全学をあげて広報活動に力を結集 明治大学が見据えるブランド認知戦略
明治大学
当社が毎年実施している「大学ブランド・イメージ調査」によれば、明治大学の大学ブランド力は、直近5年間で右肩上がりに上昇しています。こうしたイメージ向上の背景には、広報活動が奏功していると思われますが、明治大学が主軸とする広報活動はどのようなものですか。その方針の狙いと合わせてお聞かせください。
黒澤 明治大学では2024年に紙媒体の広報誌「明治」の発行を終了し、現在はウェブを中心とした広報活動を展開しています。明治大学のコーポレートサイトに加えて、オウンドメディアでの情報発信に力を入れています。その代表格となるのが卒業生を含めた明治大学に関連する学生や教員の活躍などを中心に、インタビューやトピックス記事を展開する「Meiji NOW」、主に研究活動の情報発信に重きを置いた「Meiji.net」です。
ウェブを中心とした広報活動に軸足を移した理由は、情報発信の迅速性に優れているからです。かつアクセスデータを分析することで、どこからどのような流れを経て情報にたどり着いているのか、どのコンテンツに注目が集まっているのかなどを把握することができます。紙媒体には紙媒体の良さもありますが、ウェブを中心とした広報活動を展開することで、より戦略的な対策がとりやすいと考えています。
明治大学認知者における直近5年間の大学ブランド力の上昇推移
大学の広報活動として、伝えることに注力している情報はどのようなものですか。
黒澤 明治大学は一般的な知名度はあり、「就職に強い」というイメージも定着しています。ただ、大学での研究活動や教育の具体的な内容に関しては、認知が高まっていないことが課題だと感じています。大学での研究活動を社会に還元して社会貢献していくという学長の方針もあり、これまでもこれからも研究活動の発信には力を入れていきたいと考えています。
一例を挙げると、総合数理学部の宮下芳明教授は電気刺激で減塩食の塩味を強める「エレキソルト」をキリンホールディングスとの共同研究で開発するなど、味覚メディア技術の研究にまい進し、イグ・ノーベル賞(栄養学)などを受賞しています。こうした企業との共同研究の場合、共同でプレスリリースを配信するなど、企業との連携を強くすることで、より広報効果が高まるように工夫しています。情報をさらにお知らせするときには、興味の深掘りを促してサイト内の回遊率を上げるように、関連情報のリンクも充実させています。
その他にも面白い研究成果や社会実装された功績はいくつもあるので、より多くのステークホルダーに知ってもらいたいですし、受験生の進学にあたっての大学選び・学部選びの参考にしてほしいと願っています。
複数のキャンパスを持つ総合大学で、すべての学部の情報をバランス良く発信していくには、全学的な連携で広報活動を支援する体制が必要になると思われます。貴学ならではの工夫をお聞かせください。
黒澤 明治大学では、15年以上前から全学で広報活動を支援しようという動きがありました。今では「プロモーションリーダー」という制度を設け、各部署の職員から広報業務に携わる担当者を選出しています。2025年度からは、選出するプロモーションリーダーを各部署から2人に増員したので、総勢約124人体制の一大組織です。定期的に「広報業務説明会」を開催して、年度の広報活動方針や、最新のトピックなどの情報を共有することで、プロモーションリーダーを介して、全学が一体となって「前へ」の姿勢で広報活動を展開できる環境をつくり上げています。
日頃からプロモーションリーダーを通じて各部署が連携し合っているからこそ、社会的に注目されている事柄の内容、そこに関連する研究をしている先生の存在など、時世に合わせた訴求力の高い情報をすばやく情報提供できると自負しています。
明治大学 副学長(社会連携担当/広報担当)
黒澤 睦
ターゲットとする読者によって、コンテンツの見せ方や伝え方を変えるなどの工夫もされていますか。
黒澤 コーポレートサイトでは、大学の概要を知るための整理された情報を伝え、プロモーションサイトでは、学問分野の面白さを伝えて興味・関心を持ってもらうというように、大学のコーポレートサイトとプロモーションサイトを意識したオウンドメディアで役割を分担させています。
