさき・しょうご)
これまでCSRレポートや統合報告書だけでなく、採用ツール、会社案内などの企業が発信すべき情報をステークホルダーに対応した形でお届けするカスタムメディアの制作に従事。紙、映像、Web、リアルイベントなど媒体ごとの特性も生かし、コミュニケーションを通じた企業の価値向上を支援。SDGsデザインセンター、周年事業センターのコンサルタントを歴任。