EcoVadisに聞く②
日本企業に必要なサプライチェーンのサステナビリティリスク管理とは
動画版インタビューをご覧になりたい方はこちら 聞き手・文=戸井田 むつみ、西尾 理紗
世界ではサステナビリティに対し次々と新たな動きが起きています。EcoVadisは今年、韓国の大韓貿易投資振興公社(KOTRA)と韓国生産性本部(KPC)と基本合意書(MOU)を締結しました。政府機関とパートナーシップを結ぶというのは大きな動きだと思いますが、今後Ecovadisと韓国政府間でどのように協力していく予定ですか。
ボーン これは、韓国の2つの重要な政府機関とEcoVadisとの 新たなパートナーシップです。目的は、EcoVadisの情報プラットフォームやサステナビリティ評価を通じて韓国のユーザー・エクスペリエンスを向上させることと、バイヤーやサプライヤー企業間の交流を持つことで、韓国企業の競争力を向上させることです。パートナーシップを通して、中小企業を中心にEcoVadisへの理解や、既に順守されているガイドラインとEcoVadisの類似性の浸透、更には経営者同士の交流の場を提供していきます。
韓国では現在、サプライチェーン・デューデリジェンスに関する議論が行われています。企業と国が一堂に会し、情報の透明化やリスク分析、取り組み管理について話し合うことは非常に重要で、アジア、日本の企業にとっても大きな動きとなると思います。
他の国でもEcoVadisが政府機関と連携するという話はあるのでしょうか。
ボーン 実際に政府機関とパートナーシップを結んだのは、私が知る限り韓国の事例が初めてです。EcoVadisとの議論を希望する政府機関が他にもあることは認識していますし、もちろん、私たちは世界各国の政府機関と連携していきたいと考えています。
こうした活動はESGに対する認識や理解を高め、企業にも役立つと考えています。ESGへの取り組み促進には、リーダーシップが重要であり、どの課題について報告や議論が必要かを理解するには、各機関が協力する必要があります。
日本企業のサプライチェーン管理の現状をどう見ていますか。
EcoVadis 日本・アジア太平洋地域
シニア・バイスプレジデント
リチャード・ボーン(Richard Bourne)氏
ボーン この15年間で、各国、各地域におけるESG対応は様々に変化しており、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)や企業サステナビリティデューデリジェンスに関する指令(CSDDD)もその一部です。それ以前からも、サプライチェーンに関する議論や調査は行われており、可視化、リスク管理、イノベーションが必須であるということが指摘されています。日本やアジアの方々と話している中でもサプライチェーン管理が重要であるという認識が波及していると感じます。
日本では、ESG対応が急速に成熟しています。EcoVadisが発行している「ネットワークインパクトレポート」においても、過去5年間で日本はサプライチェーン管理評価を受ける企業数が急速に増えているという結果が分かりました。
EcoVadisはここ数年、一部の企業とはバイヤー企業として組み活動しています。今後、欧州連合(EU)規制に準拠するだけではなく、更に踏み込んだ活動を行う企業が増えていくと思います。EcoVadisは様々な企業がサプライチェーンにおけるリスクを特定し、管理することをサポートしていきます。
アジア全体でESGに取り組む企業は増加傾向にありますが、日本のこの数年での取り組みは目立っています。これに伴い、EcoVadis自身も、日本オフィスの人員が既に50名以上となっており、更に増やす計画です。
日経BPコンサルティング
サステナビリティ本部コンサルティング部
戸井田 むつみ
日経BPコンサルティングでは、企業のESG開示に関するアドバイザリーを行っていますが、ここ1~2年でEcoVadis対応に関する相談を頂く機会が急激に増えています。EcoVadisが顧客評価において重要視していることは何でしょうか。
ボーン EcoVadisのソリューションの特徴は、AIとサステナビリティ分野に特化したチームを組み合わせていることです。EcoVadisは第三者によるサプライヤーの分析を重要視しています。セルフ・アセスメントやAIによるデータ収集だけでは十分でなく、評価対象の組織で実際に何が起きているのかということを第三者の目を通して検証することは非常に重要です。