例えば、大学公式ホームページ(コーポレートサイト)では各学部の基本となる情報を掲載しているのに対して、MeijiNOW(プロモーションサイト)では、学生のさまざまな体験の生の声を紹介することで、より具体的に各学部での学びや、学生生活をイメージしてもらえるようにしています。
高校生に向けては「受験生のための学部選択ガイド」という視点から学部紹介をまとめた「Step into Meiji University」などのコンテンツも用意しています。高校生のうちから、自分が学びたい分野の方向性を明確に決められる人は多くありません。学部ごとの特徴や学びの内容を分かりやすく紹介することで、自分の興味・関心の矛先を見つけるサポートができればと考えています。
https://www.meiji.ac.jp/stepinto/
工夫をこらしたコンテンツを見てもらうために、心掛けていることは何ですか。
黒澤 記事の信頼性や有用性を高めると同時に、多くの人に興味を持ってもらいやすいように、記事の切り口も工夫しています。
一例を挙げると、2024年にNHKで放送されたドラマ「虎に翼」では、主人公のモデルが明治大学の卒業生であるなど、ドラマの主軸に明治大学が大きく関わっています。さらに法学部の村上一博教授が法律考証として作品に協力したという縁もあり、「虎に翼」の放映期間には関連コンテンツを充実させました。特にドラマの内容を振り返るとともに、ドラマの裏側や当時の時代背景を解説する連載コラム「『虎に翼』今週の解説」は多くの人の関心を集め、プロモーションサイトへのアクセス数が大きく伸びました。
https://meijinow.jp/article/toratubasa
ウェブの閲覧数を上げる施策として、X(旧Twitter)、Instagram、TikTokなどのSNSを活用する他、高校生向けのアプリと連携するなど、さまざまな情報へと誘導する紐付けを丁寧に行っています。SNSは情報の伝達スピードが早く、拡散力はありますが、伝えられる情報量は限られています。まずコーポレートサイトに情報を載せ、その情報のリンクを紹介する形で各種SNSに発信することで、情報の信頼性と迅速性の両方を確保しています。
海外に向けた情報発信として、多言語対応も進めています。現在、大学のコーポレートサイトは英語、中国語、韓国語の3カ国語、その他のサイトは英語の対応を進めています。海外の学生、特に明治大学に興味・関心のある留学生に大学の概要を正しく理解してほしいですし、海外で学会発表をする教員にとっては、国外のステークホルダーに研究活動の背景が伝わることが重要事項です。
最後に、これからの明治大学の広報活動について、お聞かせください。
黒澤 大学には教育と研究、さらに社会貢献といった大切な使命があるので、それぞれの中身を充実させることが最も重要です。だからこそ、教育や研究の内容を正しく広く伝わるように尽力することが、大学広報の本質だと考えています。
そうした視点から考えると、明治大学を選んで入学してくれた学生の存在は、とても重要な意味を持っています。現役の学生はもちろん、卒業生からの生の声は、明治大学を知る大きな手がかりであり、「顔の見える情報」として注目されます。中長期的には、学生の大学に対する満足度を高めることが、最大の広報活動になるでしょう。
大学としては、教育現場を活性化する意味で地方からの入学者をもっと募りたいという思いもあるので、今後は地方に重点をおいた広報活動を積極的に進めていくことを検討しています。
全学をあげて広報活動をバックアップする体制が構築されている明治大学。高校生や卒業生、さらに国外も視野に入れた幅広いステークホルダーに向けて、大学の強みや魅力をしっかりと訴求していく。そうした課題を持つ大学広報を考える上で、一つの理想像を映し出していました。
ブランド本部 ブランドクリエイティブ部 兼 大学ブランド・デザインセンター
市本 祐喜子
2000年に日経BP企画(現・日経BPコンサルティング)に入社して以来、大学および企業関連の広報誌、書籍・絵本、社史・周年誌などの企画提案、編集制作に携わる。主な実績は、会社図鑑シリーズ「証券会社図鑑」「航空会社図鑑」「通信会社図鑑」、西武ホールディングス社史「Seibu Holdings 10th Anniversary Book」など。
※肩書きは記事公開時点のものです。