地域に根ざしたSDGsで世界的評価が高まる岡山大学

2019.08.23

大学広報

  • 吉田健一

    大学ブランド・デザインセンター長 吉田 健一

地域に根ざしたSDGsで世界的評価が高まる岡山大学

地球規模で取り組む持続可能な開発目標であるSDGs(Sustainable Development Goals)に対して積極的な取り組みが進められている中、「第1回ジャパンSDGsアワード」のSDGsパートナーシップ賞(特別賞)を国立大学法人として唯一受賞した岡山大学。2017年4月の学長就任以来、SDGsを推進している槇野博史学長に、大学としてSDGsに取り組むことの意義や思いを語ってもらいました。

聞き手=大学ブランド・デザインセンター長 吉田 健一/文=牛島 美笛

SDGsについては民間企業の取り組みが目立っていますが、岡山大学がSDGsを推進してきたのはなぜでしょうか。

槇野博史氏

国立大学法人 岡山大学学長
槇野 博史氏

槇野 2019年に創立70周年を迎えた岡山大学は、「高度な知の創成と的確な知の継承」という理念と、「人類社会の持続的進化のための新たなパラダイム構築」という目的のもとで研究や教育に取り組んできました。当時はSDGsという言葉こそなかったものの、これらはまさにSDGsの考え方そのもので、古くからSDGsを提唱してきた大学なのです。

SDGsという世界共通の目標を実現するための17のゴールと169のターゲットについても、11学部、8研究科、3研究所、大学病院そして附属学校園を有する総合大学として必ずリンクする部分があります。新たな知を創造し、人材育成を担うという大学の役割から見れば、SDGs達成に貢献することは必然とも言えるでしょう。

2017年の学長就任に際して、岡山大学のビジョンを考えていたときにそのことに気付き、長年にわたって築き上げてきたものを継承しつつ、新たな目標としてSDGsを掲げることにしました。SDGsという言葉だけでは分かりにくいかもしれませんが、「今ある姿」と「目指す未来」をつなぐ「架け橋」となるのが私たちの目指すSDGsだと考えてもらえると良いかと思います。

岡山大学がSDGsを推進する上で目指していること、そのために実施していることを教えてください。

槇野 Sustainability(持続性)とWell-being(幸福)を追究する岡山大学として目指すのは、SDGsを共通言語として、研究・教育・社会貢献により課題解決に貢献することです。「SDGsに関する岡山大学の行動指針」をまとめた上で、研究・教育・社会貢献の目標をリデザインし、確実に実行するための体制を整えました。

研究と人材育成については、スーパーグローバル大学、研究大学強化促進事業選定機関、革新的医療技術創出拠点実施機関でもあるという強みを生かし、「社会のための科学」をさらに先導していきます。それにより世界の優秀な人材が岡山大学に集まり、共に社会課題の解決に取り組み、社会に発信し、イノベーションを起こすような大学になることが長期的な目標です。

SDGsにおいて大きなポイントになるのが社会実装の部分ですが、岡山大学では環境、教育・健康、科学技術とイノベーション、社会という4つの領域に分けて目標達成に向けて取り組んできました。2018年度には、その成果をSDGsの達成に向けた230例の取組事例集としてまとめています。代表的なものを一つご紹介すると、本学の資源植物科学研究所で開発した大麦品種を使い、東日本大震災で津波被害に遭った土地で大麦を育てるプロジェクトがあります。そうして育てられた大麦は岡山のクラフトビールメーカーでビールとなり発売されています。

岡山大学SDGsの目指すもの

さまざまな活動において地域との連携が目立ちます。地域連携を円滑に進める上でのポイントはどこにあると考えていますか。

槇野 岡山は東京や大阪のような大きな産業はありません。しかし、日本最古の庶民の為の学校の閑谷学校が行ってきた実践人教育をはじめ、大原奨農会農業研究所や倉敷労働科学研究所など、人や産業を育てる土壌があり、古くから「社会課題解決の遺伝子」が息づいていました。そもそも岡山大学とは、旧陸軍の跡地であったこの土地を第六高等学校の教員や学生達が大学設立の為に確保し、地元の人たちがお金を集めて作られた大学でした。

また、戦後GHQの指示によりミシガン大学が日本研究センターの分室を設置したのは、岡山が日本文化揺籃の地(物事が発展する初期を過ごした土地)であり、農村、漁村、山村が近く典型的日本の生活を知るのに最適な場所であったからという歴史的背景があります。

岡山大学が中心となって教育、産業、医療を地域と一体に進めてこられたのは、そういった文化的歴史的背景があることに加えて、岡山県の先人たちが岡山大学のために尽力してくれたからです。ですから私たちは、恩をくれた人に返すだけの「恩返し」ではなく、その周囲や次世代にも伝えていく「恩送り」と表現しています。岡山を「実りある学都」とし、研究や人材育成によって地方創生につなげるのが私たちの「恩送り」なのです。