EcoVadisに取り組みを的確に評価されるためのポイントの1つは、まずは評価を受審し、改善すべき点を把握することです。評価されることの目的の1つは透明性の担保であり、再評価を重ねることでサステナビリティにおける自社の取り組みがどの程度進んでいるのかを見える化することにあります。
当初のスコアが想定よりも低い場合であっても、再評価を続け、課題を理解していくにつれ、スコアが上がる企業も多くあります。EcoVadisでは、課題の理解を促進するためeラーニングやウェビナーを用意しています。また、EcoVadisのアナリスト・チームと対話をすることで、実際に3分の2の企業はスコアが改善することをデータが示しています。
また、EcoVadisでは、企業がどのように評価されるかを分かりやすく説明するために、スコアカードを発行しています。これは、企業ごとにカスタマイズされるものです。このスコアの結果を見て、理解を深め準備していくことが鍵となります。
EcoVadisの普及が目覚ましい中、サプライチェーン管理のプラットフォームを提供する企業は他にも出てきています。このような中でEcoVadisは今後、どのように活動を展開していくのでしょうか。
ボーン 私がEcoVadisに在籍している15年間に、サプライチェーン管理への世間の関心は大きく変化し、それに伴い新たな企業が台頭しそれぞれ異なるソリューションを提供しています。ソリューションの種類が増えるということは、コラボレーション(協働)を行う機会も増えるということでもあります。私は、同業他社に当たる企業も皆、活動の目的は同じであると理解しています。このため、必ずしも他社を競合相手としては見ておらず、コラボレーションも可能であると考えています。将来的に、開示や評価を簡略化しようというイノベーションを活性化させることにもつながります。
例えば近年ではAIの活用が活発です。EcoVadisは数年前、あるドイツ企業を買収し、企業のウェブサイトをスキャンして自動的にESGに関する開示を入手するというAI技術の開発を行っています。サプライチェーン上のリスク分析を行いリスク・マッピングを行うIQ Plusもあります。AI技術を使用し、サプライヤー情報をスキャンすることで、数千ものサプライヤーを素早く評価することができます。
このように、EcoVadisは2007年の創業時からサプライチェーン管理の方法を簡略化する方法を模索する企業や、取り組み状況を評価される側の企業へ向けて、課題の解決のため可能な限りコラボレーションを行い、対話を続けメッセージを発信してきました。
世界のサプライチェーン管理は今後、どのようになっていくでしょうか。
ボーン EUやアメリカでは、デューデリジェンスの実施や報告書の開示の義務化に向けて大きな変化が起きています。必然的にこの動きはアジアや日本にも波及していくでしょう。EcoVadisのネットワークインパクトレポートでもご紹介している通り、過去17年間にも企業はESGと透明性への取り組みを高めてきました 。更に、デューデリジェンスが義務化されることで、企業の取り組みの透明化が進んでいます。早い段階から取り組みを進めていた企業ほど、進捗も早くなり、ハードルの高い法規制にも対応が可能となります。
今後、サプライチェーン管理のトレンドは、更に踏み込んだデューデリジェンスを必要とするでしょう。EcoVadisは企業を支援し、より持続可能な世界へと導くような存在でありたいと思っています。
連載:EcoVadisに聞く
- サプライチェーンのサステナビリティリスク管理の最前線とは
- 日本企業に必要なサプライチェーンのサステナビリティリスク管理とは
サステナビリティ本部コンサルティング部
戸井田 むつみ
アナリストとしてCDPの回答支援、FTSEなどESG評価対応支援を始めとする非財務アドバイザリーを担当。製造メーカー、不動産、金融機関などのアドバイザリーに携わる。
※肩書きは記事公開時点のものです。
サステナビリティ本部コンサルティング部
西尾 理紗
アナリストとしてCDP、FTSEなどESG評価のスコアアップ支援を始めとする非財務情報開示アドバイザリーを担当。ESGデータブックやサステナビリティレポート等の発行物制作にも携わる。
※肩書きは記事公開時点のものです。