SDGsの取り組みは学生への教育にどのような影響を与えるでしょうか。

槇野 2019年度からは、岡山大学の学生にはSDGsのことを学んでもらおうと、新入生全員に対して「SDGsの歩き方」というガイダンス授業を実施しています。また、卒業生の起業家の寄付により、アントレプレナーシップ(起業家精神)とイントラプレナーシップ(改革者精神)を学ぶ寄付講座(SiEEDプログラム)も立ち上げています。

社会課題を解決するための実践型の社会教育ということで、多彩なプログラムも用意しています。例えば、漁協による海上学習で瀬戸内の環境を学ぶプログラムや、林野庁や岡山県、新見市、NPOの指導による環境保全型森林ボランティアなど、教育プログラムは多岐にわたり、留学生とともに日本を学ぶ国際的な取り組みもあります。ここ数年は、世界ユースサミットに岡山大学の学生が日本代表として毎年参加していますが、それだけしっかりした学生が多いということで、大学としても大変誇らしく思っています。

さらに最近では、スーパーグローバルハイスクール(SGH)に指定されている高校からも要請があり、本学の教員が高校生に向けてSDGsを教える出張授業を行うなど、高大連携の取り組みに発展しています。

国連やユネスコなど、世界から岡山大学が高い評価を得ている理由はなぜだと思われますか。

吉田健一

大学ブランド・デザインセンター長
吉田 健一

槇野 土台となっているのは、2005年に岡山市がRCE「 ESD(持続可能な開発のための教育)に関する地域の拠点」の一つに選ばれたことです。これは世界で最初に認定された7つの拠点の一つです。その2年後には、岡山大学がアジアで初めてESDのユネスコチェアに選ばれています。以来、「岡山ESDプロジェクト」を主導し、地域全体でESDを推進する体制を整えてきました。公民館との連携によるまちづくりなど、コミュニティに根差したESD実践は岡山モデルとして世界から高く評価され、2016年秋にユネスコ/日本ESD賞を受賞しています。現在は、ESDとGCED(グローバル市民教育)を連携したSDGs教育モデルを学校、地域、企業で開発・展開・検証しています。

2017年の学長就任時には「SDGsの達成に向けたRCE第一回世界会議」、2018年はアジア地域ESDワークショップやESD教師教育アジア太平洋会議を開催。2019年11月にはESD教師教育世界大会を開催し、ESD教師教育のグローバルフレームワークを世界に発信します。一歩一歩世界とのネットワークを築いているところです。

学内の教員、職員、学生の意識改革をどのように進めてきたのでしょうか。

槇野 私は、京都の三千院で教えていただいた、穏やかさと思いやりを意味する「和顔愛語(わげんあいご)」という言葉を座右の銘としてきました。組織作りにおいては「和顔愛語」を合い言葉にリーダーシップを取り、メンバーの強みと自主性を伸ばしながら、笑顔で何でも語り合い、より高い目標に向かって進む岡山大学であろうとしています。

しかし、ここまでやってきて気付いたのは、若い人ほど反応が早いということです。学生・大学生・留学生が自主的に活動できる「岡山大学SDGsアンバサダー」任命制度を新たに設置したところ大変反応が良く、今までにない視点からの提案があるなど、彼らの行動力と意欲の高さには驚かされています。

私たちの世代とは異なり、若い世代にとって環境問題や社会課題は大変重要な自分自身の問題で、彼らは当事者として危機感を持っていますから、熱心さが違うのです。彼らが積極的に取り組むことで、これからのSDGsは確実に変わっていくと確信しました。私たちは、そういう若い人たちに魅力を感じてもらえる大学であり続けなければいけません。

次世代に向けて、岡山大学が目指しているものを教えてください。

槇野 従来の大学は「知の府」としての役割が中心でしたが、これからはその知をどう生かし、社会に役立てられるかが問われます。先端だといわれる知識や技術もすぐに古くなってしまう時代、私たちに課せられていることは知識や技術を教えることだけではありません。未来につながるような考え方を教え、そこから実践できることが大切で、そのような人材を育成することが持続可能な未来の実現につながると信じています。

大学ブランド・デザインセンター長
吉田 健一

慶應義塾大学経済学部卒業後、IT企業を経て、日経BP社に入社。日経BPコンサルティングに出向し、2001年より始まった日本最大のブランド価値評価調査「ブランド・ジャパン」ではプロジェクト初期から携わり、2004年からプロジェクト・マネージャー。2014年から現職。

企業や大学のブランディングに関わる調査、コンサルティング業務に従事する傍ら、各種メディアへの記事執筆、セミナー講師などを務める。著書に「リアル企業ブランド論」(弊社刊)がある。

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